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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)727号 判決 1964年11月26日

控訴人 上田克己

被控訴人 有限会社日本勧業商事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求め、当審で、請求の趣旨を「控訴人は被控訴人に対し、金一七〇、七〇八円およびこれに対する昭和三七年九月一日から右完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。」と減縮した。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は左に附加補正するもののほかは原判決事実摘示と同一(ただし原判決一枚目裏六行目「主文同旨の判決」とあるのは、「被告は原告に対し金二十万円及びこれに対する訴状送達の翌日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。」との誤記と認めて訂正する。)であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

(一)  原判決事実摘示中答弁事由(二)の主張は、事情の陳述で法律上本訴請求を拒む事由として主張する趣旨ではない。

(二)  控訴人は被控訴会社設立以来毎月金一〇、〇〇〇円の報酬の支払を受ける約定で、被控訴会社の金融上の法的手続、経理業務を担当してきたが、被控訴会社は昭和三二年二月一日から昭和三五年一〇月三一日までの間の右報酬金合計四五〇、〇〇〇円を支払わない。そこで、控訴人は本訴(昭和三九年七月七日の本件口頭弁論期日)で右報酬金債権をもつて被控訴会社の本訴債権と対当額で相殺する旨の意思表示をしたから、本訴請求は理由がない。

(三)  当審における被控訴人主張(一)の事実は認める。

(被控訴人の主張)

(一)  被控訴人が控訴人に対して有する本件出資金払込請求権二〇〇、〇〇〇円は、昭和三五年一一月二日舞鶴税務署より被控訴人の国税滞納処分のため差押えられたが、その後控訴人は右出資金債務の内金二九、二九二円を前記税務署に支払い、同年八月三一日同税務署はその残額一七〇、七〇八円の債権につき前記差押を解除した。

(二)  被控訴人が控訴人主張のように報酬支払を約したことは認めるが、右報酬は全額支払済である。

(三)  よつて、被控訴人は控訴人に対し本件出資金債権残額一七〇、七〇八円およびこれに対する前記差押解除の翌日である昭和三七年九月一日から右完済にいたるまで法定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(証拠関係)<省略>

理由

一、被控訴人主張の請求原因事実はすべて当事者間に争がない。そこで、控訴人の相殺の抗弁につき判断する。本件相殺における受働債権は、被控訴会社が社員である控訴人に対して有する出資金払込請求権であるが、有限会社法は、物的会社としての資本充実の原則の要請から、設立登記前に出資全額の払込また現物出資の目的である財産全部の給付を必要とすることを定め(同法第一二条)、設立当時の前記払込または給付の未済につき設立当時の社員等に出資填補責任を課し(同法第一五条)、資本増加の場合に商法第二〇〇条第二項(相殺禁止)を準用(同法第五七条)し、その他増資または組織変更の時に表示された資本額の欠缺についてもその時の社員等に填補責任を課し(同法第五四条、第五五条、第六五条)ているところからみて、本件の出資金払込請求権は法の規定をまつまでもなく、前記資本充実の要請上相殺を許さない債権と解するのが相当である。したがつて、控訴人の抗弁は、その主張の自働債権の存否を判断するまでもなく理由がない。

二、そして、被控訴人が控訴人より本件出資金払込請求権のうち、金二九、二九二円の内入弁済をうけたことは当事者間に争がないから、控訴人に対しその残額一七〇、七〇八円およびこれに対する前記差押解除の翌日である昭和三七年九月一日から右支払済にいたるまで法定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は理由がある。

三、よつて、本件控訴を棄却し(原判決は被控訴人の当審における請求の減縮により右認容の限度に変更された。)、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 斎藤平伍 兼子徹夫)

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