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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)497号 判決 1965年5月24日

控訴人(被申請人) 株式会社産業経済新聞社 外一名

被控訴人(申請人) 野元昇 外二名

主文

控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。控訴人らと被控訴人らとの間の大阪地方裁判所昭和三六年(ヨ)第二五四八号仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和三八年五月一七日した仮処分判決を取り消す。申立費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および疎明関係は、次に附加補正するもののほか原判決事実摘示と同一(たゞし、原判決三枚目裏九行目「経済」の前に「産業」を加える。)であるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

一、原判決四枚目表一三行目「である。」の次に「被申立人(被控訴人)らの主張する権利、したがつて、また、仮処分判決でこれを認容した被保全権利に従えば、」を加える。

二、同四枚目裏一一行目の次に、「かりに、仮処分の被保全権利と本案の訴訟物との間に、請求の基礎の同一性が認められる限り、右本案訴訟を当該仮処分の本案と認めてもよいとの見解に立つとしても、被申立人(被控訴人)らの主張する権利、したがつて、また、仮処分判決でこれを認容した被保全権利に従えば、本件仮処分の被保全権利と本案訴訟における主位的請求の訴訟物との間には請求の基礎に同一性が認められない。」を加える。

三、控訴人らの主張は、雇用契約あるいは、いわゆる労働契約において、就業の場所、部署、業務の内容等は右契約の内容をなすとの考えに立つていない。しかしながら、被控訴人らの主張に従えば、特定の労務提供の場所と労務の内容が雇用契約の要素ないし内容となるというのであるから、これらに変更があれば、その契約関係は当然別個のものとなることは、民法第五一三条第一項の更改の規定にてらしても明らかである。

本件では、第一次異動により被控訴人らの提供する労務の内容も職種も変更されたのであるから、雇用契約そのものは当然別個のものと解しなければならない。被控訴人らは本件において、まさに従業員たる地位の具体的内容に争があるため、抽象的に単なる従業員たる地位の確認を求めたのでは全く意味をなさないので、その内容を特定する意味で仮処分では第一次異動後の職場を就業の場所とする雇用関係を被保全権利として主張したもので、この点はあくまで請求の眼目といわねばならない。

しかるに、仮処分によつて右権利が暫定的に認められたにかゝわらず、本案訴訟では仮処分によつて暫定的に認定、実現された第一次異動後の雇用関係を全く否定することによつてはじめて成り立つべき第一次異動前の雇用関係の確認をその主位的請求とするものであるから、右本案の請求は仮処分によつて前記のように雇用関係の内容を特定した趣旨を全く没却否定することになり、これを右仮処分の本案と認めることは到底できないというべきである。

(被控訴人らの主張)

一、本件のようないわゆる労働契約において、労働者の就業の場所および従事すべき業務は右契約の具体的内容となるものと解すべきである。しかし、労働契約は締結後の事情の変更によつて労働条件を改訂しなければならない必要性が著しいのであるから、賃金額、就業の場所、業務の内容に変更があつても、契約関係の同一性になんらの消長を及ぼすべきものではない。

二、被控訴人らは、本件仮処分で当初から昭和三六年一〇月一日付で行われた転勤命令(第二次異動)および本件懲戒解雇のみならず、配置転換命令(第一次異動)もまた不当労働行為であり無効であると主張してきたものである。本件仮処分申請の本旨は、控訴人らの行つた解雇が無効であることを明らかにし、被控訴人らが控訴人らの従業員としての地位を有することを暫定的に確定し控訴人らから賃金の支払をうけることにある。控訴人らの行つた右二回にわたる異動処分の効力について当事者間に争があり、被控訴人らの従業員たる地位の具体的内容に争があるため、被控訴人らが就業すべき場所についても併せてその確定を求めたにすぎない。被控訴人らが控訴人らとの間の雇用関係に基づいて、就業すべき場所は本来第一次異動の直前の職場であるべき筈であるが、仮処分手続における必要性の問題を考慮し、あえて第一次異動後の職場を就業の場所とする旨の確認を求めたのである。必要性を考慮することを要しない本案訴訟で、被控訴人らが第一次異動の直前の職場を就業の場所とする従業員の地位につき確認を求めたのは、被控訴人らの本来的主張に基づく当然の措置である。

