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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)48号 判決 1965年2月04日

控訴人 藤沢俊治

右訴訟代理人弁護士 志水熊治

同 土井平一

被控訴人 井沢満成

被控訴人 井沢孝司

右両名訴訟代理人弁護士 加納制一

主文

原判決第一、二、三項を次の通り変更する。

控訴人は被控訴人等に対し、被控訴人等より金五、八〇〇、七〇〇円の支払を受けると同時に、原判決添付第二目録記載の家屋を明渡せ。

控訴人は被控訴人等に対し、昭和三六年六月一二日より昭和三七年一二月二日まで一ヶ月金六、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

被控訴人等のその余の本訴請求を棄却する。

反訴についての控訴はこれを棄却する。

訴訟費用(本訴、反訴共)は第一、二審ともこれを五分し、その一を被控訴人等、その余を控訴人の負担とする。

この判決は被控訴人等勝訴部分に限り、金二〇〇万円の担保により仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

本件物件中土地の表示(原判決添付第一目録記載)は別紙目録記載の通りが正確であることは、控訴人の明らかに争わないところである。

当裁判所は、被控訴人等所有の本件土地上に、本件建物を所有することにより、本件土地を占有する控訴人がその主張する賃借権を有せず、右占有は不法占有と認むべきこと、被控訴人等の収去明渡請求は権利濫用でないこと、控訴人は買取請求権(但し価格の点を除く)を有することを是認するものであって、その理由は前記土地表示訂正のほか、原判決理由記載と同一であるから、右理由該当部分をここに引用する。

次に控訴人は、原審認定の買取価格の相当であることを争うから右買取価格の当否につき判断するに、鑑定人堂内長左衛門の鑑定結果によると、本件建物の価格は、建物自体のみで二棟合計金四、六七五、七〇〇円、(右認定に反する鑑定人山本信の鑑定結果は鑑定当時(昭和三八年三月)の価格との相違を考慮しない点から、たやすく採用できない)場所的利益として金一、一二五、〇〇〇円(建物付宅地価格の一五パーセントに相当)の価値があることが認められる。ところで、買取請求は、敷地利用権のない建物を対象とするものではあるが、買取請求の目的は、その目的物件をその現在地に存置したままで買主に引渡すことを取引の内容とするものであるから、その建物がその現在地に存在することにより建物自体の価値以外に特に価値を有するときは、右の価値をもいわゆる場所的利益として代金額に加算することは、是認せられて然るべきである。右の価値を是認する根拠は、賃貸人がさきに賃借人の権原を認めて、その敷地上に建物の所有を認め、これにより、土地価格の一部の移譲を承認したことに起因し、法が買取請求を是認するにあたり、右建物の移動を前提とせず、当該土地に固着したままで買取の対象となすことを許容したことにより賃借人の過去の権原に原因する敷地価格の取得のうち、事実状態から生ずるものだけをそのまま賃借人の利益として承認、付与したことに依拠するものと考えられるから、その中に、実質的に一種の土地利用価値を含むことは当然容認されねばならないものであって、その価値が元来賃貸人の有する所有権の価値から由来したものであっても、なおその者が買取義務者としてそれを回収するがためには、一旦買取請求権者に与えた右の価値を無視することは許されず、その入手には相当の対価を支払うことを要するものといわなければならない。そうすると本件建物の買取価格は右建物自体と場所的利益との双方を合算した金五、八〇〇、七〇〇円を以て相当と認むべきである。

そうすれば被控訴人等は、控訴人の買取請求権行使の結果として金五、八〇〇、七〇〇円の支払と引換に本件建物の明渡を求めることができるものというべきであって、被控訴人等の請求は、右の範囲内では正当として認容すべきも、右限度を超え、建物収去、土地明渡を求める請求は失当として棄却を免れない。

次に被控訴人等の損害金の請求につき按ずるに、被控訴人等は本件土地の不法占有による損害として一ヶ月金一二、七八四円の割合による損害金の支払を求めるところ(但し、原審認定額一ヶ月金七、六六七円については、被控訴人等より不服申立がない)弁論の全趣旨により控訴人において自認しているものと認められる一ヶ月金六、〇〇〇円の割合による賃料相当額を超える損害金額については、何等これを認めるに足る証拠がない。そうすると控訴人は被控訴人等に対し、控訴人の本件建物所有権取得登記完了以後で、被控訴人等の本件土地所有権取得登記完了の日である昭和三六年六月一二日から、本件買取請求権行使の日であること記録上明らかな昭和三七年一二月三日、但しそのうち原審認容の同月二日まで、本件土地につき一ヶ月金六、〇〇〇円の割合による損害金の支払義務があり、右支払を求める被控訴人等の請求は理由があるが右金額以上の支払を求める請求部分は理由がなく棄却すべきである。

そうすると原判決中、被控訴人等の本訴請求を右認容部分を超えて認容した部分は相当でないから、一部変更を免れないが、控訴人の反訴請求を棄却した部分は相当で、この部分に対する控訴は理由がない。よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条第九二条第九三条仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長判事 岡垣久晃 判事 宮川種一郎 奥村正策)

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