大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1537号 判決 1970年11月09日

控訴人

宮原チカ

代理人

松井昌次

被控訴人

みやま有限会社

代理人

西中務

被控訴補助参加人

丸野八郎

代理人

山口吉美

主文

原判決をつぎのとおり変更する。控訴人の第一次請求を棄却する。予備的請求にもとづき、昭和三七年一〇月三一日午後一時から開催された被控訴会社の社員総会における代表取締役たる取締役宮原チカを解任する旨の決議を取り消す。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、参加によつて生じた分を被控訴補助参加人のその余を被控訴人の各負担とする。

事実

一  控訴代理人は、(一)原判決を取り消す、(二)第一次請求として、昭和三七年一〇月三一日午後一時から開催された被控訴会社の社員総会における代表取締役たる取締役宮原チカを解任する旨の決議の不存在であることを確認する、(三)予備的請求として、右決議を取り消す、(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求めた。

二  被控訴代理人は、請求の原因として、つぎのとおり陳述した。

(一)被控訴会社は、昭和三二年七月五日に設立され、その当時の社員は、持分五〇口を有する丸野道子、持分五〇口を有する丸野夏子、持分五〇〇口を有する丸野八郎(被控訴補助参加人)、持分五〇口を有する控訴人、持分五〇口を有する宮原静の五人であつたが、控訴人は、設立当時から被控訴会社の代表取締役であつた。

(二)  被控訴会社の社員丸野八郎・丸野夏子・丸野道子は、代表取締役たる取締役の控訴人の解任を求めるための社員総会招集の許可を裁判所に申請し、昭和三七年一〇月二二日、その許可を受けた。そして、丸野八郎以下右三名は、同日、被控訴会社の各社員に対し、控訴人を解任することを目的とする社員総会を同月三一日午後一時大阪市東淀川区十三西之町三丁目一七番地丸野四郎方で開催する旨の通知をした。

(三)  丸野道子は、被控訴会社の取締役として、昭和三七年一〇月三一日午後一時からの被控訴会社社員総会で控訴人を解任する決議がされたとの議事録を作成し、同日、右解任を事由とする変更登記を申請し、同年一一月七日、その旨の変更登記がされてしまつた。

(四)  しかしながら、本件社員総会の経過はつぎのとおりであり、右のような決議は、全然成立していない。

本件社員総会に出席した者は、丸野八郎・丸野夏子・丸野道子・控訴人・訴外大高和男の五名であつたが、大高和男は宮原静の委任を受けていたので、その委任状を提出したところ、丸野側は、その委任状の印影が定款に押捺してあるのと違うという理由で、委任状の無効を唱えた。そこで、大高が印が違つても本人の自筆自署であるから委任状の効力には影響がないと述べたところ、丸野八郎もこれを了承して委任状を認め、ついで議事にはいり、まず議長選出ということとなつた。

ところで、控訴人は、右会日に先立つ同年一〇月一四日自己の持分五〇口を宮原静に譲渡し、その旨社員名簿にも記載されていたので、大高和男は、そのことを説明して宮原静が六〇〇口の持分を有する旨発表した。これに対し、丸野側は、採決すれば可否同数となり決議が不成立になることを予測して大いに驚き、ために議場は混乱状態となつた。そして、丸野八郎は、議長選任討論採決もないのに、「チカは解任された」と叫んで夏子・道子とともに議場を去つたので、本件社員総会はそのまま流会となつた。

このように、控訴人解任の決議はその外形的存在さえないものというべきであるが、たとえ右決議らしきものがあつたとしても、議決権の半数に当たる大高和男の代理権を無視し、議長を僣称し、反対派の議決権行使を封ずるなど、その成立態様に著しいかしがあり、法律的には決議不存在と評価しなければならない。

(五)  原判決は、本件総会決議にかしのあることを認めながら、これは取消事由にとどまると判示している。しかし、控訴人の決議不存在確認請求は、要するに決議の効力の否定宣言を求める趣旨にほかならず、取消訴訟としての出訴期間も遵守しているのであるから、原裁判所としては、決議取消しの判決をすべきであつたのである。

(六)  よつて、第一次請求として本件決議の不存在確認を求め、かしの程度が決議不存在と目されるほどのものでなければ、予備的請求として右決議取消しを求める。

三  被控訴代理人は、当審最終口頭弁論期日において、その従前の主張のうち控訴人の主張に反する部分をすべて撤回し、請求原因事実を全部認める、と陳述した。なお、被控訴人従前の主張は、原判決事実欄中に摘示されているとおりであるから、これを引用する。

