大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)277号 決定 1964年2月14日
抗告人 山田ミサコ(仮名) 外一名
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
一、本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。
二、当裁判所の判断
(一) 第一点について。
家庭裁判所は、職権で、事実の調査及び必要があると認める証拠調べをしなければならない(家事審判規則七条一項)から、原裁判所は、遺産分割のため遺産に属する不動産の評価をするについても、必要な証拠調べをしなければならないが、それには、必ず鑑定人の鑑定によらなければならないわけのものではなく、証人の証言によつて、その資料を得ても差しつかえがないことは勿論である。したがつて、原裁判所が、主張の建物を評価するについて、証人A、同Bの証言によつたことは、何ら違法ではなく本件記録中には、これと異なる評価を引き出す資料はない。
第二点について。
この点に関する原審判の理由は、「相手方俊一は申立人ミサコについて将来その生涯にわたる扶養義務の履行を自任し、同申立人に対する補償金の分割払いを希望し、申立人ミサコにおいても、このことを承諾し無利子で月金六、〇〇〇円ずつの分割払いによることに異議がないので、同申立人に対する相手方俊一の債務は、失期約款を付したうえこの方法によらしめる。」というにある。
そうして、この判断は、本件記録上正当である。抗告人らは、抗告人山田スズコは現在同山田ミサコを扶養しているというが、山田俊一に代わつて、抗告人山田スズコが、抗告人山田ミサコをその将来生涯にわたつて扶養するものであることを認めるに足りる資料がない本件では、山田俊一が、抗告人山田ミサコを扶養するため、原審判によつて認められた金員を毎月分割して、抗告人山田ミサコに支払うのが、扶養の性質上最も適当であるといわなければならない。
第三点について。
家庭裁判所が、審判によつて遺産を分割する場合、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮してこれをしなければならないところ(民法九〇六条参照)原裁判所は、本件遺産分割にあたつて、山田正子所有の土地の上に亡山田一郎所有の家屋(原審判添付目録(1)(ロ)の物件(以下本件家屋という。)があるので、本件家屋を、その土地の所有者である山田正子に遺産分割するのが、最も適当であると判断したもので、この判断は、まことに首肯するに足りる。
このようにして山田正子に分割された本件家屋を、誰が使用収益するかの問題は、遺産分割そのものとは別個の問題に属する。
本件記録によると、山田一郎の生前は、本件家屋には、山田一郎、抗告人山田ミサコ、山田スズコ、山田正子が居住していたが、現在は、抗告人らが居住していることが認められる。ところで、抗告人らが、山田一郎死亡後、夫々本件家屋に居住してきたのは、本件家屋の共同相続人の一人即ちその共有者としてである。しかし、本件では、遺産分割の結果本件家屋は共有者である山田正子の単独所有に帰せしめられるのであるから、抗告人山田スズコは、改めて山田正子との間で、本件家屋について賃貸借契約或は使用貸借契約など本件家屋を使用できる権利を設定しない限り、同抗告人は、本件家屋を使用できない筋合である(山田正子は、抗告人山田ミサコに対しては、本件家屋を使用貸借させる意思のあることを表明している。)そして、このことは、抗告人山田スズコが、山田俊一から金三〇万四、八四二円の支払いを受けることと何らの関係がないことは勿論である。
したがつて、原審判が、家事審判規則一一〇条四九条によつて、抗告人山田スズコに対し、本件家屋からの退去を命じたのは正当である。
