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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)911号 判決 1963年12月26日

控訴人 被告 大阪国税局長

訴訟代理人 水野裕一 外三名

被控訴人 原告 有限会社松宮封筒社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

被控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出採用認否は、控訴代理人に於て

「青色申告書の提出承認の取消は所轄税務署長のみがこれをなし得ることは法人税法施行規則第四一条の明文からも明らかであるが、この取消処分に対する審査請求に於て国税局長が同法第二五条第八項各号中の原処分庁と異る事由によつて右取消処分を維持した場合、原判決の如く、国税局長が権限なくして右承認取消という行政処分をなしたと認めるのは相当でない。

一、思うに、青色申告書提出承認制度は、法人税法に定める一定の帳簿書類を備え、かつ、複式簿記の原則に従つているときに限り、はじめてその法人の申請により承認されるものであるが、これは納税者の能力と誠意を信頼し、そのなした記帳申告を真正なものとして尊重し、これに基き所得額を算出し、課税の基礎となる最も重要な事実について、まず納税者の自主性、正確性を認めようとする趣旨に出でているからである。従つて一旦青色申告書提出の承認があれば、その承認が取消されるまでは、納税者と政府は承認を通じて租税申告について相互の信頼関係を形成しているものと解されるが、もし納税者側にその信頼関係を破壊するような徴候が現われた場合にはその信頼関係を終結させるのが相当で、これが青色申告書提出承認の取消制度であり、而してこのような信頼関係を破壊させる徴候を列挙定型化しているのが法人税法第二五条第八項各号であるから、このような制度の趣旨から考えるならば、右各号による承認取消は同一目的、同一手続、同一効果を有し、右各号の事由は相互に転換が認められる性質のもので、右各号による承認取消処分はそれぞれ独立した行政処分ではないと考えられる。

原判決は、(イ)税務署長の裁量による認定においては、法人税法第二五条第八項各号のいずれの場合であるかによりその結論を異にすることがあるのは当然である(基本通達にもそのことを前提とした定めがなされている)と判示し、又(ロ)最高裁判所昭和二八年一二月二八日言渡の判決を例示して、右各号はそれぞれ独立した行政処分でその間の転換は許されないものであると解したが、右見解は誤つている。何故ならば、右(イ)の判示は何等かの誤解にもとづくもので、法人税法は納税者と税務署長との間における青色申告書提出の承認という信頼関係を破壊する五つの場合をあげて、その場合においては税務署長の裁量によつてその事実があつたと認められる日にさかのぼつて前の承認を取消すことができるとしているのであるが、通達は、実務上の運営方針として右の各号に該当する事実の内、その甚だしい五つの場合(一、法人の記帳が複式簿記の方法によつていない場合 二、伝票、領収書、納品書その他の証憑書類の大部分を保存していない場合 三、二重帳簿を作成する等の方法により計画的に取引の一部を正規の帳簿に記載しなかつた場合 四、期限後申告を常習とする場合五、右に掲げる場合の外詐偽又は不正の行為により取引について真実の記載をしなかつた場合)を規定してこれに該当するときは原則として取消すものとしている。(法人税基本通達三三二参照)。けだし法人税に関する限りに於ては、法人は商法その他の法令の規定によつて相当厳格な記帳義務を課せられており、個人の営業の場合に比較して帳簿書類及び記帳能力に於て相当高い水準にあると考えられるので、同法第二五条第八項各号の場合にはいずれも、原則として承認を取消すものとしているのであり、右各号のおのおのの間に承認取消の基準の軽重があるわけではなく、道義的にみて非難されるか否かによつて取消基準を異にしている訳でもない。各号を等しく青色申告制度の指導育成をはかるための税務運営方針にもとづいて、取消条件の極度としているものであるから、判示の如く右各号のいずれかにより結論を異にするということはあり得ない。又右最高裁判所の判決並びに同裁判所昭和二九年一月一四日の判決の事案は自作農創設特別措置法第一項による法定買収と同条第五項各号による認定買収との間及び右第五項各号相互間の転換の許否の場合で、この各場合は農地の買収理由を異にし、自作農となるべき買受人に差異を生ずることがあり、更に認定買収の場合の認定行為はその目的物が右第五項各号所定のいずれの農地に該当するかによつてその結論を異にすることがあるから、農地委員会が買収計画を定めるについて勘案すべき内容を異にし、一の条項、号所定の農地としてたてられた買収計画を他の条項、号所定の農地としての買収計画と見ることは許されず、それぞれ独立の行政処分で、しかも、その間の転換は許されないとすべきである。最高裁判所の右判決も、かゝる見解のもとになされたものである。

