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大阪高等裁判所 昭和37年(く)109号 決定 1962年11月30日

少年 A(昭二二・一・二四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、記録にある申立人両名作成の抗告申立書及び附添人柳瀬宏作成の抗告理由補充申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

一、法令違反の主張について

論旨は、原決定には「その家庭は少年に対する適切な監護能力を有せず(母は覚せい剤取締法違反の前科を兄は強姦の前科をそれぞれ有する状態である)」との記載がある。しかし、家族に前科があることを処分を決める資料とするのは、法の下における平等を保障する憲法一四条に違反する、というのである。

そこで、原決定書を見ると、そこには、少年に対する処分を決めるに際して主として考慮した事項の一つとして所論摘記のとおりの記載のあることは明らかである。しかしながら、原裁判所は少年の母及び兄に右の如き前科があることをもつて単にその家庭が少年に対する適切な監護能力を欠くことの判断資料としたのに過ぎず、右家族の前科を直接少年に対する処遇決定の資料としたのでないことは、その表現の形式、位置に照らし明らかに認められるのみならず、このように家族(特に直接少年の監護にあたるべき母や兄)に前科があるかどうかを、少年に対する処遇決定の最も重要な事情の一つである家庭の監護能力の有無を判断する資料の一つとすることは、むしろ合理的であり、非行少年に対する適切妥当な処遇方法を発見するための当然の措置であつて、これを目して憲法一四条に違反するということはできないから、論旨は理由がない。

二、処分不当の主張について

所論を考慮しつつ記録を調査するのに、本件非行の内容は、少年は他の同年配の者六名と共謀して一五才の少女一名を空地に誘い込み共同して同女を強姦した(原決定摘示事実の第2)ほか、同年配の者一名と共同して他校の中学生二名に暴行を加えた(原決定摘示事実の第1)というのであり、特に右第2の非行はいわゆる輪姦にかかるものであつて甚だ悪質であるのみならず、右両非行のいずれにおいても被告人は他の共犯者らに比し最も積極的、主導的であつたこと、少年はさきに窃盗及び傷害の非行により保護観察処分に付せられたのに、さらに本件第2の非行をあえてしたものであつて、その間保護観察に付されていた期間は三ヵ月余でまだその効果を十分には期待し得ないにしても、なお少年の非行性は深化の一途をたどつていることがうかがわれること、少年の交友関係は不良であるばかりではなく、むしろ少年自身がその友人を不良化させる原動力となつていること(このことは特に本件両非行の共犯者であるH少年との交友関係において顕著である)、又少年の資質面をみると、そこにはかなりの性格的偏倚が見られ、かつ意思も薄弱であることが認められる。他方少年に対する保護環境をみると、少年の父母や兄ならびに学校の先生らに少年を保護善導しようとの意欲のあることはこれを認めるにやぶさかではないが、しかし、その家庭関係について言えば少年に対する従来の保護指導状況等から見てその監護能力に疑いを抱かざるを得ないし、学校関係においてはその監護能力には限度があることは自明の理である。以上の事情に照らすと、少年を健全に保護育成するには、この際少年を施設に収容し、規律のある生活のもとに矯正保護を施し、あわせてその施設において義務教育を完了させるのが最も適切妥当な措置であると考えられる。従つて、少年を初等少年院へ送致する旨の決定をした原裁判所の処分は相当であるのみならず、共犯少年らに対する処分と比較しても均衡を失するものとは考えられないから(非行性の濃度保護環境等において少年と共犯少年らとの間に差異のあることは記録上明白である)、論旨は理由がない。

以上の次第で、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松村寿傳夫 裁判官 河村澄夫 裁判官 日野達蔵)

別紙一

抗告申立書

右少年に対し大阪家庭裁判所が昭和三七年一一月二日為した少年院に送致する決定は不服であるから抗告を申立ます。

抗告の趣旨

少年は中学在学中で教官も保護司も健全な育成及び性格の矯正に付き責任を持つ旨言明しており、他の共同行為者がいずれも試験観察に付せられたのに比して原決定の処分は著しく不当である。