第四点について。
第四点については、抗告人山田ミサコに対する原裁判所の本人審問(第四回)と山田俊一に対する同裁判所の本人審問(第三回)の各結果によつて原審判どおり認められ、これに反する証拠はない。したがつて、この点に関する原審判には違法のかどはない。
第五点ついて。
第五点についての当裁判所の判断は、原審判の理由と同一であるから、ここに引用する(六枚目裏第六項全部、但し一○行目に第五回審問とあるのは第四回審問の誤記と認められるから訂正する)。
第六点について。
家庭裁判所調査官稲留秀穂作成の調査報告書及び山田俊一に対する原裁判所の本人審問の結果(第五回)によると、抗告人ら主張のミーリングは、山田俊一が昭和二五年頃金二万五、〇〇〇円で買い受けたものであることが認められ、右認定に反する証拠はないから、原裁判所が、これを山田一郎の相続財産から除外したのは正当な取扱いである。
第七点について。
抗告人らが主張する事実を認めることのできる証拠がないばかりか、被相続人の意思に遺産の分割が拘束されるのは、その意思が遺言による場合のみである(民法九〇七条九〇八条)。しかし、抗告人らは、山田一郎が遺言によつて遺産分割の方法を定めたと主張しているわけでないことは、その主張自体から明らかであるからこの主張は採用に由ない。
第八点 について。
抗告人らが第八点で主張している事由は、原審判の違法を攻撃する何らの理由となるものでないことは、その主張自体から明白である。
第九点について。
本件記録によると、本件家屋を山田一郎が購入し、山田正子の出捐でその修繕をした。第二室戸台風によつて、本件家屋は浸水し、六畳の部屋を残して他の部屋は畳がなくなり、天井板が漏水のため弓なりになつたが、出入りの屋根屋に屋根を修理させたことが認められるだけで、抗告人山田スズコが主張するように、同抗告人が二度にわたつて、本件家屋を修理した事実及びその修理費がどれだけであるかを肯認することができる証拠は何処にも見当らない。したがつてこの主張は、本件遺産分割をするについて、考慮する余地がないとしなければならない。
第一〇点について。
抗告人らの主張は、山田正子が抗告人山田ミサコから、金一〇万〇、〇〇〇円を借り受けているというのであるから、被相続人山田一郎の本件遺産分割とは直接何ら関係のないことに属する。したがつて、この主張も採用の限りでない。
(二) 本件記録を精査しても、原審判は、正当であつて、これを取り消すべき、何らの瑕疵も見当らない。
そこで、家事審判規則一八条家事審判法七条非訟事件手続法二五条民訴四一四条三八四条九五条八九条九三条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長判事 平峯隆 判事 大江健次郎 判事 吉崎慶長)
別紙
抗告の理由
一、別紙目録(1)(ロ)の建物の時価は本裁判所鑑定人によらず相手方勝手な証人(A、B)により一九万二、三〇〇円なるが如き甚だしく僅少にしてある点の調査を求む。
二、母は今後一五年位は生きるものと思考されるから将来ずつと長女スズコと同居する意志を持つて居り、また現在スズコの扶養によるものであるから約一ヶ月扶養料六、〇〇〇円として一〇八万円也を一時払として支払うを求める。(月払の件は母ミサコは承諾して居ない)
三、長女スズコは三〇万円位で(ろ)建物を出る事はアパートの権利金にも足らず現在一軒の家を建てるには最低一〇〇万円は必要とする故それに相当する家の提供を求める。
四、葬式費用の件一五万円もかかつて居らず又香典料は僅か五万円位ではない事を認める故に調査を求める。
五、山田一郎名義による電話の件、差押えのがれの事を云つて居るがこの事件は約一五年位以前の事故無根なる事、唯云いのがれに過ぎない事を申し立てる(母ミサコは認めていない)。