以上、要するに、法人税法第二五条第八項各号による承認取消処分は、それぞれ各号毎に独立の行政処分を構成するものではなく、各号は承認取消という一箇の行政処分を正当づける理由にすぎず、従つて、右各号の一を理由として右承認取消処分をなしたが、後に右各号の内の他の号にあたるとして、右取消処分を維持しても何等新たな行政処分をなしたことにならぬ訳である。

二、ところで、税務署長のなした処分に対する審査請求は、常に納税者側からのみなされるという点に於て民事・刑事訴訟の上訴権と異り、又国税局長に新たな自判権限を明文上与えていない点に於ても訴訟の上訴審構造とは異つている。而して、およそ、本件の如く審査庁が原処分庁の一般監督行政庁である場合には明文がなくとも、行政の目的、組織、性格から原処分の取消、変更をなし得るところであるが、法人税法第三五条によれば、審査請求に対しては却下、棄却、一部取消、全部取消の各決定をなし得る旨の明文がおかれ、それ以外の事項については沈黙し、通達を以て「再調査の決定又は原処分より不利益な決定処分ができないことについて」(所通達六六二~六六四)、「審査決定が税務署長を拘束することについて」(所通達六七二、六七三)それぞれ規定されているに過ぎない。この他、解釈上、国税局長は原処分又は再審査の決定をなす時期迄に集められた証拠のみならず、審査決定をなす時期迄に集められた証拠をも併せて判断の資料とすることができ、又その判断時期は原処分当時の時点に立つてその後に集められた新しい証拠をも併せて原処分又は再審査の決定の当否を判断するものとされているのである。

以上のような規定と解釈からすると、租税に関する審査決定は続審ではなく事後審とみられるが、この事後審の構造のわく内で行われる国税局長の判断は不利益変更禁止の原則に反しない限りに於てその主文の当否でありその理由の当否は含まれないと解すべきで(この解釈は刑事訴訟法第三九六条等にもうかがわれるところである。)、即ち当事者の陳述した範囲に限られることなく、争の目的となつた処分の範囲内に於て新たな事実を判断し、証拠資料を集め、当事者の主張しない理由を以て決定することができるのである。

三、青色申告書提出承認の取消処分と法人税法第二五条第八項各号との関係についての前記一項の説明と国税局長のなす本件審査手続の構造と機能についての右二項の説明とから明らかなように、控訴人たる国税局長は本件原処分庁のなした青色申告書提出承認の取消処分の当否を判断するにつき、審査手続の段階に於て新たに証拠を集めてこれをも判断資料に供し、原処分のなされた時点に立つて、原処分庁の原処分をなした理由に拘束されることなく、右各号該当の有無を審理し、たとえ原処分庁認定理由が認められないとしても右各号の内の他の一に該当すると認められるときは原処分を維持すべく、この場合、何等控訴人が新たに右承認取消処分をなしたとみるべきではなく、又不利益変更禁止の原則に違背するものでもない。

四、仮りに、法人税法第二五条第八項各号を理由とする承認取消処分が、それぞれ独立の行政処分であり、従つて控訴人が原処分庁のなした右取消処分に対する審査決定に於て原処分庁と異る理由で右取消処分を維持し審査請求棄却の決定をなした場合新たな行政処分をなしたもので、かゝることは許されないとするならば、控訴人は原処分を取消し原処分庁に於て改めて法人税法第二五条第八項第一号により承認取消処分をすることとなつて、結果に於ては同一に帰する訳で、かゝる迂遠な手続をとるべきであるとすることは租税関係の大量性、回帰性を忘却したもので、かかる見解をとることは相当でない。(最高裁判所昭和三七年一二月二六日言渡判決最高裁判所判例集第一六巻第一二号二五五七頁、判例時報三二五号参照)

