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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)772号 判決 1965年1月28日

控訴人(債務者)

米井明

代理人

辻武夫

外一名

被控訴人(債権者)

谷口満作

代理人

山上孫次郎

主文

一、原判決を取り消す。

二、本件異議の申立を却下する。

三、訴訟の総費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人らは、「原判決を取り消す。神戸地方裁判所姫路支部昭和三六年(ヨ)第九八号立入禁止等仮処分申請事件について、同裁判所が昭和三六年八月二四日にした仮処分決定を取り消す。被控訴人の本件仮処分申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。≪以下省略≫

理由

第一、職権をもつて本件異議訴訟の管轄、ついで控訴人の異議申立権の有無について判断する。

一、管轄について

(一)  神戸地方裁判所姫路支部は、昭和三六年八月二四日、被控訴人が債権者として申し立てた仮処分申請を容れ、別紙第二目録記載の仮処分決定をしたこと、被控訴人が、これに対し大阪高等裁判所に抗告の申立てをしたところ、抗告裁判所は、同年一〇月二六日別紙第三目録記載の決定をしたことは当事者間に争いがなく、控訴人が、昭和三七年一月二三日神戸地方裁判所姫路支部に仮処分決定に対する異議の申立てをしたことは当裁判所に顕著な事実である。

(二)  仮処分債権者は、口頭弁論を経ずに決定によつて仮処分申請を却下されたとき、民訴法四一〇条によつてこの決定に対し抗告の申立てをすることができ、その却下決定が、全部却下であるか、一部却下であるかを問わないのはいうまでもないが、抗告審がその抗告を容れて申請にそう仮処分決定をしたとき、これに対する異議訴訟は、当該仮処分決定をした抗告裁判所の専属管轄に属するものといわなければならない。もつとも、この点について仮処分の申請を受けた裁判所の管轄に属するものとする先例(大審院大正一三年(ク)三六四号同年八月二日決抗、民集三巻三八六頁)がないではないが、異議は同一審級内において、弁論を経て申請の再審理をするための制度であることからすると、抗告裁判所が異議訴訟の管轄裁判所であるとするのは当然である。もつとも、このように解すると、異議申立人から審級の利益を失なわしめることにはなるが、これは、抗告審において、弁論を開き、判決によつて仮処分をした場合についても生ずるし、また下級審をして上級審のした仮処分の内容の再審理をさせることは実際的にも妥当ではないから、前記欠点にもかかわらず、抗告裁判所に異議訴訟の管轄があると解すべきである。

(三)  したがつて、仮処分の申請が全部却下されたとき、または、申請の一部却下の場合でも、その却下部分に対応する申請が独立した内容のものであるときは、抗告審が抗告を容れてした仮処分も独立のものであるから、これに対する異議訴訟は抗告裁判所の管轄に属することは明白であるが、申請却下部分が、申請認容部分と不可分一体をなしているとき(後記説示の無条件の仮処分申請に対し、解放金額を付して認容した場合など)、抗告審が却下部分に対する抗告を容れてした仮処分の異議訴訟の管轄裁判所が仮処分申請を受理した裁判所か、それとも抗告裁判所かという問題は、抗告審がした仮処分の性質、態様や、原決定との関係をどうみるかということと関連する問題である。以下解放金額を中心に詳論する。

(四)(1)  ところで、本件は、前記(一)によつて明らかなとおり解放金額を付した原仮処分決定と、その解放金額を増額した抗告審の決定とがあるので、仮処分異議は、どの仮処分を対象にどの裁判所に提起すべきかが問題になる。