六、ミーリング其の他の機械器具類の件、昭和八年四月、四女花子は当時ミーリングを買つた為に手許に金がなく医療費が無かつた為に死亡、四女の命とミーリングと引き替えで有つた点を報告する当時山田俊一は一〇歳であつた。
七、(ろ)建物地上買上げの件、亡山田一郎は正子に対し地上買上げの際母ミサコ、長女スズコの居住する内は絶対に立のき等云う事はならぬと云う条件のもとに買わせてもらつた点を報告する。
八、山田正子の内縁関係は昭和二七年四月小林良男と挙式(媒酌人住所大阪市大淀区○○○町二丁目○○、○○化学工業株式会社専務S氏、又相手方親代り福山市、○○組社長M氏により)して居り現在は正子の出資と小林氏の出資を合資して会社並びに住宅を使用して居り利害関係のそう方都合上内縁関係の形式を取つて居る点を検討求む。
九、(ろ)建物はジエーン台風及び第二室戸の二回に亘る罹災で建物全体が悲惨な状態に成り住む事不能に崩壊し正子は建物を捨てて出た後長女スズコは修理し現在の状態に復興した。
一〇、山田正子は母ミサコより昭和三六年三月頃婚礼の仕立金として金一〇万円也を借り受け岸和田市○○町○○呉服店より反物を数反買い現在に至るも返済せず母ミサコの所持金は長女スズコの所持金でも(一部分)有るので(ろ)建物の地代貸借は差引しても比較にならぬ僅少なるものである事
参考
原審(六阪家裁岸和田支部 昭三六(家)四七三号 昭三八・一一・一五審判 認容)
申立人 山田ミサコ(仮名) 外一名
相手方 中村梅子(仮名) 外二名
主文
(1) 当事者全員は、共同して、別紙目録(1)の(ハ)の建物について、(い)建物の所在地を岸和田市○○町○○○番地の一〇、一一地上とし、附属建物たる(ろ)建物を分割し、(ろ)建物の所在地を同市同町○○○番地の一〇地上とする更正及び分筆の登記手続をせよ。(建物の家屋番号は登記官吏の指示により定める。)
(2) (1)により更正分筆した(い)建物、別紙目録(1)の(イ)の宅地、(ロ)の建物及び(ニ)の建物部分並びに別紙目録(2)の(ト)及び(チ)を除くその余の動産類を相手方山田俊一に分割する。
(3) (1)により更正分筆した(ろ)建物を相手方山田正子に分割する。
(4) 別紙目録(2)の(ト)のたんす(大)一棹横及び(チ)の茶だんす一棹を申立人山田ミサコに分割する。
(5) 相手方山田俊一は、申立人山田ミサコに対し金三四万九、三五六円を本審判確定の月から毎月六、〇〇〇円ずつ(但し最後の月は一、三五六円)五九回に分割して、毎月末日までに支払せよ。
(6) 相手方山田俊一が前項の分割債務の履行を引続き二回分怠るときは、同相手方は、その翌月一日においてその残額を一時に支払せよ。
(7) 相手方山田俊一は、申立人山田スズコに対し金三〇万四、八四二円の支払をせよ。(この支払を遅滞するときは、年五分の割合の遅延損害金を附加して支払うべきものとする。)
(8) 相手方山田正子は、申立人山田ミサコに対し金一〇万一、九〇八円の支払をせよ。(この支払を遅滞するときは、年五分の割合の遅延損害金を附加して支払うべきものとする。)
(9) 申立人山田スズコは、相手方山田正子に対し、別紙目録(1)の(ハ)(ろ)の建物の明渡しをせよ。
(10) 相手方山田俊一は、申立人山田ミサコに対し、別紙目録(2)の(ト)のたんす(大)一棹及び(チ)の茶だんす一棹の引渡しをせよ。
(11) 本件手続費用(当庁昭和三六年(家イ)第四七号事件を含む)のうち申立人山田スズコが支出している金一万三、六五五円はそのうち四、五五三円を申立人山田ミサコの三、〇三四円ずつを申立人山田スズコ、相手方山田俊一及び山田正子の負担とする。
理由
(1) 当事者
一、被相続人山田一郎は、昭和三六年六月一〇日死亡し、その共同相続人は妻たる申立人ミサコ、長女たる申立人スズコ、次女たる相手方梅子、長男たる相手方俊一及び三女たる相手方正子である(筆頭者山田一郎にかかる改製原戸籍及び戸籍の各謄本)から、その法定相続分は申立人ミサコが三分の一、その余の当事者がおのおの六分の一づつである。