五、原判決は原処分庁のなした本件取消処分通知書には法人税法第二五条第八項第三号該当と理由附記がなされているが、右は同条第九項後段の規定の趣旨に反して不法である旨判示しているが、右第九項後段の法意は、一々その事実を摘示して同条第八項各号のいずれに該当するか詳細に理由を附記することを要求するものではない。国税の賦課徴収に関する処分は大量かつ回帰的なものであるがため、税務行政の特異性よりその迅速性を要求され、多数の納税者につき短期間に調査に当らねばならぬ税務当局として毎日の各取引につき一々順を追つて証拠をあげ具体的に事実を指摘することは事実上不可能といわなければならぬ。法が理由附記を求めている趣旨からすれば、取消通知書には右第八項各号の内の該当号を記載すれば十分であると解される。

六、以上控訴人のなした本件審査請求棄却決定は適法である。」

と述べ、

被控訴人に於て

「一、法人税法第二五条第八項各号による青色申告書提出承認取消処分はその各号毎に異る独立の行政処分であり、控訴人が原処分庁の採用した同項第三号の理由と異る同項第一号の理由に該当するとして被控訴人の審査請求を棄却したのは、権限のない処分をしたことにあたり(右取消処分は所轄税務署長の専権に属するから)、取消さるべきであるとした原判決は正当で、右各号毎に独立の行政処分が成立するものではないとの控訴人の主張は理由がない。

二、法人税法第三五条第五項第二、三号によると、審査の対象は審査の請求の目的となつた処分そのものである。本件について言えば、審査の対象は原処分が同法第二五条第八項第三号を理由としたことが正当であるかどうかであつて、その理由を第一号に転換したりしては、もはや、右第五項第二、三号によつて処理できないように規定されているのである。これと異る控訴人の主張は失当である。

三、控訴人は原処分庁のなした右第二五条第八項第三号による処分を控訴人に於て第一号の処分に転換することは、いずれにしても青色申告取消という処分には異らないから許されると主張するが、右転換は不利益変更処分にあたり許されない。不利益変更禁止の通達にある原処分に比しとあるのは変更した処分が原処分以上であつてはならぬというのであるから、原処分が生きていることが前提である。ところが本件の場合、控訴人は法人税法第二五条第八項第三号に該当しないとして原処分の違法を確認したわけであるから、原処分は既に死物に等しく、されば、不利益変更禁止の通達のいう原処分にあたらず、利益不利益の測定の基準とすることはあり得ない。即ち本事案処理にあたつては原処分は零とみなすべきであるから、原処分は同項第一号により維持できるとした本件審査決定が不利益処分にあたることは明白で、この点からも本件審査決定は違法である。

尚青色申告書提出承認の取消処分は右第八項各号のいずれかによるべく、右取消通知書にそのいずれの号によるかを附記しなければならぬと規定されているが(法人税法第二五条第九項)控訴人主張の如く、右各号間の転換を容認するとすれば、もはや、右附記を要求した規定は無意味となり、かゝる見解は採用できない。

四、本件青色申告書提出承認取消処分をなした原処分庁が右の取消処分をなすための資料としたものは、甲第三号証の第四頁二行から第五頁五行目までに記載している四項目に過ぎない。かかる貧弱な資料を以て脱税の烙印とも言える法人税法第二五条第八項第三号による本件取消処分をなした原処分庁の真意はこの一喝によつて往々思はぬ功をあげることが出来るからである。被控訴人がなした再調査請求に対して原処分庁の担当係官は右取消処分の非を認めざるを得ないにかかわらず何等の処置をとらず法定の三箇月の期間を徒過したため、審査請求がなされたものとみなされ、本件は大阪国税局に回付されてその所属の協議団の協議を経ることとなつたが、同協議団の担当係官は原処分庁である生野税務署に調査に赴き右原処分の資料をみたならば、その資料不十分で原処分が不法であることが即座に判断できた筈であるのに、何故か被控訴人会社事務所を訪れ、その経理を、本件審査請求の目的となつた処分の当否に関係のない箇所まで綿密に調査し、その結果、被控訴人会社の経理は原処分庁の認定した法人税法第二五条第八項第三号には該当しないが、同項第一号に該当するから(事実の有無はとにかくとして、原処分庁のとらない新たな事実を摘発したものである。)、結局青色申告書提出承認取消の原処分は相当であるとしたが、その際右協議団に於ては被控訴人に対して意見を述べる機会を与えず、更に又協議を中心として決定を下すべきであるのに、協議も全然せず担当係官の意見にまかせ、而して控訴人も右意見を容認して本件審査請求棄却の決定をなしたものである。

