大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1816号 判決 1965年3月24日

主文

原判決を取り消す。

控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文と同趣旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は左に附加する外は、すべて原判決事実記載と同一(ただし)、原判決四枚目裏一一行目「三四年」を「三三年」に訂正する。)であるから、これを引用する。

一、被控訴人の主張

本件の特別決議が定足数を欠いているのは、次の事実からも明らかである。すなわち控訴人は本件株主総会当日、委任状によつて代理人を出席させた株主が三名(議決権数合計三〇〇株)あつたと主張するが、当日そのような委任状が提出されたことにつき何人よりも発言がなく、またその確認手続も行われていない。

さらに右委任状のうち、一通の署名者である阿部俊次は、かりの株主で、その株式の払込は、桑原政義がしたものであり、桑原が阿部名義の株式に基づく権利を行使すべきであることは、出席者の全員が知つていたことであるから、桑原がした本件議案に反対の意思表示は、阿部俊次名義の株式による議決権行使の意味も含んでいたものと解さなければならない。

二、控訴人の主張

本件株主総会には、三株主の委任状による出席を含めて全株主一〇名が出席したものであつて、定足数に欠けるところはない。被控訴人の当審における右主張は否認する。

三、証拠関係(省略)

理由

一、控訴会社は昭和三一年三月二六日設立され、マツチの製造および販売ならびに右に附帯する一切の業務を目的とし、発行済株式一、〇〇〇株、一株の金額五〇〇円、資本の額五〇〇、〇〇〇円の株式会社であり、被控訴人が控訴会社の一〇〇株の株主であることは、当事者間に争いがない。

二、原審および当審証人木谷年弘の証言、原審における控訴会社代表者本人宮脇峯次の供述により真正に成立したと認められる乙第一号証によれば、控訴会社が昭和三三年五月一四日兵庫県姫路市延末所在姫路中央青果株式会社事務所において臨時株主総会を開催し、控訴会社の営業を譲渡する旨の決議をしたとの株主総会議事録が作成されていることが認められる。そこで、右決議に被控訴人主張のような瑕疵があるか否かを順次考察する。

(一)  請求原因第四項の決議が存在しないとの主張について。

(1)  について。

原審証人木谷年弘の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証に右証言、前掲控訴会社代表者本人の供述を総合すると、本件株主総会の招集は控訴会社の代表取締役宮脇峯次がしたもので、監査役木谷年弘は右招集の事実上の手続に関与したものにすぎないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

次に、前掲乙第二号証、前掲証人木谷年弘の証言、控訴会社代表者本人の供述、原審における証人桑原政義、大西重三郎、中塚常雄の各証言、被控訴人本人の供述を総合すると、書面による右総会の通知は、株主総数一〇名のうち、桑原政義、大西千代子、山口秀太郎、中塚常雄ら四名の株主にのみなされ、他の株主には口頭で招集通知をしたことが認められるのであるが、後記認定のとおり本件株主総会には株主一〇名中六名が出席し、欠席した四名はいずれも代理人を出席させて開催されたものである以上、右手続上の瑕疵によつて本件総会そのものが成立しえないと解すべきでない。

(2)  について。

前掲乙第一、第二号証、成立に争いのない乙第三ないし第六号証、甲第二号証に、原審および当審証人桑原政義、同中塚常雄、同木谷年弘、同小野昌延、証人大西重三郎、同木谷俊雄各証言の一部、原審および当審における被控訴人本人ならびに原審における控訴会社代表者本人の各供述の一部を総合すると、次の事実が認められる。

<1> 本件総会当時における控訴会社の株主は、桑原政義、山口秀太郎、大西千代子、木谷実、妻木徳男、阿部俊次、木谷年弘、中塚常雄、被控訴人宮脇幾次、宮脇峯次の一〇名で、各株主の持株は一〇〇株であり、右株主の大半は親族関係にあつた。

<2> 控訴会社は昭和三三年頃、赤字経営に苦しみ、そのうえ、政府の割当屯数を超過する製品を製造し、これに偽造証紙を貼布、出荷した不正行為が同年三月頃発覚して刑事訴追をうけたため、マツチ製造屯数の割当も取り消されるおそれが生じ営業の継続は不能となつた。そこで、控訴会社に対し金融上の関係から発言力をもつていた木谷俊雄、監査役の木谷年弘、代表取締役の宮脇峯次ら幹部は、その再建案として新役員による第二会社を設立して、これに控訴会社の営業およびマツチ製造割当屯数を譲渡し、第二会社において製造屯数の割当を受け、事業を継続して控訴会社の従業員の職場を確保することを計画し、その頃右計画を他の前記株主らに提示したが、そのうち桑原政義、山口秀太郎、大西千代子の三株主は右再建案に反対の立場をとり、他の株主らは右再建案に賛成する態度をとつていた。

<3> 同年四月二八日前記第二会社として三星燐寸株式会社(代表取締役木谷年弘)の設立登記をしたので、代表取締役宮脇峯次は右再建案を株主総会にはかるため、同日頃「今般の不祥事件により当会社の運営困難となり役員の責任或は営業の継続、廃止或はそれに伴う譲渡の対策決定の必要有り、来る五月一四日午前十時姫路市延末姫路中央市場内姫路市中央青果株式会社において、株主総会を開催する。」旨記載した招集通知書を先に認定したとおり株主桑原政義、大西千代子、山口秀太郎、中塚常雄に発送し、その余の株主全員に対しては口頭で同旨の通知をした。

