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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)1702号 判決 1965年6月24日

控訴人(被申請人) 株式会社日本紡機製作所

被控訴人(申請人) 森山満夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の本件仮処分申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、

控訴代理人において、「本件解雇は、被控訴人が共産主義的思想を有していることのみを理由としてなしたものではなく、被控訴人の言動によつて控訴会社の他の従業員が悪影響を受け、控訴会社の円滑な事業運営に支障を来す虞を生じたので解雇をなしたものである。即ち、被控訴人は矢田らに対して労働学校への通学を強く勧誘した結果、矢田は定時制高校を中退するに至り、その他の者も作業中職長の命令を聞かなくなり、仕事も怠り、控訴会社全体の作業能率を著しく低下せしめた。その結果、従業員の父兄はその子弟を控訴会社から退職させる旨申入れ、且つ新規採用も不可能となる虞を生じ、かかる事態を放置すれば会社の運営維持が困難となるので、やむなく本件解雇をなした。現に昭和四〇年度は、徳島県脇町及び鴨島町地区から一人も新規採用が出来なかつた次第である。」と陳述し、被控訴代理人において、右主張を否認したほか、

原判決事実摘示と同一(但し原判決四枚目裏四行目「二ケ月位」とあるのを、「二日位」と訂正)であるから、ここにこれを引用する。

理由

一、控訴会社がブルドーザーのキヤタビラ、洗濯機のハンドル等の製造を業とする会社であり、被控訴人が昭和三一年四月控訴会社の工員として雇傭され、昭和三九年四月当時控訴会社から毎月末平均賃金一四、四八二円の支払を受けていたこと、控訴会社が同年四月八日被控訴人を解雇する旨の意思表示をなし、同日以降被控訴人の就労を拒否していること、控訴会社の従業員が約一〇〇名であり寮に寄宿している従業員が年令一五才から二六才までの青少年であつて、同会社の求人先が主として徳島県であること、被控訴人が右解雇当時控訴会社の従業員で組織する日本紡機製作所労働組合(以下単に組合と称する)の組合員であつたことは、当事者間に争がない。

二、被控訴人は、本件解雇は被控訴人の思想信条を理由とする差別的取扱であり、且つ組合活動をなしたことを理由とする不当労働行為として無効であると主張するのに対し、控訴人はこれを争うので判断する。

先ず証人細井治夫、同山口博の各証言、被控訴本人訊問の結果を綜合すると、

(一)  控訴会社の労働組合は昭和三六年七月末頃結成され、被控訴人は右結成当時組合書記長を一期勤めた。被控訴人は昭和三八年七月頃総評系の関西勤労者教育協会主催の労働学校が大阪で開催されていることを知り、組合を強化させる目的を以て組合長細井治夫や書記長に対し組合員を右学校に参加させることを要請したところ、組合では右要請を執行委員会に付議した結果、右執行委員会において組合員を労働学校に参加させることを組合の正式決定として承認し、組合が参加者の授講料と交通費を負担することに決定したが、予算の都合上参加希望者を二回にわけて通学させることとなつた。

(二)  そこで被控訴人は右組合の決定に従い、同年七月中旬頃から八月下旬頃までに至る間、組合員に対し右労働学校へ参加することを勧誘した結果、同年八月一日から約一ケ月間矢田某ほか四名が浪速労働学校へ通学し、同年九月一日から篠原某ほか六名が関西労働学校へ通学する様になつた。(右通学の事実は当事者間に争がない。)ところが同年九月頃組合長細井治夫は、右労働学校の性格が総同盟系の組合の方針と異るとして、組合員に対して労働学校へ通学しない様に指示するに至つた。

(三)  矢田はかねて定時制高校に通学し、その夏季休暇中を利用して浪速労働学校に通学していたのであるが、同年八月末右労働学校の受講を卒えたのち、同年九月から定時制高校を休学し、正月にも帰省しなかつたので、昭和三九年一月一七日頃控訴会社労務課長山口博が矢田の郷里である徳島県に行つた際、矢田の父兄から「矢田が高校に行かなくなつたのは労働学校へ行つたからだ、指導者の処分はどうした」との抗議を受けた。そこで山口課長は、控訴会社の求人先が主として徳島県脇町及び鴨島町地区であるため、右の事態が父兄に知れた場合、同地方の保守的傾向からして、控訴会社の今後の求人や現従業員の確保に支障が生ずることを憂慮し、同年一月から三月頃までの間再三被控訴人の父母に対し、被控訴人を任意退職させる様交渉し、更には同年三月末頃直接被控訴人に対し、被控訴人が労働学校への通学を勧めた結果、従業員の父兄から抗議を受けているし、被控訴人の様な極端な共産主義的思想の持主は控訴会社の従業員として不適当であるから退職してもらい度いと申述べ、その後も再三被控訴人に任意退職を求めたが、被控訴人はこれを承諾しなかつた。