思うに、協議団は税について処分をした国家機関とその処分をうけた不服申立者との間に立つて、その処分の理由、資料を調査し、双方の意見をきき(協議団令第五条)、そのいずれの側にも偏せず、協議を中心として(所得税基本通達第六七一)厳正公平な審判をするため創設されたもので、決して不服申立をした納税者の経理を探索して不正を摘発する官庁ではない。されば、右協議団の前記行為は違法で、これによつた控訴人の本件審査決定をも違法ならしめるものである。

五、以上のとおり、控訴人の本件審査請求棄却の決定は違法で、右決定を取消した原判決は正当である。」

と述べた外は原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。(但し、原判決二枚表九行目「審査請求をみなされる」とあるのは「審査請求とみなされる」の誤りであると認められるので、ここにこれを訂正する。)

理由

被控訴会社が生野税務署長の管轄区域内で封筒製造業を営んでいること、生野税務署長が昭和三四年九月二五日付書面(甲第一号証)で被控訴会社の昭和三三年四月一日より昭和三四年三月三一日までの事業年度以後の青色申告書提出の承認を法人税法第二五条第八項第三号該当の理由で取消したこと、これに対して被控訴会社が同年一〇月二四日再調査請求書を同税務署長に提出したこと、右調査請求は同法第三五条第三項第二号により控訴人に対する審査請求があつたとみなされたこと、控訴人が昭和三五年五月一七日付で同法第二五条第八項第一号に該当するので生野税務署長のなした右承認取消処分は相当であるとして審査請求を棄却する旨の決定をしたことは当事者間に争がない。

被控訴人は、法人税法第二五条第八項各号による青色申告書提出承認取消処分はその各号毎に異る独立の行政処分であり、従つて控訴人が原処分庁である生野税務署の採用した同条第八項第三号の理由と異る同項第一号の理由に該当する事実があるとして原処分を維持し被控訴人の本件審査請求を棄却したのは、審査決定に名をかりて、元来所轄税務署長の専権に属するところの青色申告書提出承認の取消処分を控訴人自らなしたものと言うべきで、違法としてその取消されるべきであることは勿論であると主張し、これに対して、控訴人は、法人税法第二五条第八項各号による青色申告書提出承認取消は同一目的、同一手続、同一効果を有し、右各号の事由は相互に転換が認められる性質のもので、右各号による右承認取消処分はそれぞれ独立した行政処分とみるべきではなく、右各号は青色申告書提出承認の取消処分という一箇の行政処分を正当付ける理由に過ぎないから、従つて右各号の内の一にあたる事実があることを理由として右承認取消処分をなしたが、後に右各号の内の他の号にあたる事実があることを理由として右取消処分を維持しても何等新たな行政処分をしたことにならぬと主張する。