<4> 昭和三三年五月一四日午前一〇時頃所定の会場に、被控訴人、桑原政義、山口秀太郎、木谷年弘、中塚常雄、宮脇峯次ら六名の株主は自ら出席し、株主大西千代子はその夫大西重三郎を代理人として出席させ、株主阿部俊次、木谷実、妻木徳男の三名からはその委任状が株主木谷年弘に対し提出された。

<5> 控訴会社の定款第一七条によれば、株主総会の議長は社長が当ることとなつているので、この規定に従い、社長宮脇峯次が議長となつて議事に入つた。議事は控訴会社の営業を継続してゆくかどうか、もし継続しないときは右営業および製造割当屯数を第二会社に譲渡して会社の再建をはかるべきか否かの議案をめぐつて進行し、正午頃まで討議を重ね各株主より意見の陳述がなされ、その間株主桑原政義は現在営業を廃止することに反対し、かりに営業を廃止して営業および製造割当屯数を第二会社に譲渡する場合には、株主持分による譲渡代金の分配を主張し、桑原の右意見に役主山口秀太郎、大西重三郎(千代子の代理人)が同調し、他の株主らは即時営業を廃止して営業および割当屯数を第二会社に譲渡すべく、その細目は代表取締役に一任する旨の意思を述べ、右意見を強力に推進しようとした木谷俊雄と右桑原との間に激しい議論のやりとりが行われる一幕もあつたが、右討議の過程で発表された各株主の意見を通じ、結局その最終段階において、右営業譲渡案に前記桑原、山口および大西の三名が反対し、その他の株主七名が賛成であることが明らかとなつた。しかし、その際投票、起立あるいは挙手等による採決の手続は行わないで、同日正午頃右総会を終結した。前掲各証人の証言、被控訴人本人および控訴会社代表者本人の供述中、右認定に反する部分はいずれも信用できない。

右認定の事実関係によれば、右総会においては、控訴会社の定款の規定によつて社長宮脇峯次が議長となり、議案を提出して議事が開かれたものである以上、議長の選任、開会の宣言の手続に欠けるところはない。また、総会の決議の方法につき、定款に別段の定がなく、株主数僅か一〇名を有するにすぎない、控訴会社のようないわゆる同族会社において、総会の討議の過程を通じ、その最終段階にいたつて本件議案に対する各株主の賛否がおのずから明白となり、その賛成の議決権数が本件特別決議の議決権数に達したことが明白となつたものである以上、その時において表決は成立したものと認めるに妨げなく、議長が特に挙手、起立、投票など採決の手続をとらなかつたとしても、右総会の決議が成立しなかったものということはできない。

(二)  請求原因第五項の決議が無効であるとの主張について。

(1)および(3)について。

本件株主総会が控訴会社の取締役会の決議を経ないで、招集されたことは、原審証人桑原政義の証言により明らかであり、また一部株主に対し書面による招集通知が行われなかつたことは先に認定のとおりであるが、これら招集手続上の瑕疵はいずれも本件決議の取消事由にとどまり、これを無効とする事由ではない。

(2)について。

先に認定した招集通知書の記載によれば、本件株主総会における会議の目的たる事項が控訴会社の営業を他に譲渡することにあつたことは明らかである。

(4)について。

先に認定したとおり、本件総会に出席した株主は代理出席を含めて一〇名全員で、その株数は一、〇〇〇株であるから、なんら定足数に欠けるところはない。欠席株主である阿部俊次、木谷実、妻木徳男ら三名の株主から木谷年弘に対する委任状が提出され、木谷年弘が代理人として右三名の議決権を行使したことは前認定のとおりであるから、その資格審査手続がなされなかつたからといつて、右議決権の行使になんらの瑕疵はない。また、株主阿部俊次の株式の払込を桑原政義がしたとしても右株主名義が控訴会社の株主名簿上桑原政義名義となつていないことは被控訴人の自認するところであるから、株主阿部俊次の議決権を株主桑原政義の議決権として取扱うべきであるとの被控訴人の主張は理由がない。

(5)について。

原審および当審証人木谷年弘、当審証人中塚常雄、桑原政義の各証言、原審における被控訴人本人の供述に前段認定の事実関係を総合すると、三星燐寸株式会社が本件総会前第二会社として設立ずみであつたことは全株主において了知しており、本件営業譲渡の決議は右第二会社を譲受人とすることを前提としてなされたことが右総会議事の内容により明らかであつて、原審承認桑原政義、大西重三朗の各証言中右認定に反する部分は信用できず、被控訴人主張のような不正な方法によつて議決権が行使されたことを認定するに足りる証拠はない。

(6)について。

被控訴人主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(7)について。

本件営業譲渡の決議は右に認定のとおり既に設立ずみの第二会社を譲受人とすることを前提とするものであり、かつ、譲渡の条件その他の細目の交渉は代表取締役に一任する旨の決議が成立したことも先に認定したとおりであるから、本件決議が営業譲渡の特別決議として無効なものとはいえない。

(8)について。

控訴会社の株主である木谷年弘が三星燐寸株式会社の代表取締役であることは先に認定したとおりであるので、木谷年弘は本件営業譲渡決議の特別利害関係者に該当するといえないでもないが、特別利害関係者が加わつてした決議は当然には無効でなく、取消の訴(商法第二四七条)の理由となるにすぎないし、その他被控訴人が本件決議をもつて議決権の濫用にあたると主張する諸事情を認めるに足りる証拠はない。

三、そうすると、本件総会の決議には、被控訴人主張のような総会の成立をみとめることができずあるいはこれを無効とすべき瑕疵は認められないから、被控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきであるから、これと趣旨を異にする原判決は取消を免れない。よつて、民訴法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例