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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1241号 判決 1967年6月22日

理由

一  (本件各手形金請求原因の判断)

被控訴人ら主張の請求原因事実中、控訴人が、(一)・(二)・(三)の各手形を振出したことは当事者間に争がなく、被控訴人ら提出の甲第一号証の一・二によれば、(一)・(二)の手形の形式上三友から池田を経て被控訴人神田にいたる各裏書が連続していることが認められ、反証がないから、同被控訴人は(一)・(二)の手形の適法な所持人であることが推認され、被控訴人大平が(三)の手形の適法な所持人であることは右争ない事実からして明らかでありその余の事実は、控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。

二  (控訴人の抗弁その一―被控訴人神田雅彦は(一)・(二)の手形の悪意の取得者であるか―の判断)

甲第一号証の一、二によれば(一)・(二)の手形の各第一裏書の被裏書人欄には相互信用金庫の記載が抹消された上株式会社池田洋紙店なる記載がなされていることが認められ、右事実と《証拠》を総合すると、控訴人主張の二の抗弁事実全部を認めることができる。(反対証拠排斥部分省略)

〔注。控訴人主張の二の抗弁は次の通り。

(一)  (一)・(二)の手形の受取人株式会社三友洋行(以下単に三友という)と控訴人および株式会社池田洋紙店(以下単に池田という)とはともに商取引関係のあつたものであるが、控訴人は昭和三六年三月三友の依頼で(一)・(二)の手形を融通手形としてこれを貸与、三友は、控訴人と、満期には責任を以てその支払をし控訴人にはその支払の責を負わせないとの特約をし、それを相互信用金庫に裏書し、その割引を受けた。

(二)  ところで、三友は昭和三六年三月中旬手形不渡を発表、整理をすることとなり営業を閉さした。しかし、整理中も三友は上記金庫との間においては、一部手形の支払もして来たものであり、且つ三友の同金庫に対する定期預金その他の預金の返還請求権と同金庫の三友に対する手形割引による債権の一切について差引計算をし、右計算は同年四、五月ごろ完了したので、(一)・(二)の手形はじめ数通の手形の返還を受けた。

(三)  したがつて、(一)・(二)の手形は当然三友が控訴人に返還すべきものである。

(四)  ところが、池田は前述のとおり、三友の取引先であつたが、三友に営業継続の見込のないことを知り進んでその整理を進言し、その整理に関与したものであるが、慾心をおこし、三友の代表者と協議し右(一)・(二)の手形の取立を策し、法律事務に経験のある被控訴人神田とも協議の上、三友が、さきに、上記金庫から(一)・(二)の手形の割引を受けるに際し上記金庫に対してした裏書の被裏書人欄の記載を池田と訂正した上、池田から被控訴人神田に裏書した形式をとり、同被控訴人が住友銀行にその取立をせしめたものである。

右協議には、被控訴人神田、池田洋紙店の専務取締役の外担当責任者海老原勉、三友の責任者が関与したものである。

(五)  以上の次第であるから、控訴人は被控訴人神田に対し(一)・(二)手形の支払義務はないものである。以上注終り〕

なお、(一)の手形金には端数があり、甲第一号証の一・二によれば(一)・(二)の各手形の左上欄外に「商手」なる記載と番号の記載の存することが認められるが、前示資料によつても、右端数のあるのは控訴人が三友に右手形を貸すについてその依頼申出によりその割引を受けるための便宜を考えてそのようにしたものであり、商手ならびに番号の記載は信用金庫においては商業手形として取扱いこれを割引したものであることが認められるから、上記事実は(一)・(二)の手形が融通手形であつたことの認定を妨げる事実となし得ない。ほかに、控訴人主張の二の抗弁事実の認定を左右する証拠はない。

