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大阪高等裁判所 昭和37年(く)48号 決定 1962年7月28日

少年 K(昭一七・一一・二九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原審の少年を昭和三九年六月二〇日を限度として中等少年院に戻して収容する旨の決定は不当であるから取り消されたいというのである。

よつて記録を精査するに、本件少年が昭和三六年六月一九日奈良少年院を仮退院した後の勤労意欲を欠如した遊惰な生活態度や行状、ことに犯罪者予防更生法によつて定められた仮退院者の遵守すべき事項の不遵守、昭和三七年五月一四日○野孝方に補導を委託されたにかかわらず同年六月一〇日受託者に無断で帰宅した後の行状、これまでの少年の非行歴、性格、家庭環境その他諸般の事情を参酌するときは原審が昭和三九年六月二〇日を限度として中等少年院に戻して収容する旨の決定をしたのは相当であつて不当な処分であるとは到底考えられない。本件抗告は理由がないので少年法第三三条第一項に則りこれを棄却することとして主文のとおり決定する。

(裁判長判事 児島謙二 判事 畠山成伸 判事 松浦秀寿)

別紙一

戻収容申請事件に対する家庭裁判所の決定(大阪家裁 昭三七・六・二一決定)

主文

少年を昭和三十九年六月二十日を限度として中等少年院に戻して収容する。

理由

一、(近畿地方更生保護委員会からの本件申請理由の要旨)

少年は昭和三十五年六月十三日大阪家庭裁判所において、中等少年院送致の決定を受けて奈良少年院に収容されたが、昭和三十六年六月二日近畿地方更生保護委員会の許可決定に基き、肩書住居地の父、○人○郎方を指定帰住地として同月十九日同少年院を仮退院し、爾来大阪保護観察所の保護観察下にあつたものであるが、仮退院中遵守すべき事項として定められた犯罪者予防更生法三十四条第二項各号の事項のうち、「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」「善行を保持すること。」「住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めること。」の各事項及び同法第三十一条第三項に基き定められた特別遵守事項のうち「二〇〇粁以上ある地に旅行し、又は二日をこえて住居をあけるときは前もつて保護観察を行う者の許可を受けること。」の後段「仕事をよりごのみせず早く就職してまじめに働くこと。」「保護司の指導に従い、何事も進んで相談すること。」の各事項を遵守せず昭和三十六年六月及び七月中は何等正業につかず無為徒食し、同年八月上旬頃より父の勤める大阪市西淀川区所在の○○鉄工所に雑役工として約一週間働いたが、工場の騒音がうるさいといつてやめ、同月十六日頃より○○東映のフィルム運搬の仕事に就いたがこれも一週間でやめ、九月中旬頃父兄と共に台風の跡始末の仕事に従事したが十日ほどで、仕事がきたなく格好が悪いといつてやめ、その後昭和三十七年一月頃まで徒食徒遊を続け、同月十二日頃より大阪市此花区○○町の△△組の世話で映画フイルム運搬員として保護観察を行う者に無断で住込就労し、この間大阪保護観察所から三回に亘つて呼出すもこれに応せず、パチンコ遊戯、映画見物などに耽り、小遣銭に窮しては母親に強要し、拒絶されると家の中の物を投げ又粗暴な言動に出る等の行状を繰返し、その都度母親から五〇〇円ないし一、〇〇〇円を入手、遊興生活を続けた。そして母親から小遣銭を入手できないときは、隣家から毛糸セーターを盗んで入質代金を費消したり(同年二月上旬頃)、病臥中の兄に対し暴言を吐いて追いかけまわし担当保護司の前で暴行を働こうとしたのでやむなくパトカーの出動を求めたこと等もあつて(同年四月二十日頃)、少年には保護観察を受ける意思がなく、到底保護観察による改善更生は期待できないからこの際少年院に戻して収容し、強力な矯正教育を施すと共に、その間環境調整を行い将来における更生の場を整備する必要があるので、本申請に及んだものである。

二、(当裁判所の判断)

本件少年調査記録編綴の各書面及び当審判廷における少年、保護者、保護観察官の各供述を総合すると少年は昭和三十六年六月奈良少年院を仮退院後、肩書住居地に帰住し、大阪保護観察所の保護観察下に入つたものであるがその後の経過は、ほぼ前記申請理由摘示のとおりであり就労した期間は比較的短く永続きしないものであつて、多くは無為徒食の生活に終始し貧窮にあえぐ家族から金銭を出させてはパチンコ遊技、映画見物等遊惰の裡に日を送り、小遣銭が得られないときは、家族に粗暴な言動に出たり隣家の干物を窃取する等し前記各遵守事項を遵守せず、保護観察を受ける意思もなく、保護観察所の呼出しにも応じない有様で、ために保護観察も殆ど不可能な状態にあつた。そこで本件申請がなされ、昭和三十七年五月十四日当裁判所において、少年を当家庭裁判所調査官本城英三の観察に付し併せて○野孝方に少年の補導を委託したのであるが、善行を保持すること一ヶ月足らずで、同年六月十日受託者に無断で帰宅しその後は家人から金銭を出させては夜遅くまで外出してパチンコ遊技に時をすごす等従前の無為徒食の生活にたちかえるに至つた。

このような少年の行動に、その性格、知能、過去の行動歴環境等を併せ考えると、少年を現状のままに置くときは、叙上の如き生活を反覆して、状況により罪に陥る虞が顕著であり、又その劣悪な環境に鑑みるときは、むしろ止むを得ずいま一度少年を少年院に戻して収容し、永続的な勤労意欲を養成すると共に規律正しい生活習慣を培う一方、その間転居等の方法により環境調査が適切に行われ将来少年のためによりよい更生の場が与えられなければならない。

そこで少年を昭和三十九年六月二十日を限度として中等少年院に戻して収容することとし、犯罪者予防更生法第四十三条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 内匠和彦)

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