よつて考察するに、(1)法人税法第二五条第八項、同法施行規則第四一条によると法人税法第二五条第八項による青色申告書提出承認の取消処分は、当該法人の納税地の所轄税務署長の専権に属するものというべきところ、(2) 右第八項によると政府(同法施行規則第四一条によりここに政府とは所轄税務署長をさす。)は、青色申告書を提出することについて政府の承認を受けた法人について、左に掲げる事実があると認める場合においては、その事実があつたと認められる時までさかのぼつてその承認を取り消すことができる旨規定し、左に掲げる事実として同項第一号ないし第五号までの事由をかかげており、而して法人税基本通達三三二によると、青色申告書の承認は法第二五条第八項各号に該当する場合には取消すことができることとなつているが、次に該当する場合においては原則としてその承認を取消すものとするとして控訴人主張のとおりの一ないし五項目をかかげているのである。これによつてみると、法人税法第二五条第八項各号に該当する事実がある場合青色申告書提出承認を取消すべきか否かについて同法は税務署長に合理的な範囲内に於て裁量権を与えているもので、而して右通達がこの事を前提としていることは右通達が承認取消処分をなすべきであるとしてかかげている項目の内その一、二項目は法人税法第二五条第八項第一号に、その三、五項目は同条第八項第三号に、その四項目は同条第八項第四号にあたり、同条第八項第二号については右通達は触れておらないし、又原則としてその承認取消をなすべき云々とあつて取消すことを絶対的なものとしていない点から窺えるところがある。(尚右通達なるものは国家行政組織法第一四条第二項にもとづき法人税法運用に関して所轄の諸機関及び職員に対して指針を与えたもので、法に反しない限り右通達に従うべきことが要求されているに過ぎないのであるから、通達によつて法人税法第二五条第八項で与えられている税務署長の裁量権を剥奪するが如きことは許されない。)(3)法人税法第二五条第八項各号はそれぞれ各別に青色申告書提出承認取消処分を適法ならしめる実質的要件を規定し、しかもそれぞれ異る別個独立の事由を要件としており、かつ、同条第九項によると右取消処分は、その取消の基因となつた事実が右各号のいずれに該当するか附記した通知書を以て当該法人に通知しなければならないことになつていることにかんがみると、その各号のそれぞれを事由とする右取消処分はそれぞれ各別個の取消処分を構成するものというべく、従つて法人税法第三四条所定の再調査ないし同法第三五条所定の審査の請求の目的は、右通知書に記載せられた各号の一または二以上に該当する一または二以上の処分に限定せられる。右各号のそれぞれによる承認取消処分が同一目的、同一手続、同一効果を有するからといつて、右各号の事由は一個の右取消処分の内部にあつてこれを理由あらしめるに過ぎないとみるのは相当でない。蓋し青色申告法人は、その申告承認が取消されるという重大事態に対しては、その取消事由が各号の中のいずれに該当するかを明確に知らされ、これに対処する権利を持つのであつて、再調査請求や審査の段階で取消事由がみだりに取換えられるが如きことを容認する解釈は、取消事由の通知を必要とする前記法条の解釈に副わないものというべきである。(4) 税務署長が右各号の内の一にあたる事実があるとしてなした青色申告書提出承認取消処分に対する審査決定において、国税局長が右事実はないが他の号にあたる事実があるとして右承認取消処分を維持することは、無効行為の転換の法理適用の事例にもあたらない。蓋し、右取消処分は前記各号毎に別個の処分としての相互に共通しない実質的要件を備えており、又右処分は所轄税務署長の専権に属し、而して右取消処分をなすか否かはその裁量に委ねられ、かつ右取消処分をなすときは、その形式的要件として、取消の基因となつた事実が右各号のいずれに該当するか附記した通知書を以て取消を通知すべきこととされていることにかんがみると、右各号の内の一の事由による右取消処分が無効であるとき、これを右各号の他の号による取消処分に転換することは許されないと解すべきであるからである。

以上(1) ないし(4) の事由によると、国税局長が、当初税務署長が右各号の内の一にあたる事実があるとしてなした青色申告書提出承認取消処分に対する審査決定をなすに際して、税務署長の認定した右事実はないが、他の号にあたる事実があるとして右承認取消処分を維持しこれに対する審査請求を棄却することは、審査決定に名をかりて、国税局長が権限をもたない右承認取消処分を新たになしたことに帰着し、許されないと解するのを相当とする。

本件についてこれをみるに、所轄の生野税務署長が法人税法第二五条第八項第三号に該当する事実があるとして被控訴人の青色申告書提出承認の取消処分をなしたのに対して、控訴人はこれに対する審査決定に於て右事実の有無について応答することなく(尚、控訴人は本訴に於て右第三号該当事実の存在は主張しないと陳述した。)同項第一号に該当する事実があるから生野税務署長のなした右承認取消処分は相当であるとしてこれを維持したのであるから、その許されないことは前記説示のとおりである。控訴人は、かゝることが許されないとするならば控訴人は原処分を取消し原処分庁に於て改めて法人税法第二五条第八項第一号により承認取消処分をすることとなつて、結果に於ては同一に帰する訳で、かかる迂遠な手続をとるべきであるとすることは租税関係の大量性、回帰性を忘却したもので、かかる見解をとることは相当でないとして最高裁判所昭和三七年一二月二六日言渡判決(集第一六巻第一二号二五五七頁)を引用するが、右判決は本件には適切でなく、又控訴人の右見解を採ることは単なる便宜論にたやすく組する結果となつて賛成できない。

以上、控訴人の本件審査決定は、他の争点につき判断するまでもなく違法で取消を免れないから、その取消を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これと同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条に則りこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 裁判官 井上三郎)

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