理由

一、事実関係はすべて当事者間に争がない。

二、成立に争のない甲第一号証(仮処分判決正本)によると、本件仮処分で被控訴人らは申請の趣旨として、原判決添付別紙一記載の仮処分を求め、その申請の理由として次のとおり主張したことが明らかである。すなわち、

「(一) 被控訴人野元は控訴人株式会社産業経済新聞社(以下、産経新聞社という。)に雇われ、大阪本社印刷局活版部文選課に所属し、被控訴人庄野は控訴人株式会社大阪新聞社(以下、大阪新聞社という。)に雇われ、本社印刷局活版部文選課に所属し、被控訴人三山は控訴人大阪新聞社に雇われ、本社印刷局管理部電気課に所属していた。

(二) 控訴人産経新聞社は昭和三六年一月二一日付で、被控訴人野元を控訴人産経新聞社大阪本社編集局連絡部電信課に、被控訴人庄野を控訴人大阪新聞社本社販売局販売推進本部に、被控訴人三山を控訴人大阪新聞社本社編集局連絡部無線課に、それぞれ配置転換を命じた(以下、第一次異動という。)。

(三) 控訴人産経新聞社は、さらに、同年一〇月一日付で被控訴人野元を控訴人産経新聞社岡山支局に、被控訴人庄野を同社九州総局に、被控訴人三山を同社洲本支局に、それぞれ転勤を命じ(以下、第二次異動という。)、被控訴人らが右転勤命令を拒否したところ、控訴人産経新聞社は同年一一月一〇日付で被控訴人らに対し就業規則第八〇条第四号により同月一一日付をもつて懲戒解雇する旨の意思表示(以下、本件懲戒解雇という。)をした。

(四) しかしながら、前記配置転換命令および転勤命令はいずれも労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であるから、右転勤命令は無効であり、したがつて、被控訴人らが右転勤命令を拒否したことを理由とする本件懲戒解雇の意思表示も前同様無効である。

(五) よつて、被控訴人らは、それぞれ第二次異動前の職場で就業しうべき雇用契約上の地位を保有し、賃金請求権を有するにかかわらず被控訴人らはこれを否定するところ、本案裁判の確定をまつていては回復し難い損害を被ることが明らかであるから、本件仮処分申請に及んだ。」

ところで、右甲第一号証によると、被控訴人らの右仮処分申請に対し、裁判所は、控訴人産経新聞社が昭和三六年一〇月一日付でした被控訴人らに対する前記転勤命令は、被控訴人らの組合活動を快しとしない控訴人産経新聞社が控訴人大阪新聞社と通じて被控訴人らを組合活動の場であつた前記本社印刷局から切り離し(第一次異動)、さらに、第二次異動先にそれぞれ転勤させてその組合活動を阻止ないしは未然に防止する意図をもつてなされた不利益な取扱であり、労働組合法第七条第一号に該当するから無効であり、したがつて、また、被控訴人らの右転勤拒否を業務命令違反として控訴人産経新聞社がした本件懲戒解雇の意思表示も前同様無効であると判断し、被控訴人らの前記申請趣旨どおりの仮処分を認容したことが明らかである。

一方、成立に争のない乙第一、第二号証によれば、被控訴人らは、本案訴訟の請求の趣旨として、原判決添付別紙二記載の判決を求め、請求の原因として、前記配置転換および転勤命令はいずれも不当労働行為であるから無効であり、したがつて、被控訴人らが右転勤命令を拒否したことを理由としてなされた本件懲戒解雇もまた前同様無効であるから、被控訴人野元は控訴人産経新聞社の従業員として大阪本社印刷局において就業しうべき雇用契約上の地位を、被控訴人庄野、同三山はいずれも控訴人大阪新聞社の従業員として本社印刷局において就業しうべき雇用契約上の地位をそれぞれ有するのに、控訴人らがこれを争うので、被控訴人らはその確認を求めるとともに、既に発生し、かつ、将来発生すべき賃金の支払を求めるため本訴請求に及んだと主張し、次いで右本案の係属中に、原判決添付別紙三記載のとおり請求の趣旨を予備的に追加したことが明らかである。