昭和三七年一一月七日

右保護者法定代理人

○○○次郎

○○○栄子

大阪高等裁判所 御中

抗告理由補充申立書

右者に対し大阪家庭裁判所が昭和三七年一一月二日為した少年院に送致する決定に対し、抗告の理由を左の通り補充する。

抗告の趣旨

原決定を取消す、

本件を家庭裁判所に差戻す、

との御裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定に影響を及ばす法令(憲法)違反がある。

原決定の終りには「その家庭は少年に対する適切な監護能力を有せず(母は覚せい剤取締法違反の前科を兄は強姦の前科をそれぞれ有する状態である)」とある。

然し家族に前科があることで、処分を決定されるのは全く前近代的な考え方であつて憲法第一四条「すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的又は社会的関係において差別されない」に違反する。

二、少年院に送致する処分は著しく不当である。

(一) 原決定にも「第一の事実に付いては動機についてやや同情すべきものがある如くであるが」とあるように在学中の○○十中の下級生から恐喝したりした他校生が十中の附近に来たので「俺の学校に来るな」と互に激昂した上のことで全く学校の下級生をかばうための防衛行為であつて同少年位の年令の頃には有勝の事で取立てて云うべき事実ではない。

むしろ素朴な愛校心に発したもので侠気ある性格的素質が窺えるのである。

次に決定には「本件後Nの反撃をおそれてTに応援方を依頼し同人等が兇器を準備して集合した事件の発端をなしたことを併せ考えればこれもまた少年の非行性の発現として軽視し得ないものを含むといわねばならず」とあるが、反撃をおそれて応援を依頼したことは自分の力不足を感じた場合当然の事であつて、兇器を準備して集合したのは依頼を受けたものが自らの判断で為したことであつて、毫もA少年に責任のあることではない。

之を以て同少年の非行性の発現と云うのは全く論理の飛躍である。

(二)1、第二の事実に付いては保護観察中に夜遊び不良交友に起因して発生したものとあるが、審判調書の保護者の陳述要領(父)にも「私の方も前の事件以来充分注意しまして外へ出す時は必ず兄と一緒に出すようにし昼間も学校から帰る時間もよくわかつていますから、帰るのがおそければ、やかましくいいまたそのあとは出来るだけ外へは出さないようしていました」

「2、たまたま今度の強姦をやりました日はさきいいました兄が一寸留守にしていました日でしたとあるように常に夜遊びしていたものではなく、此の日に限つた出来事である。

2、被害者もその調書によればA外二名はその名も知つており知合の仲で、同女自身父に叱られ家出して夜うろうろしており、前にも強姦の被害あり、肉体関係を知つており六中も退学していた不良性を有する少女である。

従つて雙方の供述を綜合すれば学校でAの友人等にもその対象として挙げられていたものが、偶々同夜出会つた事が端緒となつたもので、Aが知つていたので主動的立場になつたが、同女としてはA等一両名であれば合意の上の交渉を持つたものを、偶々大勢が同行したので恐怖感を持つたものと考えられる。

3、従つて多勢集合して見知らぬ女を輪姦するケースとは異なり、むしろ終戦後若い者にあり勝なルーズな性行為であつて、暴行脅迫の点は単に同行者が多かつたので勢いそうなつたに過ぎないと考えられ、罪質は一般の強姦事件に比して軽微であると考えられる。

4、家族に前科があることを処分決定の理由にするのは既述の如く憲法の法の下の平等の原則に違反するのみならず、裁判所自体が行刑の効果を否定するものである。

5、仮りに之が成人の事件としても第一の事実は罰金刑、第二の事実は示談が成立しているので執行猶予然るべき事案である。

6、特に少年調査表中、調査官の意見中にも「最近は学校からの注意により、幾分看護を厳しくしている様子である」とあるように、家庭環境も調整せられ、原決定以後に保護観察中の成績も良好なる旨保護司も証明書を提出し、被害者の親権者たる告訴人も宥恕の意思表示を為し、学校長、PTA会長、教頭、生活指導主任、担任教官が連署して同少年の健全な育成の為帰校を歎願しているのは充分将来の保護監督に責任を持つものと考えられる。