被控訴補助参加人代理人は、被控訴人の右主張撤回および自白は不当かつ無効であると述べ、控訴代理人は、被控訴補助参加人の右陳述は、民事訴訟法第六九条第二項によりその効力がない、と述べた。

四  被控訴補助参加人代理人は、請求原因に対し、つぎのとおり述べた。

(一)  控訴人は、被控訴会社の代表取締役として会社運営につき数々の不正行為があり、他の社員の進言にも耳をかさなかつたので、被控訴補助参加人は、やむをえず裁判所の許可を得て、昭和三七年一〇月三一日、控訴人の取締役解任を目的とする社員総会を開催したのである。

(二)  右社員総会においては、控訴人解任方適法に決議され、その間になんらのかしもなかつた。

五  当事者双方の証拠の提出、援用および認否は、<略>

理由

一(本訴請求の範囲)控訴人は、当審で予備的に本件社員総会決議取消しを請求しているので、これをどのように扱うべきかが問題となる。そこでまず、この点から検討を始めることとする。

控訴人が、昭和三八年一月二六日原審裁判所に訴状を提出して本件社員総会決議不存在確認を求める訴え(事実欄摘示の第一次請求)を提起したことは、本件記録上明らかである。右訴状の請求原因欄第五項によれば、昭和三七年一〇月三一日午後一時から社員総会が開催されたにもかかわらず、議長選出の段階ですでに意見が対立し、訴外丸野八郎が、自ら議長と僣称して質疑も採決もないまま、控訴人の解任を唱えて一派の者とともに議場を去つた、というのである。そうすると、裁判所の事実認定や法律的評価のいかんによつては、まがりなりにも議長が選任され議事にはいり本件決議が成立し、ただその間に決議方法の著しい不公正というかしがあるにすぎない、と判断される可能性も十分に考えられる(現に本件原判決はこのような判断をしている)。

このように判断される場合には、決議は不存在とはいえず、取消原因があるにとどまるのであるが、控訴人が本訴で求めているところも、決議不存在確認の判決でなければならないというのではなく、決議取消しの判決を得ることができればそれで十分である、と解釈するのを相当とする。そうすると、取消事由があるにもかかわらず、控訴人の請求を不存在確認とのみ理解してこれを棄却してしまうのは、その意に添わないものといわなければならない。このように考えると、いわゆる「大は小を兼ねる」のたとえどおり、控訴人の本訴請求は、予備的に本件決議取消しの請求を含むものと解するのが妥当である。そしてまた、本件訴状は、決議の日である昭和三七年一〇月三一日から三カ月以内に提出されているから、出訴期間の点でも適法な訴えということができる。控訴人は、当審で本件社員総会決議取消しの請求を予備的に追加する旨申し立てているが、これは、右のように当初から決議取消請求が予備的に併合されているのを確認する意味で明らかにしたものと解すべきである。

本訴請求の範囲については、以上のような理解のうえに立つて、判断を進めることとする。

二(本件における補助参加の性格)被控訴人は、当審の最終口頭弁論期日において、被控訴人従前の主張に反する部分をすべて撤回したうえ、控訴人の請求原因事実をすべて認める旨陳述した。これに対し、被控訴補助参加人は、右被控訴人の主張撤回および自白は不当かつ無効であると主張し、控訴人のほうでは、被控訴補助参加人の右主張は、民事訴訟法第六九条第二項によりその効力がない旨反論している。そこで、この点につき以下検討を加えることとする。

前段で説示したように、本訴請求は、社員総会決議不存在確認請求と該決議取消請求とが予備的に併合されているのであるが、そのいずれについても、請求認容の判決は、第三者に対してもその効力を有するものと解すべきである(不存在確認判決については、最判昭和三八年八月八日民集一七巻六号八二三頁参照。また、決議取消判決に対世的効力があるのは、いうまでもない)。そして、成立に争いのない甲第三号証の三によれば、被控訴補助参加人は被控訴会社の社員であることが明らかで、右にいう判決の効力を受ける第三者であるから、その補助参加は、いわゆる共同訴訟的補助参加に該当する。したがつて、参加人は、民事訴訟法第六九条第二項の適用を受けることなく、必要的共同訴訟の場合に準じ同法第六二条を類推し、被参加人の訴訟行為に抵触する訴訟行為をすることも許される。そうすると、被参加人たる被控訴人が控訴人の請求原因事実を全部自白していても、参加人において本件社員総会決議にはかしがない旨主張して控訴人と対立抗争している以上、被控訴人の右自白は、参加人が争つている限度においてその本来の効力を生じないことになる。

