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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)192号 判決 1966年6月24日

主文

一審原告および一審被告の各控訴は、これを棄却する。

控訴費用は、各自の負担とする。

事実

一審原告訴訟代理人「原判決中一審原告勝訴部分を除いて、その余を取消す。一審被告は一審原告に対し、金五八万円およびこれに対する昭和三四年九月六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。」との判決ならびに無条件の仮執行の宣言を求めるとともに「一審被告の控訴を棄却する」との判決を求め、

一審被告訴訟代理人は「原判決中、一審被告敗訴部分を取消す。一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。」との判決ならびに「一審原告の控訴を棄却する。控訴費用は一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、提出、援用の証拠ならびに認否の関係は、つぎに記載するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(一)  一審原告は、本件報酬金の請求には、商法五一二条に基づくものも当然含まれると述べ、

(二)  一審被告は、仲介契約に基づく報酬請求権が本件訴訟物であるのにかゝわらず、原判決がこれと異なる商法五一二条に基づく報酬請求権を肯定した点において、当事者の申立てない事項について判断した違法がある。けだし、前者は売買契約が不成立のときは報酬請求権が発生しないのに対し、後者は売買成立の有無にかゝわらず、他人のために行為をした以上、報酬請求権が発生し、両者その請求を異にするからであると述べた。

(三)  証拠(省略)

理由

一、本訴は宅地建物取引業者である一審原告が一審被告との仲介契約に基づいて不動産買得の媒介をして売買を成立せしめたことを理由にして、一審被告に対し、報酬金の支払を求めているものであること、記録上明らかなところである。仲介契約は民法の準委任にあたることはいうまでもなく、準委任に準用される委任の規定(民法六四八条一項)では、特約がなければ報酬の請求ができないものとされているところ、一審原告において、明示の特約は勿論慣習(事実たる慣習)に基づく特約の存在も主張していないのであるから、一審原告は当初より右事実によつて明らかなように自己が商人であり、その営業の範囲内において他人のために、ある行為をなしたものとして、商法五一二条に基づく報酬を請求しているものと解しなくてはならない。そうであれば、原判決が同法条の請求権の存否について判断したのは当然であつて、当事者の申立てない事項について判決をした違法があるといえないのはいうまでもなく、この点に関する一審被告の主張は採用できない。

二、一審原告は宅地建物取引業者として、宅地建物売買の仲介を業とする会社であることは、原審での一審原告代表者本人尋問の結果に照らし明らかであり、一審被告が昭和三三年一一月三日、訴外矢辺清兵衛から本件不動産を代金一、七〇〇万円で買受ける契約を結び、同年一二月一五日その履行が完了されたことは、当事者間に争いのないところである。

三、ところで、一審原告は右売買につき、一審被告の委託により仲介をしたと主張し、一審被告は右委託を否認し、一審原告は売主側の利益のために行動していたものであると主張するので、以下この点を判断する。

(一)  成立に争いのない甲第一号証、原審証人長岡徳蔵、同松田政吉(但し一部)、同松村英雄(但し一部)、原審ならびに当審証人岡本辰一の各証言および原審ならびに当審での一審原告代表者本人尋問の結果を総合すると、一審被告は当時所有の大阪市天王寺区小宮町の住家を新たな住家と買い替えるため、敷地付き住家、価格金二、〇〇〇万円位のものの購入斡旋を、以前周旋業をしていた知合の松田政吉に依頼し、同人はこれを知合の建築業者松村英雄に連絡し、松村は予て知合いの弁護士長岡徳蔵に相談したところ、同弁護士は一審原告代表者明石忠平と知合であつたため同人に連絡し、一審原告は、同業者であり、かつ前記矢辺のため本件土地、建物売却の斡旋をしていた仲介業者岡本辰一から、右宅地建物が売物に出ている話を聞き、同人よりその宅地、建物の図面を入手し、他の二、三の候補物件とともに前記長岡弁護士の事務所で、右松田・松村に手交し、一審被告の意向を打診してみたところ、その後右松田・松村を通じ、一審被告から、本件宅地、建物を買取りたい旨の連絡があり、ついで現物の見分をしたいというので、前記岡本らとともに同人らを連れて本件宅地・建物のある現場に案内したほか、一審被告自身、あるいはその妻子らをも案内し、数回に亘つて見分をさせていること、そして取引価格等の売買条件は売主の矢辺側は前記岡本辰一、矢辺の親戚である池部某が、買主の一審被告側は前記松田・松村らが、主となつて数回に亘つて交渉にあたり、価格も当初売主側は金二、五〇〇万円を、買主側は金二、〇〇〇万円以下を主張していたところ、結局金一、七〇〇万円で妥結したのであるが、その交渉のさい、一審原告は終始これに関与し、両者の言い分を調整する等媒介に尽力したものであること、また売買契約書は一審原告が用意していた用紙を使い、一審原告が媒介者として記名捺印し、売買物件の受渡し、代金の授受、登記申請書の取り揃えも、一審原告関与の下に行われたものであることが認められる。原審証人松田政吉・同松村英雄・同池田延英および原審ならびに当審での一審被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は信用できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  右事実によると、一審原告は一審被告より仲介の依頼を受けたわけでないが、右売買契約を成立せしめるため、仲介業者として媒介の労をとつたことは明らかであり、その仲介の労も主として一審被告側に立つてその利益のためになしたものというべく、このことは一審被告も取引交渉の経過ないし態様から知りえたものと認めるのが相当である。そうであれば、商法上商人たる一審原告は、その営業の範囲内で一審被告のため仲介をなし、売買契約を成立せしめたものであるから、同法五一二条に基づき、一審被告に対し、相当の報酬を請求する権利を有するものといわなければならない。

