大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)898号 判決 1964年1月20日
控訴人・附帯被控訴人 岡地宗太郎
控訴人・附帯被控訴人 北川房吉
被控訴人・附帯控訴人 財団法人大阪市住宅協会
右代理者理事 中馬馨
右訴訟代理人弁護士 山口敏男
主文
一、控訴人(附帯被控訴人)らの本件控訴はいずれも棄却する。
二、当審における控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)らの連帯負担とする。
三、原判決中控訴人(附帯被控訴人)らに対する仮執行宣言部分を左のとおり変更する。
原判決は控訴人(附帯被控訴人)らに対し仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
当裁判所は被控訴人(附帯控訴人)の控訴人(附帯被控訴人)らに対する本訴請求はいずれも正当なものとして認容すべきものと認める。その理由は次に補充する外原判決理由中控訴人(附帯被控訴人)ら関係部分と同一であるから、ここにこれを引用する。
右認定事実によれば、本件賃貸借契約において、賃借人が家賃の支払を怠つたときは延滞家賃額に対し日歩一〇銭の割合で延滞損害金を支払うこと、賃料は毎月六日当月分を支払うことが約定せられているので、賃貸借契約存続中の賃料について右延滞損害金を附加支払う義務あることはもちろんであるが、賃貸借契約終了後、明渡済にいたるまでの損害金の支払についても賃料相当額の外に右延滞損害金相当額を附加支払う責あるものと解すべきか否について疑問なしとしないが、これを肯定するを相当とする。けだし、前記賃料債務不履行の場合の遅延利息について日歩一〇銭の割合による旨の約定利率は直接には賃料についての遅延利息を定めたもので遅延損害金の遅延利息を定めたものではないが、契約が終了した場合、賃借人は明渡済にいたるまで、明渡義務遅延による損害金を支払う義務あるは当然で、解除後の賃借人の責任を解除前より軽減する理由も存しないところから考えると右損害金の額は原則として従前の賃料額であるが、これに遅延利息を附する約旨あるときは、これを加えた額であると解するのを相当とするからである。(右損害金は明渡義務不履行に伴い、時日の経過により時々刻々その範囲を拡大してゆくものであつて、その損害金自体について月々の履行期なるものを考える余地なく原判決主文で当月分の損害金というのはただ計算の便宜上そういうだけであつて、別段当月分の損害金について弁済期なるものがあるわけではない、右解除後の損害金自体が賃料相当部分と遅延損害金相当部分とを併せ非金銭債権についての遅延賠償金たる性質をもつものであるから、金銭債権についてのそれを規定した民法第四一九条は直接には適用がないものといわねばならない。)
よつて、被控訴人(附帯控訴人)の請求を認容した原判決は相当で本件控訴はいずれも理由がない。
なお附帯控訴について考えるに、被控訴人(附帯控訴人)の控訴人(附帯被控訴人)らに対する請求についてはいずれも仮執行の宣言を付するを相当とするところ、原判決が主文第二項(金銭請求部分)についてのみこれを認め、主文第一項(控訴人岡地に対する建物明渡請求部分)第三項(訴訟費用の裁判)について仮執行の宣言をしなかつたのは相当でないから、原判決中仮執行の宣言部分を主文のとおり変更する。
よつて、控訴につき民事訴訟法第三八四条附帯控訴につき同法第三八六条第一九六条、訴訟費用につき同法第九五条第八九条第九三条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 井上三郎)