以上の事実によると、(一)・(二)の手形は取引上一般に見る融通手形として振出され、融通者・振出人である控訴人と被融通者・受取人である三友との間において、三友が右手形によつて金融の目的を達したときは満期までに支払資金を供給するかまたは手形を回収して控訴人に返還する旨の合意をしたものであつて、控訴人が三友に再度金融を得るためこれを利用することを約定した等特別の事情の存することを認めうるなんらの資料もない本件においては、三友は一度金融の目的を達した後右手形を回収したときは、右合意に従つて、これを控訴人に返還する義務を負い、これを再び金融のため第三者に譲渡することは許されないところであり、この意味において右手形は融通手形としての性質を失うに至るのであつて、すなわち、振出人・融通者たる控訴人が対価の欠缺を理由として被融通者・受取人たる三友に対し手形金の支払を拒絶しうる関係が手形の取得者には承継されないとする融通手形の抗弁の非承継性はここに解除され、爾後の手形の取得者であつて右事実を知るものは悪意の取得者として手形金の支払を請求し得ないものと解するのが相当である。

ところで、三友は一旦相互信用金庫から(一)・(二)の手形の割引によつて金融の目的を達した後同金庫との債権債務の差引計算により右手形を回収したこと上示のとおりであるから、上記の合意にしたがつて、これを控訴人に返還すべき義務を負うにいたつたものであつて、再度これを金融の用に供することは許されず、ここにおいて右手形はすでに融通手形たる性質を失い手残り手形たる性質を有するに至つたものに他ならない。しかるに、その第一被裏書人池田ならびに第二被裏書人被控訴人神田が右事情を知悉の上その裏書を受けたものであること前認定のとおりであるから、同被控訴人は控訴人に対し(一)・(二)の手形金の支払を請求しうる限りでないといわねばならない。したがつて、その支払を求める同被控訴人の本訴請求は理由がないという他はない。

三  (控訴人の抗弁その二―被控訴人大平の(三)の手形金請求権は、相殺によつて消滅したか否かの判断)

(一)  (控訴人主張の自動手形債権の成立と控訴人の右債権を以てする相殺の意思表示の存在)

被控訴人大平が控訴人に対し控訴人主張の金三〇万円(乙第一号証)の手形を振出し控訴人が現にこれを所持していることは当事者間に争がなく、控訴人が満期に右手形を支払のため呈示したが支払を拒絶されたことは同被控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされ、控訴人が、昭和三八年三月二八日、その主張のとおり相殺の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。そして右相殺は裁判上なされたものなるのみならず金三〇万円の自動債権たる手形債権を以て金七万円の受動債権と対等額で相殺するものであるから自動債権たる手形(乙一)を交付する要のないのはいうまでもない。

(二)  (右債権は右相殺の意思表示前すでに弁済によつて消滅したか)

右事実を認めるに足る何の証拠もない。

(三)  (右債権は右相殺の意思表示前すでに代物弁済によつて消滅したか)

被控訴人大平は、はじめ、昭和三八年一二月一四日控訴人が同被控訴人主張のアルバム台紙等の動産を持ち帰りそのころ当事者がこれを以て右債権の代物弁済をしたと主張し、後、それは昭和三七年一二月一四日であると主張するにいたつたが、昭和三七年一二月一四日控訴人が同被控訴人から動産を持ち帰つた事実、したがつてまた、それについて代物弁済契約をした事実を認めうる証拠はどこにもなく、昭和三八年一二月一四日控訴人が同被控訴人からアルバム台紙等を持ち帰つたことは控訴人の認めるところであるが、控訴人はそのはるか前、同年三月二八日すでに右債権を自動債権とする相殺の意思表示をしたこと前示のとおりであつて、同年一二月一四日ごろにいたつてさらに右自動債権の代物弁済契約をするということはありうべからざるところといわねばならぬのみならず、又現にこれを締結したことを認めうるなんらの証拠もない。前上二の事実の認定に供した各証拠によると、控訴人の右動産持帰りの経緯は、控訴人主張のとおりであつて、右相殺の自動債権とは何のかかわりもないものであることが認められる。

(四)  そうすると、被控訴人大平の(三)の手形金債権は控訴人のした前示相殺によつて消滅に帰したものといわねばならない。したがつて右手形金の支払を求める同被控訴人の請求は失当という他はない。

四  (結び)

被控訴人両名の各請求の理由のないこと前示のとおりである。したがつてこれを棄却すべきであるにかかわらずこれを認容した原判決は相当でない。

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