大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1544号 判決 1965年11月29日

控訴人 久保田英雄

被控訴人 国 外二名

訴訟代理人 堀川嘉夫

主文

一、原判決中、控訴人の被控訴人国に対し大阪府知事のなす永小作権登記の回復登記手続の容認を求める請求について棄却をなした部分を取消す。

二、控訴人の右被控訴人国に対し大阪府知事のなす永小作権登記の回復登記手続の容認を求める訴を却下する。

三、控訴人の前記二の訴並びに後記四、五の新訴を除く部分に対する控訴を棄却する。

四、控訴人の新訴のうち

(1)  被控訴人八尾市農業委員会に対し買収計画、その公告、承認の無効確認を求める部分

(2)  被控訴人大阪府知事に対し売渡計画の承認、買収令書の交付、買収売渡の各登記属託行為、右各登記、永小作権登記抹消処分の無効農林省よりの売渡登記の抹消登記手続を求める部分

(3)  被控訴人国に対し、永小作権消去処分の無効確認、大阪府知事のなす買収売渡登記の抹消登記手続の容認を求める部分はいずれも却下する。

五、控訴人の新訴のうち被控訴人大阪府知事に対し売渡計画に対する訴願の裁決売渡通知書の発行交付の無効確認農林省名義の所有権取得登記の抹消登記、永小作権登記の回復手続を求める部分は棄却する。

六、訴訟費用は第一・二審とも控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、控訴人の本訴中(1) 被控訴人委員会に対し売渡計画の公告、承認の無効確認を求める部分、(2) 被控訴人知事に対し買収令書発行の無効確認を求める部分、(3) 被控訴人国に対し政府の買収・売渡の無効、永小作権の確認を求める部分に対する当裁判所の判断は、右部分についての原審の判断と同一であるから、原判決理由中右部分についての説示をここに引用する。

二、控訴人の被控訴人委員会に対し売渡計画異議却下決定の無効確認を求める訴は行政訴訟の対象となりかつ訴の利益があり適法ではあるがその請求は理由がないものと判断する。その理由とするところは、原判決理由二の本案の判断、すなわち、原判決九枚目裏六行目から同一〇枚目表二行目三字目までと同一であるから、ここに右理由説示を引用する。

三、控訴人の被控訴人国に対し府知事のなす永小作権登記の回復登記手続の容認を求める訴については、当審において被控訴人知事に対し永小作権登記の回復登記手続を求める以上、その請求どおり被控訴人国に対し容認を求めるものと解されるところ、右容認の判決がなされたとしても、その判決は不動産登記法第二七条にいう判決にあたらないから、控訴人は右判決により単独で右抹消登記の申請をすることができないし又右判決は被控訴人が抹消登記義務を負担することにつき既判力を生ずるものではない。したがつて右訴は当事者間の紛争解決になんら役立たずその利益を欠き不適法である。

四、控訴人が当審において拡張した訴のうち、

(1)  被控訴人委員会に対し無効確認を求める買収計画の公告、承認は行政訴訟の対象となる行政処分ではないから、右訴は、不適法である。又同被控訴人に対する買収計画の無効確認を求める訴は利益がなく、不適法である。すなわち、控訴人が本件土地の所有者でないことはその主張自体より明らかである。そして控訴人が本件地上に有すると主張する永小作権は自創法第一二条第一項により買収と同時に一旦消滅するが、同条第二項により政府の所有権取得と同時に従前の永小作権は右権利を有する者のために従前と同一条件で設定されたものとみなされるから、買収そのものによつては控訴人の権利はなんら侵害されることはない。控訴人としては売渡処分を争えば足りるから、右買収計画の無効確認を求める必要がないものといわなければならない。

(2)  被控訴人知事に対し無効確認を求める買収令書の交付は買収令書の発行と同様確認を求める利益がなく、売渡計画の承認は行政訴訟の対象となる行政処分でないから、右訴は不適法である。又各登記嘱託行為は、国民の権利義務に直接影響を及ぼすものではなく、又府知事が私法上の権利主体たる国の機関として、一般私人と同列の立場に立つてなしたものであるから、右嘱託行為は行政訴訟の対象とならないから、右無効確認を求める訴は不適法である。

そして不動産登記簿上に現出されている登記はその不動産に関する権利又は法律関係そのものではなく、又行政処分でもないから、確認訴訟の対象とはなり得ないので各登記の無効を求める訴は不適法である。又無効確認を求める永小作権登記抹消処分はその意味が明確ではないが、行政訴訟の対象となる行政処分とは考えられないから、右無効確認の訴は不適法であり、その求める永小作権登記の回復手続について判断すれば足りる。

次に売渡登記の抹消登記手続を求むべき相手方は売渡人であるから、右訴は当事者適格を欠き不適法である。

(3)  被控訴人国に対し無効確認を求める永小作権消去処分は、前同様その意味が明確ではないが、行政訴訟の対象となる行政処分とは考えられないから右無効確認の訴は不適法であり、その求める永小作権確認について判断すれば足りる。

又大阪府知事のなす買収売渡登記の抹消登記手続の容認を求める部分の不適法であることは三になした判断と同一である。

五、控訴人が当審において拡張した訴のうち、被控訴人知事に対し売渡通知書の発行交付の無効確認、永小作権登記の回復手続を求める部分については、当裁判所は理由がないものと判断する。その理由とするところ、原判決理由二の本案の判断、すなわち、原判決九枚目裏六行目から同一〇枚目表二行目三字目までと同一であるから、ここに右理由説示を引用する。

六、前記二において当裁判所は原審が不適法として却下した被控訴人委員会に対し売渡計画、異議却下決定の無効確認を求める訴は適法であると判断した。右のように第一審判決が訴を不適法として却下したが、控訴審において右訴を適法と認めた場合、控訴審が請求の当否につき審判することは事実審の審判が一審のみということになるから、民事訴訟法は第三八八条において控訴裁判所は事件を第一審裁判所に差戻すことを要する旨規定している。しかし第一審において右請求の当否につき仮定的に判断がなされている場合とか或いは右請求と社会的経済的目的を同じくする併合請求の当否について同一判決中に判断がなされている場合のように実質上の審判がなされ差戻さなくても審級の利益を失わないような特段の事由がある場合は、控訴審は右訴を差戻すことなく自ら審判することができるものと解するを相当とする。そして右訴が適法ではあるが請求が理由ないと判断した場合において被控訴人の独立控訴又は付帯控訴がないときは、民事訴訟法第三八五条の不利益変更の規定により、控訴棄却の判決をなすべきものである。(参照大審院昭和一五年八月三日判決集一九巻一六号一二八四頁、東京高等裁判所昭和三一年一月二六日判決下民集七巻一号一〇二頁)

ところで本件においては控訴人は被控訴人委員会に対する右訴については昭和二七年四月二九日訴を提起してから、第一審口頭弁論が終結した昭和三七年一一月二一日までの間の八回の口頭弁論期日、一二回の準備手続期日において右訴につき主張を明確にし立証することをなさず、かつ右訴に対する判決中には右訴と社会的経済的月的を同じくする被控訴人国に対する永小作権確認の請求の当否につき判断されているので、当裁判所は右訴につき自ら審判をなしうるものである。

七、よつて原判決中右と結論を異にする被控訴人国に対し大阪府知事のなす永小作権登記の回復登記手続の容認を求める請求についで棄却をなした部分を取消してこれを却下し、右部分並びに当審において拡張した訴を除く部分についての控訴を棄却し、控訴人が当審において拡張した訴中不適法な部分は却下し、右訴中理由のない部分については請求を棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤孝之 村瀬泰三 加納実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例