二、申立人ミサコは、一郎死亡後、その大部分の期間を相手方正子と同居していたが、昭和三八年八月頃から別紙目録(1)の(ハ)(ろ)の建物-以下別紙目録の用語を略し単に(1)の(ハ)(ろ)のごとく称す-において申立人スズコと同居しており、無職であるが、一郎生存中から若干の特有財産があり、従前相手方俊一と同居していた期間は同相手方の、相手方正子と同居していた期間は同相手方の扶養により生活していたものである(同申立人に対する第一、三、四回審問)が、現在は、申立人スズコの援助と、自らの財産により生計を立ておるもののごとくである。
三、申立人スズコは、独力で○○大学理学部を卒業し(家庭裁判所調査官稲留秀穂の調査報告書)、現在は某高等学校の教員をして生計を立て(同申立人に対する第三回審問)、被相続人死亡当時から(1)の(ハ)(ろ)の建物に居住しておる。
四、相手方梅子は、昭和一八年一二月三○日に現在の夫中村伸一と婚姻し、(上記筆頭者山田一郎の改製原戸籍謄本)堅実な家庭の主婦であつて、この婚姻の際、一郎から婚資として相当の贈与を受けておるので、本件遺産分割については関心がない。(同相手方に対する審問)
五、相手方俊一は、小学校時代から一郎により鉄工の技術を修得し、終戦後復員してから、一郎を助けてチーズ巻機製造の事業に携わり、昭和二四、五年頃に、一郎からこの事業の譲渡を受けて独立し、(1)(ハ)の(い)等の工場においてこの事業を経営しつつあり、昭和二六年中頃からその家族とともに(1)(ロ)の建物に居住している。(稲留調査官の報告書同相手方に対する第二回審問及び相手方スズコに対する第三回審問)
六、相手方正子は、一郎の援助により昭和二三年三月○○経済専門学校を卒業し、就職していたが、昭和三七年三月に小林良男と結婚し、現在なお内縁関係中である(同相手方に対する第一回照会に対する回答書)
(2) 遺産の内容(債権債務を除く)
一、(1)の(イ)(ロ)の宅地及び建物が遺産であることは、当事者間に争なく(稲留調査官の報告書)、上記のとおりこの建物は相手方俊一が使用中のものであるが、同相手方は、相続開始後昭和三六年末頃に、従前工場として使用していた土間の部分を床上げするなどの改造をして、現在のとおり模様替したものである。(同相手方に対する第一回審問、証人A及び同Bの各証言)
二、(1)の(ハ)(い)の建物は、相手方俊一が使用中の工場の一部であつて、別紙図面(イ)の部分に当り、昭和二三年中に、当時一郎が大木松男外六名の共有者から借受けていた岸和田市○○町○○○番地の一地上に建築せられたものであるが、その後相手方俊一が(ロ)(ハ)(ニ)及び(ホ)の各部分を増築し、現在はこれら各部分が一体をなしており、当初(イ)の部分は独立の建物としての存在を失つたものである(申立人ミサコに対する第二回審問、相手方俊一に対する第二、五回審問)が、(1)の(ハ)(ろ)の建物とともに、当初一郎名義により公租を負担していたもののごとく、当時(ろ)建物を附属建物とし、所有者一郎として目録表示のとおりの家屋台帳が作成せられており、この台帳を基として所轄登記所が不動産登記法による登記を行つているもののところ、昭和三二年一二月頃にこの建物の敷地を相手方正子及び同俊一が前所有者から分割して買受け、相手方正子は○○○番地の一〇(七七・一五坪)を相手方俊一は○○○番地の一一(三九・九七坪)をそれぞれ所有することとなり、この建物の敷地が両者に分有せられることとなつた-この建物敷地外に隣接する○○○番地の五(三七・一八坪)は、一郎が一体として借受けていたもののところ、この部分は相手方俊一が買受けた-(相手方俊一に対する第五回審問、家屋番号○○○番の二の建物登記簿謄本、裁判所書記官補高木宏[イ安]作成の電話聴取書、土地家屋調査士中野米晴作成の地積測量図)ものであるが、この建物(部分)の建築は、相手方俊一が一郎から鉄工業を譲受ける以前のものであるから、それは一郎の遺産をなすものと認むべきである。