三(本件社員総会の経過)そこで本案につき判断するに、まず控訴人主張の請求原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

つぎに、<証拠>を総合すると、つぎの各事実を認めることができる。

(一) 本件社員総会の会場には、丸野八郎、丸野夏子、丸野道子、控訴人および大高和男の五名が集合した。大高和男は、社員である宮原静から議決権行使の代理権を授与され、その旨の委任状を託されていたので、まずこれを提出したところ、総会を招集した丸野派三名(八郎・夏子・道子)は、委任状の判が違うといつて異議を唱えた。そこで大高は、本人(宮原静)の自筆自署である旨よく説明し、丸野派もその有効なことを承認し、議長の選出にはいつた。その段階で、大高が、控訴人から宮原静への持分譲渡により静の持分が丸野派と同数の六〇〇口となつた旨発表したところ、それでは決議不成立になることを予測した丸野派は、持分譲渡は認めないと言い出し、そのため、宮原派(控訴人と大高)との間に紛議を生じ、議場が混乱し収拾がつかなくなつてしまつた。

(二)  このような混乱のさなかで、総会招集者の一員である丸野八郎は、自ら議長と称して控訴人を解任する旨の議案を提出し、丸野派だけで採決し、同派三名の賛成を得るや、この議案は可決されたといつて急いで退場した。その間、大高和男に対しては、宮原静の議決権を代理行使する機会はもちろんのこと質疑応答の機会も与えなかつた。もつとも、大高や控訴人のほうでも、ただ流会を主張するばかりで、議案に対し積極的に意見を表明することはしなかつた。

前掲各証拠のうち右認定に反する部分は信用しがたく、また原審で被控訴会社代表者として尋問した丸野道子の供述も信用できず、ほかにはこの認定をくつがえすに足りる証拠はない。

四(本件総会決議のかし)以上当事者間に争いのない事実および当裁判所が認定した事実によれば、本件社員総会は、その招集通知が全社員に対し適法にされており、総会の席上でも一応議案が提出され、ともかくも採決がされているのであるから、社員総会の決議の外形すらなかつたとすることはできない。

しかしながら、本件の決議は、大高に対し委任状による議決権代理行使の機会や質疑応答の機会を与えないで、混乱のさなかに強行採決されたのであるから、もし右委任状による出席が有効であるならば、決議方法に著しい不公正があつたことになる。

そこで、右委任状による出席の効力について考えるに、前記認定のように、大高和男は、宮原静から議決権代理行使の委任状を託されて総会に出席し、総会招集者の丸野派から右委任状に対し疑義が出たため、静の自筆自署であることをよく説明し丸野派もこれを承認して議長選出にはいつたのであるから、委任状の真正なことについてはすでに一応の証明がされたものとみることができるし、総会としても、右委任状による出席を有効としたものということができる。したがつて、右委任状による出席は有効と解されるところ、議長選出をめぐつて紛糾してからは、丸野八郎は、混乱のさなかで丸野派だけでにわかに強行採決し、大高に発言の機会を与えなかつたのであるから、本件決議には、決議方法の著しい不公正というかしが存するものといわなければならない。大高や控訴人がただ流会を唱えるはかりで議案に対し意見を表明しなかつたことは前認定のとおりであるけれども、混乱のさなかであることを考えると、この事実によつて右の判断を動かすことはできない。

そのほか、<証拠>によれば、控訴人は、本件社員総会に先立つ昭和三七年一〇月一四日、自己の持分五〇口を宮原静に譲渡し、その結果、静の持分が合計六〇〇口となつたこと、そして、会日前すでに右の旨社員名簿に記載されていること、等の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。一方、丸野派三名の持分も合計六〇〇口で、大高が代表している宮原静の持分と同数であるから、丸野派三名の賛成では過半数に達せず、この点からしても、本件決議には、かしが存することになる。

本件決議は右の二点においてかしを帯びるのであるが、右にみてきた事実関係のもとでは、かしの程度はいまだ決議不存在と目するほどではなく、単に取消事由が存在するにとどまる。

五(むすび)以上のとおりであるから、本件社員総会決議の不存在確認を求める第一次請求は失当として棄却するが、右決議の取消しを求める予備的請求は、前示のように取消原因が認められるので、これを正当として認容する。

よつて、右と異なる原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条および第九四条を適用し、主文のとおり判決する。(村上喜夫 賀集唱 潮久郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例