申す迄もなく中学は義務教育であり、普通中学を卒業するか否かは少年の将来に計り知ることの出来ない影響を及ぼすものである。

7、保護者もなく就学もしておらない少年なら兎も角父母兄も健在で、家庭も相当使用人も使つて営業をなして経済的にも恵まれており、且つ環境も近鉄奈良線○○駅南方約二丁位付近は住宅地で、一般的環境は普通である。(少年調査表近隣交友関係)

少年の非行も恐喝、窃盗、暴行、強姦と非行歴があるが、同一犯罪ではなく、少年院でなければ矯正できない程非行に順致したものと考えられないのに敢て生木を裂いて少年院に送致することはむしろ少年を将来拭うことの出来ない暗い立場に追いやることになるので、特別の御詮議を以て原決定を破棄せられ度く本申立に及んだ次第である。

昭和三七年一一月二一日

右附添人弁護士

柳瀬宏

大阪高等裁判所 御中

別紙二

原審の決定(大阪家裁 昭三七・一一・二決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一、非行事家

別紙のとおり

二、適用法条

第一の事実につき、暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項

第二の事実につき、刑法第六〇条、第一八一条、第一七七条前段

三、処分の理由

少年にかかわる少年調査票、大阪少年鑑別所鑑別結果通知書を併せ考えると少年の健全なる育成を期するためにはその性格、これまでの行状、環境の状況等に鑑み初等少年院に収容して指導訓練を施すのを相当と思料する。よつて少年法第二四条第一項第三号により主文のとおり決定する。(裁判官 丸山忠三)

別  紙

非行事実、および処分決定に際し主として考慮した事項、

少年は、

第一、かねてより、△△市立第○中学在学中のN(一四才)、K(一三才)等が、少年の在籍する○○市立第十中学校付近を徘徊し、時には前記第十中学校の下級生から金品を喝取する等の所為に出ることを聞知し、苦々しく思つていた者であるが、昭和三七年四月二四日、Hと共に下校途上前記第十中学校付近路上において、前記N等に逢い、「俺の学校に来るな」等とことばを交すうちに、五に激昂し、ことに、少年は前記Hと共同して、前記N、Kの両名に対し、その顔面を手拳で殴つて、暴行を加え、

上記第一の事実は発覚しないままで、別件の窃盗、傷害の事実につき、昭和三七年六月一二日、当裁判所において、大阪保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受けたのであるが、

第二、上記決定により保護観察中の昭和三七年九月二七日、B、H(いずれも、本日試験観察決定)外四名と共謀のうえ、夜店見物中の○井○子を、○○市○○西一六八番地先空地に誘いこみ、全員共同して同女の手足等を押えつけてその反抗を抑圧し、少年および、Hにおいて強いて同女を姦淫したが、その際前記暴行により同女に加療五日間を要する右肘部挫傷の傷害を与え

たものである。

上記第一の事実は、その動機において、やや同情すべきものがある如くであるが、一方、少年の当時の行状、更に、本件後、Nの反撃をおそれて、Tに応援方を依頼し、同人等が兇器を準備して集合した事件の発端をなしたことを併せ考えれば、これもまた、少年の非行性の発現として軽視し得ないものを含むといわねばならず、第二の事実については、予めの共謀によるものと見ることはできないけれども、保護観察中に、夜遊び、不良交友に起因して発生したものであり、その罪質より見るも、少年に対する保護処分決定について重大な意義を有するものといわねばならない。

少年の非行性は、かように深化の度を進めているのであるが、その家庭は、少年に対する適切な監護能力を有せず、(母は覚せい剤取締法違反の前科を、兄は強姦等の前科を、それぞれ有する状態である)、他に適当な私的社会資源も存在しない。

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