四、そこで右報酬の相当額について考察する。

(一)  宅地・建物取引業者の媒介による報酬額の限度は宅地建物取引業法(一七条)により都道府県知事が定めるものとされており、大阪府では告示一七一号により、本件の如く、取引額が金一、七〇〇万円の場合については金五八万円以内となること算数上明らかである。また前記甲一号証の表紙の裏面に記載された報酬規定によると社団法人全日本不動産協会では本件の取引価格の場合は、計算上金五八万円と定められ、売主・買主から各同額を受けるものとされていることが認められ、当審での一審原告代表者本人尋問の結果によると登録された正規の仲介業者は、右に定められた最高限度の報酬を受けるのが原則であり、もし正規の仲介業者でないものが、仲介に加わつたときは、正規の仲介業者よりその者に対し適当な報酬を支払つているのが取引の実情であることが認められる。

(二)  本件では一審原告は買主の一審被告より仲介の委託を受けておらないことは前認定のとおりであり、原審証人松田政吉・同松村英雄・同池田延英の各証言および原審での一審被告本人尋問の結果を綜合すると、一審被告より仲介の委託を受けたのは松田政吉であり、松村英雄は松田の依頼により売家を探して松田に連絡する等補助的な役割をしていたものであること、松田・松村も正規の取引業者でないこと、松田は一審被告より仲介料金四五万円を受取り、そのうち金二〇万円を松村に交付していることが認められるのである。

(三)  正規の仲介業者でないものは業として仲介をすることは法の禁ずるところであるが、たまたま依頼者の信用により仲介をなすことは何ら差支えがなく、この場合における相当な仲介料は特約で特段の定めをしない限り、正規の業者とほぼ同額とみるのが相当である。

(四)  すると一審被告が前記買値に応じて負担すべき報酬額は金五八万円を以て相当としなければならない。右は仲介人が一人の場合はその全額を受けうるのであるが、買主側の仲介人が数人あるときは、特約等の特段の事情がない限り媒介に尽力した度合いに応じて按分した額につき請求権を有するものというべく、本件においては、松村は松田の補助者であること前認定のとおりであつて、独自の請求権を有しないものというべく、従つて松田と一審原告が右の比率に応じた報酬請求権をもつことになるのであるが、両者が本件売買の成立に尽力した前認定の事情より考えるとき、一審原告の受ける報酬額は金二五万円を以て相当とし、同原告は一審被告に対し、同額の報酬請求権を有するものと認める。そうなると一審被告が前記松田に支払つた金四五万円は過払となるが、右は両当事者間で解決せられべき別個の問題である。

五、以上の次第であつて、一審原告の本訴請求は、右認定の二五万円およびこれに対する訴状に代る準備書面到達の翌日であること記録上明らかな昭和三四年九月六日から完済に至るまで年六分の商事法定利率(本件債務が商法五〇三条の商行為によつて生じたものであることは、前認定の事実に照らし自ら明らかである)による遅延損害金の支払いを求める限度において正当として認容すべきであるが、その余の請求は失当であるからこれを棄却すべく、右と結論を同じくする原判決は相当であつて、一審原告および一審被告の各控訴はいずれも理由がなく、棄却を免れない。

よつて民訴法三八四条、九五条、八九条を各適用し、主文のとおり判決する。

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