大阪高等裁判所 昭和37年(く)75号 決定 1962年10月30日
少年 T(昭二一・六・二八生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の理由は、原決定には事実誤認、法令の違反があり、且つその処分が著しく不当である。すなわち、原決定認定の第二の非行は占有離脱物横領罪となつているが、これは誤りで、従つて刑法第二五四条の適用は違法である。又原決定は少年の非行は性癖化し、勤労意欲なく安易な生活を好み、気分変易的で家出をなし、その犯行たるや大胆計画的職業化し、不良と交遊し、家庭には適切な保護能力がない事実を認定しているが、少年の非行回数は相当回数に達するも、その手口たるや単純幼稚にして非行の悪質性は左程高度のものではなく、その性格的欠陥は智情意の未発達なる本少年の如き一六歳前後の年少者にはあり勝ちのことにして、少年の環境を変え、不良の交遊を遮断し、家庭内及び家庭外における監督保護を厳にすれば、少年の悪しき性格を矯正し得、且非行の再発を防止し得るので、少年を少年院に収容してまで強制的に矯正する必要はなく、却つて少年院内において悪影響をうける幾多の実例からみて、少年を少年院に送致することは少年にとり著しく不当な処分である。少年の非行に走つた最大の原因は、少年の家庭の経済的理由から、母が他人所有のホテルの管理人として同ホテルに住込み働き、別居していたため、母の少年に対する監護ができなかつたからである。これに気づき、一家全部が居住できる家を探し求め本年八月一〇日から川西市に居を移し、母も管理人を辞し、家事及び子供の監護養育に専念できることになり、一家が揃つて家庭生活を営むこととなつた。父は母の妹の主人堤宗一経営のモータープールの管理人として勤務し、本少年も帰宅を許された時には右モータープールの従業員として勤務することの快諾を右堤宗一から得ており、宗一、父ともども協力して少年の指導監督を期している。今までの居住地は環境は好ましくなく、且交友関係もよくなかつたが、環境のよい○○市に居を移し、不良少年との交遊を根絶せんことを計つているので、非行再発の虞もない。本少年も本件非行を深く反省し後悔している。少年鑑別所で教官の指示を素直に聞き、行動しており、特に著しき性格的な欠陥はない。就職先を探している間に小遣銭に窮し、非行をしたが、家出するまでには至つていない。以上の理由から、原決定の取消を求めるため本抗告に及んだと言うのである。
よつて一件記録を精査し案ずるに、原決定認定の非行事実のうちの第二の占有離脱物横領の点は、本件記録中の大阪家庭裁判所昭和三六年(少)第一三七〇七号の記録に編綴の栗山政夫の被害届及びT、Yの司法警察員に対する各供述調書によれば、本件の第一種原動機自転車カブ号がその所有者において盗難にあたつたのは昭和三六年一二月五日午後八時頃、大阪市西成区○○町××番地路上で、このカブ号を、同夜Yの住所である西成区○○町××番地附近路上に一人の男がおいて逃げたのをYは見かけたが、その後、そのままに置いてあるのをYと本少年Tが、二日後の原決定の日時同所より乗りまわしたことが認められ、原決定の占有離脱物横領罪の認定につき事実の誤認、法令の適用の誤はない。又原決定の認定する本少年の非行傾向は急速に強くなつて性癖化しており、勤労意欲が認められず、安易な生活を好み、気分易変的で家出の傾向も存すること、しかして本件非行は占有離脱物横領一件のほか、窃盗五一件、被害額も約四〇万円に相当し、その態様も大胆で計画的、職業的であり、且つ本件当時父友関係も悪く、家庭に適切な保護能力がなかつたことは記録上明らかである。なるほど、所論のとおり原決定後、少年方は住居を○○市に移し、その環境を調整し、少年の保護、監督を考慮していることが窺えないでもないが、しかし、前記非行性の強度化に徴すると、本少年に対しては在宅のままでは、最早その矯正は困難で、この際施設に収容し、その指導、監督の下に性格の矯正を計り、健全な育成を期するのが相当の措置と思料せられる。結局原決定は相当で本件抗告は理由なきものと言うべく、少年法第三三条一項、少年審判規則第五〇条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松本圭三 裁判官 三木良雄 裁判官 細江秀雄)