そこで、まず、仮処分に解放金額を付したこと、ないしはその金額について、抗告ができるかどうかを考察してみると、仮処分事件について、その申請の趣旨の範囲内で、どんな仮処分方法が、保全目的に適するかを決定するのは、仮処分裁判所の自由裁量に属し(民訴法七五八条一項)、仮処分の方法に関する債権者の申請は、一種の提案に過ぎないから、その提案が容れられなかつたからといつて、直ちに不服申立てが許されるわけではないが、仮処分に解放金額を付することが右趣旨の仮処分の方法であるとすることはできない。けだし、解放金額は、金銭債権保全の仮差押えに適合する制度(民訴法七四三条で仮差押命令の必要的記載事項となつている。)であつて、特定物の請求権保全の仮処分にとつては、元来異質的なものであり、ただ特別事情による仮処分取消制度との均衡上、右取消しの要件を具備する場合だけ、解放金額制度の類推適用が肯定されるにすぎない(大審院大正一〇年(オ)第二〇七号同年五月一一日判決、民録二七輯九〇三頁参照)したがつて、仮処分に解放金額を付することは、その実質は、解放金額の供託を解除条件とする仮処分をした場合あるいは、仮処分決定と同時に、解放金額の供託を条件としてその取消しをした場合と近似し、債権者の被る影響の甚大である点からすると、むしろ仮処分申請の一部却下とみるのが相当である。そうしてみると、無条件の(解放金額を前提としない)仮処分申請に対し、解放金の制約(執行上の制約)を付することは、申請の一部排斥として、抗告による不服申立てができると解するのが相当である。

(2)  右の場合、抗定審が抗定を容れて、却下部分の申請を認容する決定は、無条件の(解放金額を付さない)仮処分決定か、あるいは、増額された解放金額を付した仮処分決定でなければならないのは当然である。ただ単に、原仮処分決定の解放金額を付した部分を取消すとか、あるいは、その解放金額をいくらに増額するといつた内容のものでは、却下された申請に見合う仮処分をしたことにはならないのである。

したがつて、抗告審の決定方式が、前記のように、単に解放金額に関する仮処分条項を変更し、増額した解放金額を表示するだけであつても、その趣旨は、原仮処分決定の他の条項(仮処分方法を定める部分)と合体した仮処分をしたものであり、ただ表現形式を省略し、原仮処分決定の記載を引用する趣旨であると解すべきである。

(3)  そうであれば、抗告審の仮処分決定と、原仮処分決定との関係が当然問題になるが、前者が右のような仮処分決定をしたときは、原仮処分決定が、これに当然吸収されて失効すると解するのが相当である。けだし、解放金額を付した仮処分決定と無条件の仮処分決定ないし解放金額を増額した仮処分決定とは、両者が分離できる量的なものではなく、そのうえ、その併立を許す利益もないのであるから、制度上抗告審の決定が原決定より優位に立つべきものであるし、大は小をかねる通則にしたがい、抗告審の決定に原決定か吸収包含されるとするのが当然であるからである。またこの見解を採つたからといつて、原決定の執行から抗告審の決定への移行について、支障は生じない。すなわち、原決定の執行中に、抗告審の仮処分決定がされた場合でも、右吸収関係を認める以上、当初の執行を解放して、さらに執行し直すという不都合は生じないのである。

(4)  右とは逆に、原仮処分決定が抗告審の決定によつて修正変更された内容で存続するというような解釈は到底許されない。なぜならば、抗告審の仮処分決定は、原仮処分決定の申請認容部分を修正変更するものではなく、申請却下部分に対し、新たな仮処分決定をするものであるから、その効力は、既往に遡ることはなく、したがつて、原仮処分決定の効力が膨張されて存続するということは考えられない。この点は、仮処分異議が債務者の利益のため、仮処分決定(申請認容部分)の取消し変更による修正を許し、認可部分は当初の仮処分の効力をそのまま存続させ、取消部分は、仮執行の宣言を付することによつて即時失効させる建前になつているのと異なる。そのうえ、前記見解にしたがうと、仮処分の異議訴訟は、原決定をした裁判所の管轄となり、下級裁判所が上級裁判所の決定を再検討するという結果を招くなど前記異議制度の根本的な趣旨に反する点からみても失当であるからである。

