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大阪高等裁判所 昭和37年(く)92号 決定 1962年11月12日

少年 G(昭二一・一二・七生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、本件少年の父○上○は少年が精神異常者であると誤信していたので、少年院に収容するのが少年のために良いと思い、原裁判所にもそのように申し述べたのであるが、原決定後少年が収容された京都医療少年院の担当医師から聞いたところによると、少年は精神異常者ではなく全く健康体であるとのことであるから、原裁判所が精神異常者でない本少年を医療少年院へ送致する旨を決定したのは著しく不当であり、今後保護者が少年を手元に置いて愛情をもつて指導するのが相当であるから、再度の裁判を求めるというのである。

よつて本件少年保護事件記録及び少年調査記録を精査し、京都医療少年院長西村博が当裁判所に提出した「抗告の申立があつた少年に関する依頼書の回答」と題する書面を合わせ検討すると、本件少年の知能は新制田中B1式テストに依ればIQ52、ウェックスラーヴェルビュー成人用知能診断検査(個別法)によれば言語性IQ64、動作性IQ84、綜合IQ70であつて、綜合所見では魯鈍級精神薄弱と診断されていて、てんかん症の疑いもあり、少年には精神障害が認められる。そして少年の性格は小心で極端に意欲が乏しく、困難に遭遇するとたちまち逃避的無反応的行動により自我を防衛するが、劣等感が強いため頑固に自説に固執したり、沈黙を守るなどし、また緊張感が大で、緊張が高まると平素からしまりのない言語が特に不明瞭となつて意思の疎通が困難になり、行動も内閉的であるが一面衝動的な行動性をも有しており、生活環境に対する不適応も強いことが認められる。さらに少年の生活環境についてみると、父はかつて少年にきびしい躾をしたが少年はかえつて強情、反抗的となり、短気でしばしば暴行を振うので現在ではもて余しており、母は少年の反抗をおそれて放任し、兄弟も少年をのけ者にし、少年の学業成績は常に最下位に近く、学友との不協調、乱暴のため学校側も手を焼いていたという状況であつたため、少年は家庭内では厄介者扱いされて家族への親和性に乏しく、就職しても職場に適応できないというのが現状である。従つて昭和三七年六月以降四回にわたり勤め先や保護者のもとから無断で理由もなく家出して放浪し、このままでは将来罪を犯すおそれがあると認められる本件少年に対しては、速かに適切な保護の措置をとり、性格の矯正、わけてもその劣等感を除き緊張感を和らげ意欲を持たせて、能力相応の社会適応性を修得させることが必要と思われるが、前記の少年の精神障害の状況、生活環境その他の諸事情を考慮すると、この際少年を家族から分離し医療少年院に収容して医療的見地から生活指導を受けさせるのが相当と認められる。であるから原裁判所が本少年を医療少年院に送致する旨の決定をしたことは相当であつて、その処分が著しく不当であるとは到底認められない。

よつて本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 野間礼二)

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