-もつとも、当初建築せられた(イ)部分に附加せられた(ロ)ないし(ヘ)部分も一体として遺産となるものと解せられないこともないが、この場合相手方俊一が増築したことが明らかであつて、増築部分を一体として遺産に加えると、当事者間に複雑な権利関係を派生せじめるおそれがあるので、後記のとおり、この建物(部分)を相手方俊一に分割する前提のもとに、あえて建物の一部分を遺産として扱うものである。
三、(1)の(ハ)(ろ)の建物は、上記のとおり一郎が借受けていた○○○番地の一地上に当初納屋として建築せられたものに、造作を附加して順次拡張したもので、相手方正子がその費用の一部を負担し、相手方俊一が西側葺下部分の資材労力を負担し(稲留調査官の報告書、申立人ミサコに対する第四回審問、申立人スズコに対する第二回審問、相手方俊一に対する第二、五回審問、相手方正子に対する第二回照会に対する回答書)たもののごとくであるけれども、申立人両名がこの建物を遺産として申立て、相手方正子においても、これを遺産として扱うことに異議なく(同相手方に対する第三回照会に対する回答書)また相手方俊一においても、これを遺産に加えることについて強いて異議を称えない(同相手方に対する第一回審問)ので、これを遺産として分割の対象となすを相当とするもののところ、この建物は上記のとおり相手方正子が買受けた○○○番地の一〇地上に存在することとなる(相手方俊一に対する第五回審問)ものであつて、その床面積は約一六・五坪となる(検証調書添附図面)ものである。
四、(1)の(ニ)の建物部分は、相手方俊一が使用中の工場の一部であつて、別紙図面の(ト)及び(チ)の部分に当り、この(ト)の部分は、一郎が昭和二五、六年頃に養鷄場の一部として、また(チ)の部分は昭和三一、二年頃に養鷄の作業場兼倉庫として建築したものである(申立人ミサコに対する第三回審問、申立人スズコに対する第二回審問、相手方俊一に対する第三回審問、検証調書中相手方俊一の供述)から、これを上記二、と同一の理由により、それが建物の一部ではあるが、遺産として取扱うを相当とする。
-もつとも、相手方俊一は、(チ)の部分の材料の一部を供出し、また、相続開始後颱風の被害を受けて修繕を施した旨述べ(同相手方に対する第二、三回審問)その事実を肯認できないこともないが、これに要した費用の価額の確定は困難であつて、全体としての価額の計算に大差はないので、この場合、このことは無視する。
五、(2)の各物件が一郎の所有に属していたもので、そのうち(イ)ないし(ヘ)の物件は、相手方俊一が鉄工業の機械器具として使用しているもの、ないし(ヲ)の物件は、同相手方が使用ないし保管中のものであるが、申立書記載の他の動産類は、相手方俊一が購入したもの(旋盤(四尺)一台、ミーリング一台、電気ボール一台、モーター一台、工具類)かまたは存在しない(布団四枚、座敷机一脚、風車一台、ガラス戸二枚)か、またはほとんど無価値のもの(製図用具一式、製図板一枚、ガラス戸四枚)であつて(稲留調査官の報告書、相手方俊一に対する第五回審問)相手方俊一は、当初(2)の物件のうち機械器具類は、同相手方が一郎から贈与せられたものと主張していたが、後になつて、それを遺産に加えることについて同意した(同相手方に対する第五回審問)ので、この各物件を遺産として処理すべきものである。