(5)  あるいは、また、抗告審の決定中、原仮処分決定の解放金額を付した部分の取消し、あるいはこれが増額を定めた部分についての異議訴訟は、当該抗告審の裁判所に、原仮処分決定についての異議訴訟は、これをした原裁判所に、それぞれ、分属して管轄が生ずるとすることは、元来一本であるべき解放金額と、それによつて制約される仮処分とを分離して区区に処理しようとするもので、理論的にも肯認し難いばかりか、実際上も、両裁判所の審理判断は互に他方のそれを無視できない関係から難渋をきわめるし、たとえ、審理、裁判ができたとしても、両者の矛盾抵触(たとえば抗告裁判所が認可の裁判をするのに対し、原裁判所が取消しの裁判をするという場合など)は、避けられないという不当な結果を生ずるから、この見解も失当である。

(五)  そうしてみると、本件において仮処分異議の対象となる仮処分は、抗告審の決定であり、したがつて、当裁判所が第一審として専属管轄をもつわけである。もつとも、本件議異の申立書には、神戸地方裁判所姫路支部のした仮処分決定を表示し、これを対象としてその取消しを求めているかのような体裁になつている。しかし、その真意は、本件において効力のある仮処分すなわち、抗告審の仮処分決定の取消しを求める趣旨であると解されることは、弁論の全趣旨とりわけ控訴人が本件控訴審の弁論で原判決摘示のとおり陳述し、その原判決事実摘示には、異議の対象となる仮処分の表示として、抗告審が増額した解放金額を表示していること、また控訴人が陳述した昭和三八年一一月五日付準備書面には、抗告審の決定が不当であつて、取り消さるべきものであることを明記するとともに、その理由を記載しているなどの経過に徴して明らかであるから、本件異議申立てが対象を欠く不適法なものとすることはできない。

しかし、本件異議申立てを受理した原裁判所は、管轄権がないのであるから、これを看過してした原判決は専属管轄に違背する違法があり、民訴法三九〇条により、原判決を取り消し、管轄裁判所に移送する旨の裁判をするべきである。しかし、管轄裁判所である当裁判所には、すでに原判決に対する控訴によつて、本件が係属しているため、さらに移送の裁判をすることは無用の手続をとることになるから、当裁判所が第一審として、本件を審理、判断すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和二五年(オ)第三一四号昭和二六年二月二〇日判決、民集五巻九四頁参照)。もつとも、それには、控訴審の手続を、第一審手続に切りかえる必要があるが、口頭弁論でその旨を明らかにして第一審手続に移ることで十分であり、そのため移送の裁判あるいは差戻しの裁判を必要とするものではない。

二、異議申立適格について。

そこで、当裁判所が本件の第一審として審理判断するにあたり、まず控訴人に異議申立ての適格があるかどうかについて検討する。

仮処分決定に対する異議申立ては、その仮処分手続内における仮処分債務者(被申請人)の不服申立方法であるから、異議申立権者は、仮処分債務者、その一般承継人、破産管財人に限られ、第三者は、特定承継人であつても異議申立権がないと解するのが相当である。ところで、本件仮処分債務者は、訴外吉田重雄であつて、控訴人は、その主張によれば、本件仮処分が解放金額の供託によつてその執行が取り消されるとともに、右訴外人から仮処分物件を譲り受けた特定承継人にすぎないのであるから、当然には異議申立権がないのである。控訴人のような特定承継人が仮処分を争う道は、潜在的に係属中の仮処分手続に、民訴法七三条によつて承継参加をするとともに異議申立てをするほかはないのである。本件において、控訴人が、そのような参加の申立てをした事跡はない。

そうすると、控訴人の本件異議の申立ては、不適法であつて却下を免れない。

第二、むすび

以上の次第であるから、原判決を取り消し、本件異議の申立を却下することとし、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。(金田宇佐夫 日高敏夫 古崎慶長)

(別紙第一ないし第三目録・省略)

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