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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1838号 判決 1964年11月19日

被控訴人 株式会社兵庫相互銀行

理由

一、別紙目録記載一、二の株券が控訴人長瀬順之助の同目録記載三、四の株券が控訴人長瀬光枝の各所有に属し、現に被控訴人がこれを占有していることは当事者間に争いない。

二、そこで被控訴人主張の右株券占有の権限について判断する。

訴外三木五郎が昭和二六年一月頃から昭和三一年八月頃まで被控訴人今里支店、同月頃から昭和三二年四月頃まで同大阪支店の各支店長代理をしていたこと、訴外三木が訴外川見某から金六〇万円を借受けたことにつき被控訴人の長谷川専務から拝野今里支店長を通じ早急に解決するように要望されていたこと、訴外三木が右借受金を返済するため被控訴人今里支店から本件株券を担保に提供して金六〇万円を借受けたことは当事者間に争いなく、右事実と成立に争いない甲第一、二号証、原審並びに当審証人稲本茂夫(原審は第一、二回)原審証人井関久太郎同拝野昇当審証人三木五郎の各証言、原審における控訴人長瀬順之助共同被告三木五郎(第一、二回)各本人尋問の結果を総合すると、訴外三木は前示借受金につき被控訴人今里支店の取引先である訴外飯沼寛次の名義を使用し昭和三二年一月二五日頃貸付を受けたが、右借受に際し当時本店から支店に対し監査が行われていたこともあつて担保を差入れる必要があつたので訴外三木はその頃自己の部下である訴外稲本茂夫に対し株券の貸与を申入れたが真実の事情を告げると拒絶されるため、「自分が今里支店に勤務していた当時担保不足のまま金六〇万円を貸付けたことがあるが、近く本店の監査があり発覚すると困るのでその監査の間数日間だけ監査を通すため、監査係員に見せるため株券を貸してほしい。拝野支店長も困つておられる。」旨いつわり、右訴外稲本と共に同訴外人の内縁の妻である控訴人長瀬光枝の父控訴人長瀬順之助方へ赴き訴外稲本の口添えを得て控訴人長瀬順之助に対し右同様の依頼をし又訴外稲本をして控訴人長瀬光枝に同様の依頼をさせ、訴外三木の地位を信頼しその言を信じた控訴人両名から右依頼の趣旨に従つてそれぞれ所有する本件株券に形式を整えるためということで作成させた譲渡証を添付させて一時貸与を受けた後被控訴人に対し前記飯沼寛次名義の自己の債務の担保として右譲渡証と共に差入れ金六〇万円を受領したことが認められる。

右認定事実によると控訴人両名が訴外三木に対し同訴外人が被控訴人今里支店勤務中なした担保不足の貸付につき本店の監査の眼を免れるため監査の期間だけ本件株券を担保になつているように仮装する事実行為をなすことを許容した事実は認められるが、更に進んで被控訴人との間に一時的にせよ担保供与の契約を締結するという法律行為をなす権限を授与したものとは解することができない。蓋し担保として使用することのなかには、担保となつているように事実上仮装することと真実担保として担保権設定の契約を締結することとが含まれており前示の控訴人両名と訴外三木との間の監査を通すため監査係員に見せるため使用し監査の期間だけ貸与するとの合意は貸与者に不利益を来さない前者を意味するものと解するを相当とするからである。前記甲第一、第二号証並びに当審証人稲本茂夫の証言原審における控訴人長瀬順之助本人尋問の結果によると、控訴人長瀬順之助が前示株券交付後四、五日して訴外三木から本件株券を担保として差入れたので預る旨の被控訴人名義の担保預り証(甲第一、二号証)を受領している事実が認められるが、右尋問の結果によると同控訴人は右担保預り証を交付されて予期せぬこととて、びつくりし訴外三木にその理由を問い質しており当然受領すべき形式の書類として受領したものでないから、前示認定事実も控訴人両名が訴外三木に対し担保権設定の代理権を授与した証左とすることはできず、その他担保権設定の代理権を授与したと認めるべき証拠はない。

そうすると控訴人両名が訴外三木に対し訴外飯沼寛次名義の同訴外人の債務の担保として本件株券を提供する代理権を授与したとの被控訴人の第一次抗弁は理由がないのみならず、訴外三木に右株券を担保に提供する基本代理権があり右訴外人の本件担保供与行為は権限を踰越したものであるから控訴人両名は同訴外人の行為につき責に任じなければならないとの被控訴人の第二次抗弁もまた理由がない。

三、右のように被控訴人が本件株券を占有すべき権限がない以上被控訴は本件株券を所有者である控訴人両名に対しそれぞれ引渡すべき義務があるものといわなければならない。

そして成立に争いない甲第三号証によると本件株式一株の昭和三九年一〇月五日の時価は別紙目録記載一は金八五円、二は金六二〇円、三は金五九円、四は金六二円であることが明らかであるから、本件口頭弁論が終結された翌一〇月六日当時の時価も反証のないかぎり同一であると推認されるので、前記引渡義務の執行が功を奏しなかつた場合被控訴人は控訴人両名に対し右割合による損害金を支払うべき義務があるものといわなければならない。

四、よつて控訴人両名の本訴請求を正当として認容し……。

(控訴人両名は原審における不法行為による損害賠償請求の訴を当審において所有権に基く株券引渡請求の訴に交換的に変更し被控訴人はこれに対しなんら異議を述べなかつたから、右損害賠償請求の訴の取下につき同意があつたものと認め、右訴については判断しない。しかし訴訟費用については原裁判が変更された場合に準じ民事訴訟法第九六条を準用する。)

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