六、申立人スズコ及び同ミサコは○○局(2)-第○○○○番(架設場所岸和田市○○町○○○番地工場内-実際は○○○番地の一〇-加入者山田一郎)にかかる電話加入権は、一郎の遺産に属すると供述する(申立人ミサコに対する第二回審問、申立人スズコに対する第一回審問)が、この供述は、申立人ミサコのその後の供述及び相手方俊一の供述に比して、必ずしも措信しがたく、この電話は、相手方俊一が鉄工業経営上必要なためその工場内に自己の負担において架設したものであつて、差押処分を免れるために一郎の名義を借りてしたもの(申立人ミサコに対する第五回審問、相手方俊一に対する第二回審問)と認めるべきものであるから、本件の遺産に加えることはできない。
(3) 債権
一郎が死亡した昭和三六年六月一〇日当時、○○銀行岸和田支店に一郎名義の定期預金一〇〇、〇〇〇円及び普通預金一四万三、〇八七円があつたものであるが、申立人ミサコが、同年九月二〇日に定期預金全部と、普通預金の大部分を解約し、同日同申立人が自己名義として預替えた(相手方俊一に対する第三回審問、○○銀行岸和田支店の回答書)もののごとくであるが、申立人ミサコは、昭和三〇年以後一郎の病気療養中になされた貯蓄は、同申立人が独力で養鷄業をした収入によるもので、預金は一郎の口座を利用していたに過ぎず、それは、同申立人の権利に属する旨主張し(同申立人に対する第四回審問)申立人スズコ及び相手方正子も同趣旨の供述をし(申立人スズコに対する第四回審問、稲留調査官の報告書)、また相手方俊一は、当初からこれを遺産であると主張していた(稲留調査官の報告書)が、終りにこれは遺産から除外することに同意した(同相手方に対する第四回審問)ので、これら預金は申立人ミサコの特有財産と認めるべきである。
(4) 債務
相手方俊一は、一郎の死亡に際し、葬儀費用として一五万〇、〇〇〇円を費し、香でんとして五万〇、〇〇〇円を受けた(申立人ミサコに対する第四回審問、相手方俊一に対する第三回審問)ものであるから、差額一〇万〇、〇〇〇円を相続財産の負担する債務として、本件分割に当り清算するを相当とする。
-もともと、可分債務も、可分債権と同様に、共同相続人の法定相続分に応じた当然分割せられると解すべく、よし遺産分割においてこれを分割の対象としても、債権者に対し対抗できないものであるが、葬儀費用は本来相続開始時において共同相続人が必然的に負担すべき特種の費用であつて、対共同相続人間の債権債務であるから、遺産分割に当つて費用負担者から申立がなされたときは、これを分割の対象とすべきものと解する。
(5) 特別受益
一、一郎は、昭和三六年三月頃に同人名義の預金を引出した金員をもつて、同人名義により東芝株一、〇〇〇株を買入れ、その死亡直前に申立人ミサコに名義書換したものである(申立人ミサコに対する第三回審問)が、同申立人は、上記のごとく昭和三〇年以後における貯蓄は、同申立人の権利に属するものと主張し、申立人スズコ及び相手方正子も同趣旨の供述をし、相手方俊一は、当初からこの株式を神戸製鋼株六〇〇株とともに、遺産であると主張していた(稲留調査官の報告書、同相手方に対する第三回審問)が、終りにこれを遺産ないし申立人ミサコの特別受益としないことに同意した(同相手方に対する第四回審問)ので、それは、申立人ミサコの特別受益とすべきでない。
-なお、神戸製鋼株六〇〇株は、当初から申立人ミサコが自己名義で買入れたもののごとくである(稲留調査官の報告書中相手方正子の供述、申立人スズコに対する第一回審問)。
二、相手方梅子は、その婚資として、自己の相続分に相当する価額の贈与を受けていることを自認する(同相手方に対する審問)ので、同相手方については、相続分が存在しないものとすべきである。
-もつとも、その真意は、いく分の相続権を放棄する趣旨と推察できないことはないが、所定の方式によれば、何らの理由なくして相続分全部の放棄が許されることに鑑み、他の共同相続人に格別不利益のない本件において、強いて婚資の価額を算定する必要はないものと解すべきである。
