大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)164号 決定 1964年1月17日
七福相互銀行
理由
本件抗告の趣旨、理由は、要するに、抗告人は別紙記載の不動産につき昭和二六年三月以来所有の意思を以て平穏且公然に占有し、その占有の始め善意にして過失なかりしため、その後一〇年を経過したる昭和三六年三月の終了とともに時効によりその所有権を取得したのであるが、右不動産の現在の所有権登記名義人たる相手方において右所有権を争つているので、相手方に対し右不動産の所有権移転の仮登記仮処分を求めるというにある。
案ずるに、時効により不動産の所有権を取得したと主張する者は、登記簿上同一人の名義となつている間に時効が完成したものであるときは、登記名義人(包括承継人を含む)に対し時効による物権変動を主張してその登記の移転を求めうることはもちろんであるが、時効完成前に第三者が登記にもとずいて物権を取得した場合には、その登記以後においてさらに時効取得に充分な期間だけ占有された場合でなければ、時効取得の効力を生じないものと解するのを相当とする。けだし、時効完成の後、時効取得者が登記をしないでいる間に第三者が登記名義人から物権を取得して登記をしたときは、時効取得者はこの者に対しては時効取得を対抗しえない(大審院連合部大正一四年七月八日判決参照)とされる場合と権衡を保つためである。
記録中の登記簿謄本によると、右不動産は抗告人が占有を始めたと主張する当時の登記名義人たる古谷清一から売買を原因として昭和二六年三月二九日橋本佐知子に、同人から代物弁済を原因として昭和二九年一〇月一六日中沢暁に同人より同年一二月九日売買を原因として後藤コユキに、同人から代物弁済を原因として昭和三一年三月二九日株式会社七福相互銀行に、同銀行から売買を原因として昭和三四年七月三一日相手方に順次所有権移転登記がなされていることが認められるから、相手方は抗告人の主張する時効期間完成前に右不動産につき所有権登記を有する者であることが明であり、右登記以後さらに抗告人により時効取得に充分な期間だけ占有が継続されたことはないのであるから、相手方に対しては時効取得の効力の発生を主張しえないものというべきである。すると抗告人は相手方に対し右不動産につき所有権移転の仮登記を求める権利はないから、これを求める抗告人の仮処分申請を棄却した原決定は相当である。