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大阪高等裁判所 昭和37年(く)5号 決定 1962年2月09日

少年 S

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、記録に添附されている申立人両名名義の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、原裁判所は「少年を中等少年院に送致する。同裁判所が昭和三六年七月二一日になした少年を大阪保護観察所の保護観察に付する旨の保護処分はこれを取消す。」との決定をしたが、原決定には決定に影響を及ぼす法令の違反があり、重大な情状事実の誤認によつてその処分は著るしく不当であるから、原決定の取消を求めるというのである。

抗告趣意第一点、法令の違反の論旨について。

よつて少年保護事件記録並びに少年調査記録を調査すると、原裁判所が本件窃盗保護事件について、少年保護事件記録によつて少年が現行犯人として逮捕され、被害品が被害者に還付されたことを調査したこと、大阪少年鑑別所より鑑別結果の通知を受け担当保護司に電話照会をしてその回答を得たこと、少年調査官より本件非行の動機、家庭の保護能力その他少年審判規則第一一条所定の報告を受けたこと、審判期日には少年及び保護者である申立人両名の陳述を聴いた上、原決定を言い渡したことは記録に徴し明らかである。そして家庭裁判所が審判に当つて少年法、少年審判規則に従つて公正に懇切に職務を行うべきことは当然であつて、記録を精査検討しても原裁判所に所論のような少年法、少年審判規則の諸規定に違反して審判したと疑わしめるような点は認められない。所論は独自の見解に従つて原裁判所、保護司等の措置を非難攻撃するものであつて到底採用できない。論旨は理由がない。

抗告趣意第二点、処分の著るしい不当を理由とする論旨について。

よつて調査するに、少年はさきに昭和三十六年七月二十一日大阪家庭裁判所で住居侵入未遂保護事件によつて大阪保護観察所の保護観察に付され、相当期間保護司の指導監督を受けることになつたものであるが、右建造物侵入未遂事件に至るまでの間に、既に昭和三十四年九月頃から約半年間東京方面に家出したことがあり、更らに昭和三十五年八月初旬家出して○○の安宿、飯場を転々した末、前記の非行事件を起こしたものであること、右保護観察処分に付された後、担当保護司のもとへ一回出頭したのみであつて、右処分決定の五日後である昭和三十六年七月二十六日現金二、〇〇〇円を持つて家出し、前回同様飯場、安宿を転々した末、本件窃盗の非行事件を犯したものであつて、その間保護司に何の連絡もせず、保護者である申立人両名もまた保護司よりの再三の問合せに対しても事実を隠蔽して非協力的態度に終始したこと、少年は本件窃盗事件によつて現行犯として逮捕された後取調べの警察官、検察官更らに裁判官に対し、本籍、氏名、生年月日その他の身分関係を偽わり、その後大阪府警察本部鑑識課指紋検査によつて、偽名であることが判明したが、偽名された○田○なる者は他に実在していることが判明したこと、少年の家庭に対する愛着心、帰属心は極めて稀薄であつて、その生活態度は放縦、無軌道であり、家出、放浪癖、非行性は根強く益々発展、固定化の傾向にあつて、改悛、後悔の情が窺がわれず、保護者の保護能力も微弱であつて、少年の再犯の虞れが濃厚であることが充分窺がわれることなど諸般の事情を総合すると、所論の諸点について特に考慮を払つても、原裁判所が最早在宅保護では少年の更生は望めないものと認めて、少年を中等少年院に送致する決定をなし、併せて前記保護観察処分の継続中に新たに本件窃盗保護処分をしたため、先の保護観察処分を取消したのはやむを得ないところであつて、記録を精査しても原決定が所論のような著るしい不当な処分であるとは思われない。論旨は理由がない。

よつて本件抗告は理由ないものとして、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小田春雄 裁判官 石原武夫 裁判官 若木忠義)

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