大阪高等裁判所 昭和39年(く)105号 決定 1964年9月18日
少年 K・H(昭二〇・四・一生)
主文
本件各抗告を棄却する。
理由
本件抗告の理由は抗告人両名共同名義の抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。
抗告理由第一点は、原審はその審判期日に附添人に対し適法な呼出状の送達をしなかつた違法があるというにある。
しかし右審判期日の二日前に附添人に対し審判期日通知の電話連絡のあつたことは抗告人等の自認するところであり、大阪家庭裁判所調査官豊田十三郎、同裁判所書記官玉井健各提出の顛末書によると、右連絡に当つては審判の日時、場所を明示したことも明らかで附添人もこれを十分承知していたことを窺知するに足るのである。そしてかかる電話による通知が少年審判規則一六条の二所定の簡易の呼出に該当することは明白であるばかりでなく、附添人は右期日に出席し意見を述べる機会を与えられておることは記録上明らかであり、この種事犯において附添人に対する審判期日二日前の呼出、通知は附添人の審判準備に余裕がなかつたものともいいえないし、また審判期日に遅れて出席した附添人に対し係員より準備の時間を与えるべきか否かを質したところその必要なしとして審判に立会したことも前記顛末書により明白であるから、原審の審判手続にはなんら違法の点なく、論旨は理由がない。
抗告理由第二点は、原決定は本件非行事実の一部を強姦未遂と認定したが、行為者の目的よりして本件は強制猥褻未遂にすぎないから重大な事実の誤認があり、また被害者の告訴なくしてなされた審判手続は違法であるというにある。
しかし本件非行事実が原決定認定のとおりであることは記録により明白である。また親告罪につき告訴なくとも審判のなしうることは少年法の本旨に照し当然のことに属するから、告訴なくしてなされた本件審判手続には違法の点なく、論旨は理由がない。抗告理由第三点は、原決定の処分は甚しく不当であり、これにより少年の大学入学の希望を失わしめその将来を暗黒と化した。少年にとつては死刑判決にも等しい少年院送致をうけるよりはむしろ刑事処分により刑の執行を猶予せられることを望むというにある。
よつて記録を精査検討するに、少年は昭和三七年九月および同年一一月の二回にいずれも小学校六年生の女児に対し強制猥褻の行為をし、また昭和三八年三月同じく小学校六年生の女児に対し強姦未遂に及んだが原審において不処分決定をうけたことがある。そしてまたもや本件において同種の非行を累ねたことは、前記非行歴につき自省自戒するところが皆無であるといえるばかりでなく、却つて小学校六年生程度の女児は成熟期に近く、しかもこの種犯行の対象とすることが容易であるとの経験を悪用したものと推測され犯情必ずしも軽くはないと認められる。しかしながら本件の非行の結果が比較的軽微に終つたことその他諸般の情状を考慮するときは少年を刑事処分に付することは適当ではないが、少年をこのままの状態で両親の保護監督に委ねることは再び同種の行為を反覆するおそれが十分にあると思料されるので、この際少年を少年院に収容し、規律ある生活の下にゆがめられた性格を矯正し、社会適応性を得しめることが相当であると考えられる。よつてこれと同趣旨に出た原決定は当裁判所も首肯しうるところであり、甚しく不当な処分であるとは認められない。論旨は理由がない。
よつて少年法三三条一項により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 山田近之助 裁判官 藤原啓一郎 裁判官 石田登良夫)