(四)  そこで山口課長は同年四月八日控訴会社事務所において被控訴人に対し、労働基準法第二〇条に基き予告手当一ケ月分を支給して諭旨解雇する旨を申渡し、その解雇理由として、被申請人が労働学校への通学を勧誘したため定時制高校をやめた者もあり、従業員の思想が極端化しては困ると父兄からも言われているので、企業防衛上の必要により解雇すると告げた。

以上の事実が疎明される。

控訴人は、本件解雇事由として(イ)被控訴人の通学勧誘により求人及び現従業員の確保が困難となつたこと、(ロ)被控訴人の言動による会社全体の作業能率の低下、(ハ)被控訴人の勤務成績の不良、(ニ)無断ポスターの貼付を挙示し、右事由は控訴会社の就業規則第四五号第三号所定の「やむを得ない事由」なる解雇基準に該当すると主張するが、被控訴人の言動によつて特に会社全体の作業能率を低下せしめた事実を疎明するに足る資料はなく、むしろ証人細井治夫、同山口博、同寺東正雄の各証言、被控訴本人訊問の結果によれば、被控訴人の勤務状況は、就業時間中時々私語雑談したり、仕事の暇な時に一時持場を離れたり、上司の命令を素直に聞かなかつたり、自分の仕事を後輩の従業員に手伝わせたりしたことはあつたが、そのために特に職場秩序を乱したり作業能率を低下させたりした事実はなく、山口課長も、被控訴人の勤務態度に関しては担当監督者から格別具体的報告を受けたこともなく、従つて被控訴人の勤務状況は他の従業員に比較して特に解雇を以て臨まねばならぬ程の劣悪なものではなかつたこと、また被控訴人は昭和三八年秋頃控訴会社の建物内に関西勤労者協会主催の学習会のポスターを貼つたところ(右貼付の事実は当事者間に争がない)、約二日後に山口課長から注意を受け、その際山口課長と貼付の可否につき問答をしたが、結局これをはがしたことが疎明され、従つて控訴人挙示の(ロ)の事実は疎明がなく、(ハ)ないし(ニ)の事実についても、控訴人主張の解雇基準たる「やむを得ない事由」に該当する程度の重大な事由であつたものとは認められず、更に証人細井治夫の証言によれば、山口課長は本件解雇の申渡に際しその解雇事由として前記認定の事由を告げたのみで、右(ロ)ないし(ニ)の事由は何ら解雇事由として示していなかつたことが疎明されるから、右(ロ)ないし(ニ)の事由が本件解雇の決定的理由とされたものとは到底認め難い。

そこで以上の事実によれば、控訴会社が本件解雇をなした主たる解雇事由即ち解雇の決定的動機は、被控訴人が労働学校への通学を勧誘したことにより、今後の求人及び現従業員の確保が困難になることを虞れて解雇したものであると認められるところ、前認定のとおり、控訴会社従業員の労働学校への参加は組合の正式決定によつて既に承認されていたところであり、被控訴人は右組合の決定に従つてこれを勧誘したものであるから(尤も組合長はその後に至つて右通学に反対する様になつたが、被控訴人に対し直接その旨を指示したことはなく、また少くとも被控訴人の勧誘当時には組合としてこれを承認支持していたことは前認定のとおりである)、被控訴人の右勧誘行為は正当な組合活動の一環としてなされたものであることが明らかである。そうすると、本件解雇は、被控訴人が右通学を勧誘したこと、即ち正当な組合活動をなしたことを決定的原因としてなされたものであるから、それが控訴人主張の就業規則所定の解雇基準に該当するか否かについて判断するまでもなく、労働組合法第七条第一号の不当労働行為として無効であると言わねばならない。尤も控訴会社が被控訴人の勧誘行為の結果として生じた事態、即ち今後の求人及び現従業員の確保の困難につき危惧を抱いたことは前記のとおりであるが、労働学校への通学が一旦組合として承認決定されていた以上、その是正や結果責任の追求は組合に対してなさるべきものであつて、組合活動の一環として行動した被控訴人個人に右結果の責を帰すべき筋合のものではないから、本件通学勧誘行為の結果として生じた事態を以て、正当な解雇事由とはなすことができない。

三、次に被控訴本人訊問の結果によれば、被控訴人は賃金を唯一の生活の資とする労働者であることが疎明されるから、本件仮処分申請をなす必要性があるものと認められる。

四、そうすると、控訴会社に対し、被控訴人をその従業員として取扱い、かつ昭和三九年四月一日以降毎月末に金一四、四八二円の賃金の仮払を求める本件仮処分申請は理由があり、保証を立てさせないで右申請を認容した原判決は正当であるから、本件控訴はこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 宮川種一郎 奥村正策)

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