前記仮処分申請の趣旨、理由およびこれを認容した仮処分の内容によれば、被控訴人らが本件仮処分で主張し裁判所が認容した被保全権利は、(イ)本件転勤命令および懲戒解雇の無効を理由として、被控訴人らと控訴人らとの間に存続している各雇用契約に基づき被控訴人らが第二次異動前の各職場で就業すべき従業員の地位と(ロ)右雇用契約から既に発生し、かつ、将来発生すべき賃金請求権であることが明らかである。

他方、前記本案の請求の要旨および請求の原因によれば、右本案訴訟の訴訟物は(イ)本件配置転換および転勤命令ならびに本件懲戒が無効であることを理由として、被控訴人らと控訴人らとの間に存続している各雇用契約に基づき、被控訴人らが第一次異動前の各職場で、就業すべき従業員の地位(主位的請求)、右配置転換が有効な場合には被控訴人らが第二次異動前の各職場で就業すべき従業員の地位(予備的請求)と(ロ)右雇用契約から既に発生し、かつ、将来発生すべき賃金請求権であることが明らかである。

前記仮処分申請における被保全権利と本案の訴訟物のうち(ロ)の賃金請求権とは同一であり、また、(イ)についても仮処分と本案の予備的請求とは同一と認められるから、(イ)の仮処分と本案の主位的請求との間の同一性の有無を考察すれば足りる。

およそ、確認訴訟において、いかなる権利または法律関係を確認の対象とするかは、当該紛争の具体的事情に応じ個別的に異なるものである。本件においては、被控訴人らは仮処分と本案を通じ控訴人らのした前記配置転換命令(第一次異動)および前記転勤命令(第二次異動)ならびに本件解雇がいずれも不当労働行為であると主張し、本件解雇のみならず、これに先きだつて行われた右第一次、第二次異動の効力が同時に争われているのであるから、被控訴人らが本件紛争を真に解決するためには、単に右解雇の無効が確認されただけでは被控訴人らが右雇用契約に基づき就業すべき特定の職場における従業員の地位は直ちに確定されない。したがつて、被控訴人らが右雇用契約上の従業員の地位を仮処分で保全し、あるいは本案で確認を求めるためには、いきおい右雇用契約に基づく被控訴人らの労務提供の種類、態容または場所を具体的に特定する必要があるわけであり、また被控訴人らは、このように労働条件の一つである職場を具体的に特定した雇用関係をその確認の対象として選択すべきものであることはいうをまたない。

以上の意味で、被控訴人らは仮処分では保全の必要と相まつて前記転勤命令(第二次異動)と解雇の無効を理由に、労務の提供の種類、態容または場所を第二次異動前の職場に特定した雇用契約上の地位をその被保全権利とし、一方、本案では、前記転勤命令(第二次異動)と解雇の無効に加え、さらに前記配置転換命令(第一次異動)の無効を理由に、第一次異動前の職場に特定した雇用契約上の地位を訴訟物としたものであることが明らかであるから、前記仮処分と本案における両請求は異なるものであつて、同一ということはできない。

しかしながら、仮処分における請求と本案の訴における請求とは必ずしも全然同一であることを要せず、いやしくも両請求の基礎に同一性が認められるかぎり、後者は前者の本案と認めるに妨げないと解すべきである。本件について、これをみるに、仮処分と本案を通じての被控訴人らの前記主張によつて明らかなとおり、被控訴人らは本件解雇が無効であつて、控訴人らとの間にそれぞれ雇用契約に基づく従業員の地位を保有することを主張する点で、仮処分と本案の右両請求は基礎を同じくするものということができる。したがつて、前記本案の主位的請求は本件起訴命令に応ずる本案訴訟と認めるのが相当である。

そして、被控訴人野元および三山が起訴命令期間を遵守し、被控訴人庄野の右期間経過後における本案提起も有効と認むべき理由は、原判決説示と同一であるから、これを引用する。

そうすると、控訴人らの本件仮処分取消の申立はいずれも理由がなく、これを却下した原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 斎藤平伍 朝田孝)

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