大阪高等裁判所 昭和39年(く)29号 決定 1964年5月15日
少年 M(昭二二・八・六生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は申立人松○義○作成の抗告申立書並びに申立人松○義○、同松○亀○連名作成の抗告申立書各記載のとおりであるから、これを引用する。
申立人松○義○名義の抗告の趣意について
論旨は申立人である少年の父松○義○は少年の母松○亀○と共に原裁判所の昭和三九年三月一七日午前一〇時と指定された少年に対する本件保護事件の審判期日に保護者として出席するつもりで原裁判所におもむいたが、途中交通混雑のため指定時刻に遅れ、同日午前一〇時四〇分に出頭し、審判に間に合わなかつたものであるから、原決定を取消し更に審判のやり直しを求めるというのである。
調査するに、少年に対する窃盗保護事件記録によれば申立人は昭和三九年三月一七日午前一〇時の指定された同保護事件の審判期日の呼出状を同月一〇日に送達を受け、該審判期日には指定時刻午前一〇時を三〇分経過するも出頭しなかつたので、原裁判所は保護者不出頭のままで審判を開き審理の上同日原決定を言渡したことが明らかである。少年法並びに少年審判規則によれば審判期日には保護者を呼出さなければならないものとされているが、同期日に審判を開くには保護者の出頭は要件とされていないのみならず当審の事実の取調の結果によれば申立人松田義照らは当日予期しない交通事情その他正当事由により期日の指定時刻に遅れたものではなく当日同人の仕事の打合せがあつて原裁判所に出頭のため出発する時刻が遅れたためであると認められるから、原裁判所の措置は相当であつて何ら法令に違反するものではない。論旨は理由がない。
申立人松○義○、同松○亀○連名の抗告趣意について
論旨は要するに原決定の処分が著しく不当であるから、原決定の取消を求めるというのである。
よつて少年に対する各窃盗保護事件記録並びに少年調査記録を調査して当審における事実の取調の結果をも参酌して次のとおり判断する。
少年は昭和三七年五月一一日原裁判所において窃盗、暴力行為処罰に関する法律違反の非行により教護院送致の保護処分に付され、大阪府立修徳学院に収容されたが、屡々無断外出をしてその間の窃盗の非行により同年七月二〇日同裁判所において初等少年院送致の決定を受け、昭和三八年八月一三日加古川学院を仮退院したものであるが、勤労意欲に欠け、就職しても永続せず同年一一月以後は定職なく、不良交友になじみ、本件非行をみるに至つたものである。そして本件非行そのものは物干場等屋外の衣類の窃盗三件と衣類の万引一件と他の同年輩の者三名と共謀の上他の共犯者に追随して軽四輪貨物自動車一台を窃取したものであつて、犯罪の手口が進んでいるとはいえないが、その非行の要因は相当根深いものであることが認められる。すなわち、資質面を鑑別結果によつてみると知能は稍低く(IQ-八八)、性格は即行、発揚、自己顕示という特性に偏りがあり、深く考えて行動するところがなく、周囲の刺激又は不良友人におどらされて衝動的に動き廻り、反社会的な行動を平気でやつてのけるところがあり、家庭への定着性も失つていることが認められ、他方少年の家庭をみると父母の少年に対する愛情は認められるけれども、指導力に乏しく、右の如き資質の少年を保護することはできないと認められ、仮退院後の保護観察においても何ら実効を挙げ得なかつた事情も認められるから、少年の健全な育成を図るためには少年を中等少年院に収容して紀律ある集団訓練により矯正教育をする必要があると考えられる。されば原決定の処分は相当であつて、論旨は理由がない。
以上の次第で、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 笠松義資 裁判官 河村澄夫 裁判官 八木直道)