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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)1584号 判決 1965年11月17日

控訴人 達野才次郎

右訴訟代理人弁護士 清水兼次郎

被控訴人 高橋治一

右訴訟代理人弁護士 山村治郎吉

白石満平

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人の被控訴人に対する別紙目録記載宅地の賃料は昭和三八年五月一日以降一ヵ月金一万五、〇〇〇円であることを確定する。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、との判決を求め、被控訴代理人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする、との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出、援用、認否は、左に付加するほか原判決事実摘示と同一(ただし、控訴人の援用した証拠として原審における鑑定人中西三郎の鑑定の結果を付加する。)であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、

一般に、宅地の地価は、当該土地につき存する地代を一定額の資本より生ずる所得と観念し、これを一定の利子歩合により資本に還元したるものをいうのである。しかして、右地代の資本還元にもちいらるべき利子歩合は、土地資本の具有する安全確実性に鑑み、最も低率であるが当然であり、具体的には年二分とするのが相当である。しかも、本件土地のように、賃借権が存在する場合には、地主にとって土地を換価することは容易でないから、これを売買の対象としてみた更地価格なるものは意味がなく、土地は毎月定収入をもたらす資本としての価値しかもたない。本件土地についても事は同様で、本件土地は右に述べた意味における資産としてのみ評価さるべきものである。

さて、本件土地の現在の賃料は、昭和三六年中改定せられたものであって、月額二、六七〇円(年額三万二、〇六四円)である。これを年二分の利子歩合で資本に還元すると金一六〇万三、二〇〇円となる。これが昭和三六年の右に述べた意味における本件土地の地価である。しかして、被控訴人から控訴人に対し地代増額請求があった昭和三八年においては、昭和三六年におけるよりも一般消費者物価指数が二割四歩二厘上昇しているから、この物価上昇率を右地価に乗ずると金一九九万一、一七四円となり、これが増額賃料算定の基準となるべき地価である。よって、これに年二分の率を乗ずると、月額三、三一八円(年額三万九、八二三円)を得るが、これこそ本件土地の合理的実際的な適正賃料というべきである。

それにもかかわらず、控訴人は、原審以来右適正賃料の二倍を超える月額七、〇〇〇円の賃料を支払うべき意思を表明しているものであり、被控訴人の本訴請求が失当であることは明白である。と述べた。

証拠として≪省略≫

理由

別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もと、被控訴人先代の所有に属し、大正一五年中控訴人に賃貸されたものであるが、その後被控訴人において相続によりこれを取得し、控訴人に対する賃貸人の地位を承継して現在にいたっているものであり、昭和三八年四月当時その賃料は一ヵ月二、六七〇円であったこと、控訴人は本件宅地上に住宅および作業場を建築し、その残地を材料置場に使用しており、その賃料については地代家賃統制令の適用がないこと、被控訴人は昭和三八年四月二〇日京都簡易裁判所における調停申立事件において控訴人に対し本件宅地の賃料を一ヵ月金三万一、二六〇円に増額すべき旨の申入をなしたこと、以上の事実は当事者間に争がなく、右一ヵ月二、六七〇円の賃料が増額申入当時経済事情の変動により不相当のものとなっていたことは控訴人において明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなされる。

被控訴人は、右賃料増額申入当時における本件土地の賃料は、一ヵ月少くとも金二万九、二〇〇円であるから、右増額申入は右の限度においてその効力を生じたものであると主張する。

よって審究するに、原審における鑑定人増谷正三の鑑定の結果によれば、宅地の地代(年額)は当該宅地の更地としての時価に地主の利潤率たる年六分の率を乗じ、その積に固定資産税を加算して算出すべきものであるが、当該宅地上に借地権が存するとき(換言すれば、本件におけるごとく、賃貸借継続中の宅地について賃料を増額せんとする場合)は、右借地権の価額を相当に評価してこれを前記更地価格から控除すべきこと、本件土地の時価は昭和三八年四月において金一、一五〇万一、一〇〇円(坪当り一三万円)、これに対する固定資産税額は金五、四一六円であり、控訴人の借地権は右更地価格の二分の一と評価せられるので、これらを右算定方式にあてはめれば、本件土地の一ヵ月の賃料は一応金二万九、二〇〇円となること等が認められる。

原審における鑑定人中西三郎の鑑定の結果は、地代の算定については右と同様の方式に依拠するも、ただ本件土地の更地価格を金一、二三八万五、八〇〇円(坪当り一四万円)、借地権の価額を右更地価格の三分の二と評価する点において差異を生じているのであるが、右更地価格および借地権の評価の点は、原審における上京税務署に対する調査嘱託の結果ならびに前記増谷鑑定人の鑑定の結果に照し相当と認めがたいから、結局右中西鑑定人の鑑定の結果はこれを採用することができない。

また、控訴人は、右認定と全く異なる地代の算定方式によるべきことを詳細に主張しているけれども、右は独自の見解に基くものであり、にわかに採用の限りでない。

ところで、本件のごときいわゆる継続賃貸の場合における地代の算定については、前記算定方式に準拠するほか、なお、当該賃貸借の沿革その他諸般の事情をも充分考慮に入れなければならないことはいうまでもない(前記増谷鑑定人の鑑定の結果も一応本件宅地の地代を前記のように算定しつつ、なお、賃貸借の経緯や権利金その他賃借人の出捐を別途考慮の必要あるものとなしている。)。しかるところ、本件賃貸借は、古く大正一五年被控訴人先代との間に設定せられ、爾来四〇年の長きに亘って継続し来ったものであることはさきに認定したとおりであり、また、本件土地の現在の賃料である月額二、六七〇円が、本件増額申入(十数倍の増額である。)に先立つ僅か二年前に改定された賃料であることは被控訴人において明らかに争わないところである。

しかして、戦後における土地価格の騰貴は、インフレーション、需給関係の不均衡に加うるに土地の投機商品化の結果であり、地主側からする労力資金の投資の所産でないことは公知の事実であるから、本件のような戦前に設定されて継続四〇年にも及ぶ借地権についてもっぱら増額請求時の客観的な賃料額のみを基準とすることは必ずしも妥当とはいいがたく、また、従来比較的低額であった賃料を短期間の後に極端に急激に増額することも(いかに統制外賃料であるとはいえ)特段の事情の認められない本件においては借地人たる控訴人の生活を根底から脅かすものとして容認しがたいこというまでもない。

よって、当裁判所は、右認定にかかる各事実を本件賃料増額に対する消極的因子として参酌し、前記増谷鑑定人の鑑定の結果により認められる一ヵ月金二万九、二〇〇円より一万四、二〇〇円を減じた一ヵ月金一万五、〇〇〇円をもって本件宅地の昭和三八年四月当時における適正賃料であると認める。

以上説示のとおりであるから、被控訴人の本訴請求は、本件土地の賃料が増額申入の後である昭和三八年五月一日以降一ヵ月金一万五、〇〇〇円であることの確認を求める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきものである。

よって、右と異なる原判決を変更することとし、民訴九六条、九二条本文に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野田常太郎 裁判官 柴山利彦 宮本聖司)

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