三、申立人スズコは、一郎が昭和二三年頃に、相手方俊一に対し約一〇〇万〇、〇〇〇円の融資をしそれは贈与とみなすべき旨供述する(同申立人に対する第二回審問)が、他にしかるべき資料はなく、この供述は相手方俊一に対する第二回審問における供述と対比して措信し難く、ただ昭和二九年頃に、同相手方が一郎から一〇万〇、〇〇〇円の融資を受けたことがあり、それは贈与とみなされるべきものとしても、同相手方は一郎に対し、その後において一〇万〇、〇〇〇円を下らない生活費の援助及び医療費等の負担をしている(同相手方に対する第二回審問)ので、この利益は相殺せられ、同相手方について特別受益はないとしなければならぬ。
四、相手方正子は、上記のとおり、一郎の援助により、昭和二三年三月に○○経済専門学校を卒業したもののところ、これが費用は確定しがたいけれども、同相手方がその後一郎に対してした生活費の援助、(1)の(ハ)(ろ)の建物の造作費及び一郎の療養費の負担などにより、相殺して十分見合うものであると認められる(同相手方に対する第一、二回照会に対する回答書、申立人ミサコ、同スズコ及び相手方俊一に対する各第三回審問、相手方梅子に対する審問)ので、この点について特別利益はなかつたものと言うべく、申立人スズコ及び相手方俊一は、相手方正子が一郎から一〇万〇、〇〇〇円の贈与を受けたと供述する(申立人スズコに対する第二回審問、稲留調査官の報告書)が、この供述は、申立人ミサコの供述(同申立人に対する第二回審問)、相手方正子に対する第一回照会に対する回答書)と対比して十分措信しがたく、もしありとすれば、それは申立人ミサコが自己の特有財産を相手方正子に贈与したもの(申立人ミサコに対する第二回審問)と認めるべきであるから、この点についても、同相手方に特別受益はないものと言うべきである。
(6) 相続財産の価額
一、(1)の(イ)の宅地の時価は六八万七、二四〇円、(1)の(ハ)(ろ)の建物の時価は四〇万六、七五〇円である。(鑑定人東勝治郎の鑑定)
二、(1)の(ロ)の建物の時価は、この建物が相続開始の状態で現存するものとして一九万二、三〇〇円である。(証人A及び同Bの各証言)
三、(1)の(ハ)(い)の建物部分(別紙図面(イ)部分)の時価は六万〇、〇〇〇円、(1)の(ニ)の建物部分(別紙図面(ト)及び(チ)部分)の時価は、四万七、五〇〇円である。(鑑定人太木秀徳の第二回鑑定)
四、(2)の各物件の時価は計七万八、〇〇〇円である。(鑑定人太本秀徳の第一回鑑定)
(7) 相続分の算定
一、上記のとおり、相手方梅子に相続分がないものとすると、当事者の相続分は、申立人ミサコが三分の一、申立人スズコ、相手方俊一及び同正子がそれぞれ九分の二ずつとなる。
二、上記相続財産の価額合計一四七万一、七九〇円から、相手方俊一の負担した葬儀費用の引当として一〇万〇、〇〇〇円を控除した一三七万一、七九〇円を当事者の相続分に割当てると、申立人ミサコが四五万七、二六四円、申立人スズコ、相手方俊一及び同正子がおのおの三〇万四、八四二円となり、相手方俊一は、これに一〇万〇、〇〇〇円を加えた四〇万四、八四二円を受けることとなるものである。
(8) 分割の方法
一、(1)の(ハ)(ろ)の建物は、上記のとおり相手方正子の所有地に建てられているのであるが、同相手方がこの土地の所有権を取得してから、一郎が賃料を支払うた形跡はないので、この敷地の使用関係は、そのとき以後使用貸借であつたものと認めるべきもののところ、上記鑑定は、この建物を現状のまま使用できるものとして鑑定したものであるが、相手方正子は、この敷地を申立人ミサコ以外の当事者に引続き貸借する意思がなく、自らこの建物の分割を受けて申立人ミサコを居住せしめたいと希望している(同相手方に対する第三回照会に対する回答書)ので、この建物は、相手方正子に分割し、その価格と相続分の価格との差額一〇万一、九〇八円は、同額の金銭債務を他の当事者に対し負担せしめて補償せしめるを相当とする。
