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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)41号 決定 1961年4月11日

抗告人 遊田勇

主文

原決定をいずれも取り消す。

本件競落をいずれも許さない。

抗告費用は債権者辰己匠の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

原審記録によると、原裁判所は昭和三〇年一一月二一日鑑定人寺口正平が同年一〇月一八日評価した評価額に基いて別紙目録記載(一)の土地の最低競売価額を三万八四〇〇円と定め、同目録(二)の建物の最低競売価額を一三万七〇〇〇円と定めたが、奈良簡易裁判所昭和三〇年(ノ)第六七号調停申立事件の係属に伴つてされた同裁判所の昭和三〇年一一月二六日付競売停止決定に基いて、本件競売手続が停止され、その後右調停手続終了に伴つて右停止決定は失効し、さらに同簡易裁判所昭和三一年(ト)第二〇号不動産仮処分申請事件の昭和三一年四月一六日付仮処分決定に基いて本件競売手続が停止されたが、その後右停止決定が失効したので、原裁判所は昭和三五年一二月五日に昭和三六年一月一七日午前一〇時の競売期日、同月二三日午前一〇時の競落期日を指定し、昭和三五年一二月六日に前示最低競売価額の掲載された公告がなされた。そして右競落期日に最高価競売価格六万二五〇〇円で別紙目録(一)に対する競落許可決定が言い渡され、かつ同価格三一万一五〇〇円で、同目録(二)に対する競落許可決定が言い渡されたことが認められる。思うに競売裁判所が不動産を競売に付する前に鑑定人に命じて目的不動産の評価をさせ、その評価額をもつて最低競売価額とする(競売法二八条)のは、不動産の公正妥当な価額を維持し不当に安価に競落されることを防ぐことを目的とするものである。裁判所が鑑定人の評価による評価額を妥当と認めて採用するかどうかは裁判所の自由裁量によるものであるけれども、その評価額が著しく低く利害関係人に不当な損害を与えることが明白である場合は、裁判所は再度鑑定人に評価させたうえ公正妥当な最低競売価額を定めなければならない。さらに競売法二八条の立法趣旨に照らすと、一たん公正妥当な最低競売価額が定められたとしても、競売手続の進行が遅れ、競売期日までの間に経済事情等の変動があつて不動産の価額が著しく高騰したため、さきに定めた最低競売価額をもつて競落を許すことが社会通念上不相当と思われるような事態が生じ、競売の公正を期することができないと認められるときは、裁判所は再度鑑定人に評価を命じたうえ、最低競売価額を改定しなければならない。もし裁判所が再度評価をさせないで著しく低いことが明白な、従前の最低競売価額をそのまま競売期日の公告に掲載するときは、適法な最低競売価額の公告(同法二九条一項民訴法六五八条六号)が行われたものということはできない。これを本件について考えてみるに、前示のように本件土地、建物の最低競売価額が定められたのは昭和三〇年一一月二一日、競売期日の公告のあつたのは昭和三五年一二月六日本件各競落許可決定が言い渡されたのは昭和三六年一月二三日であつて、右最低競売価額が定められた昭和三〇年一一月二一日から本件各競落許可決定が言い渡された昭和三五年一二月六日までの間に、一般に不動産の価額が著しく高騰したことは公知の事実であり、したがつて、奈良市内にある本件不動産の価額もその間に著しく高騰したことは明白であるといわねばならない。してみると、前示最低競売価額をそのまま掲載した公告は、適法な最低競売価額のないものであつて、それは競売法三二条二項民訴法六七二条四号に定める競落の許可についての異議の原因にあたるものであり、競落を許された競買価額が公正妥当なものであつたことを認めることはできないから、その結果抗告人は損失を被るおそれが十分あるものといわねばならない。

そうすると、本件抗告は理由があるから、民訴法四一四条三八六条九六条八九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 熊野啓五郎 山内敏彦 日野達蔵)

目録

<省略>

抗告の趣旨

本件競落許可決定はこれを取消すとの御決定を求める。

抗告の理由

一、本件競売物件の評価書は昭和三十年十月七日付で奈良地方裁判所執行吏寺口正平作成にかゝるものであるが、経済変動のはげしい現在にあつた五年に近い歳月をへた今日右物件を再評価する手続を怠り右評価を基準としてなされた競売により競落人らに対してそのままに許可決定がなされた事は重大な手続上の誤りを犯しているのである。

一、猶詳細は追て理由書をもつて述べるが抗告の趣旨の如き御判断を求めます。

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