二、(2)の(ト)のたんす(木)一棹及び(チ)の茶だんす一棹(価格計六、〇〇〇円)は、現に相手方俊一が保管しているが、申立人ミサコが永年使用していたもので、同申立人においてその分割を希望している(同申立人に対する第一回審問)ので、これを同申立人に分割するを相当とする。
三、(1)の(イ)(ロ)の宅地及び建物並びに(2)の各物件((ト)及び(チ)を除く)は、相手方俊一が使用中のもの、(1)の(ハ)(い)及び(1)の(ニ)の各建物部分は、相手方俊一の工場の一部であるから、いずれも同相手方に分割し、これら物件の価格と相続分(葬儀費用の償還金を含む)との差額六五万四、一九八円は、他の当事者に対し同額の金銭債務を負担せしめて、補償せしめるを相当とする。
四、そうして、この場合、相手方正子が負担する債務は、同相手方が取得する(1)の(ハ)(ろ)の建物を引続き使用するはずの申立人ミサコに対し、支払わしめるを相当とするので、いきおい、相手方俊一は、申立人ミサコに対し三四万九、三五六円を、申立人スズコに対し三〇万四、八四二円を支払わねばならぬこととなるもののところ、相手方俊一は、申立人ミサコについて将来その生涯にわたる扶養義務の履行を自任し、同申立人に対する補償金の分割払いを希望し(同相手方に対する第四回審問)申立人ミサコにおいても、このことを承諾し無利子で月六、〇〇〇円ずつの分割払いによることに異議がない(同申立人に対する第四回審問)ので、同申立人に対する相手方俊一の債務は、失期約款を附した上、この方法によらしむべきものとする。
(9) 結語
一、かようにして、分割を実施するについては、(1)の(ハ)の建物についてその所在地の地番名の更正登記、及び(い)と(ろ)の建物の分筆登記を行うを要する-床面積の更正登記は分割を受けた当事者単独でなすことができる-ので、当事者をしてこの登記手続をなさしむべきである。-(この審判の確定後、いずれの当事者によつても単独で登記手続ができる。)
二、相手方正子は、申立人スズコをして、(1)の(ハ)(ろ)の建物を使用せしめる意思がないので、同申立人は、この建物から退去すべき義務を負うもの、相手方俊一は、申立人ミサコに対し(2)の(ト)のたんす一棹及び(チ)の茶だんす一棹を引渡す義務を負うものであるから、それぞれについて履行命令を附するものとする。
三、そうして、本件手続に要した費用は、相手方梅子を除くその余の当事者間で各相続分に応じ分負担せしめるものとし、もつて主文のとおり審判する。
別紙
目録(1)-(不動産)
(イ) 岸和田市○町○○番地
一、宅地三八坪一合八勺
(ロ) (イ)地上所在
(家屋番号同町第○○番)
一、木造瓦ぶき平屋建居宅一棟
――建坪一九坪二合三勺――
(ハ) 岸和田市○○町○○○番地地上所在
(家屋番号同町第○○○番の二)
(い) 木造ルーフィング葺平屋建工場一棟
――床面積一〇坪――
(同上附属建物)
(ろ) 木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建居宅一棟
――床面積一六坪二合七勺――
(ニ) 岸和田市○○町△△△番地の一一、△△△番地の五地上所在
木造亜船鋼板葺平屋建工場の一棟九坪五合部分
(別紙図面(ト)及び(チ)部分)
以上
岸和田市○○町所在建物配置図<省略>
目録(2)-(動産類)
(イ) 旋盤(八尺) 一台
(ロ) 旋盤(六尺) 一台
(ハ) ボール盤 二台
(ニ) 電気ボール 一台
(ホ) 万力 二台
(ヘ) ハンマー(大) 一本
(ト) たんす(大) 一棹
(チ) 茶だんす 一棹
(リ) 長持 一棹
(ヌ) 座敷机(大) 一脚
(ル) 座敷机(小) 一脚
(ヲ) 丸テーブル 一脚
以上