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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)851号 判決 1965年9月30日

控訴人 大阪府民信用組合

被控訴人 平安山良一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項同旨及び「訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は請求原因として、原判決一枚目裏一三行目の「請求原因として云々」以下同三枚目裏一〇行目の「本訴請求に及んだ」までと同一に述べたから、これを引用する。但し、同二枚目表六行目の「江南省三の所有」、同七行目の「所有権」、同七、八行目の「所有物件」とある次にいずれも「(但し原判決の別紙目録に記載のとおり持分二分の一の持分権である。以下単に原判決の別紙目録物件の二分の一の持分権を本件物件の所有権と称する)」、同五行目の「午前十時と指定した。」とある次に「同年九月四日付をもつて右強制競売の申立のあつた旨が登記簿に記入されている。」を各加える。

控訴代理人は、次に付加するほかは、原判決四枚目表八行目の「原告は表面上云々」以下同四枚目裹九行目の「第三者異議の訴は提起できない。」と同一に述べたので、これを引用する。

一、被控訴人主張の請求原因事実中、引用にかかる原判決の事実欄の最初の行から原判決二枚目裏三行目までに記載の事実(但し原判決の別紙目録物件の所有権を被控訴人が昭和三六年八月二〇日取得し、現在被控訴人の所有であることを除く)は認める。右かつこ内に記載の事実は否認する。なお、被控訴人主張の原判決の別紙目録物件は江南省三が持分二分の一を有する所有権者であつて、全部についての単独所有権者ではない。

二、控訴人と被控訴人とは何等取引関係に立つ間柄ではないから、被控訴人は控訴人に対して仮登記を本登記になおすことについて承諾を求めることのできる根拠を有しない。また、被控訴人は控訴人に対して、本件物件の所有権を主張できる根拠を有しない。

三、江南省三が被控訴人の本件物件に対する所有権の本登記請求権を認諾した(甲第四号証)のは、昭和三八年一一月二六日であるが、控訴人はそれより前に本件物件につき強制競売の申立をなし、その旨の登記がなされた。そのときにおける本件物件の所有名義人は江南省三である。

四、強制競売開始の登記は職権によつてなされる登記であるから、この登記が被控訴人主張の所有権移転請求権保全の仮登記におくれたとしても、控訴人は被控訴人主張のような承諾のなしようがない。

五、本件物件の昭和三八年一一月当時の最低競売価格は金四八四、五〇〇円、時価は一五〇万円を下らないのに、被控訴人がこれを代物弁済として取得したときの被控訴人の債権額は金八七、五九〇円にすぎないから、この代物弁済は江南省三の窮迫浅慮に乗じてなされたもので、無効である。

六、なお、被控訴人の主張事実中、本件物件について控訴人が競売申立をした旨の登記が昭和三八年九月四日付でなされたことは認める。

証拠<省略>

原判決一枚目表四行目の「亀山譲太郎」とあるを「亀井譲太郎」、同二枚目裏四行目の「滋賀銀行」とあるを「滋賀相互銀行」と各改める。

理由

一、控訴人が訴外江南省三に対し、大阪地方裁判所昭和三五年(ワ)第四九九六号貸金ならびに保証債務履行請求事件の執行力ある判決正本に基づき、大津地方裁判所彦根支部に本件物件(但し前記のとおり二分の一の持分権につき)の強制競売の申立をなしたこと、同裁判所が昭和三八年九月三日強制競売開始決定をなし、その競売期日が同年一二月一三日午前一〇時と指定されたこと、同年九月四日付で右強制競売の申立が登記簿に記載されたこと、江南省三は昭和三〇年一月一四日相続により本件物件の所有権を取得し、同年二月一八日その登記を経たうえ、同日株式会社滋賀相互銀行との間に同月一七日に締結した債権極度額一〇万円、契約期間の定めなく、債権者の都合により解約できる旨の根抵当権設定契約、ならびに右根抵当権の債務を期限に弁済しないときは、代物弁済として本件物件の所有権を移転すべき旨の停止条件付代物弁済契約に基づき、被控訴人のため根抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全の仮登記手続をなしたことは、いずれも当事者間に争がない。

二、成立に争ない甲第三号証の一、二、第四号証及び弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴人は江南省三の承諾を得て株式会社滋賀相互銀行の江南省三に対する債権を譲受け、その債権に従たる前記根抵当権ならびに停止条件付代物弁済をなすための権利を譲受け、昭和三六年六月二三日付をもつて根抵当権移転ならびに停止条件付代物弁済に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の移転の各登記手続を経由したこと、被控訴人は同年同月一〇日江南省三に対する取引契約を解除したうえ、同人とその債権額を金八七、五九〇円、その弁済期同年八月二〇日、利息日歩五銭、毎月末払、期限後の遅延損害金日歩一〇銭と合意し、これに基づいて前記根抵当権を抵当権に変更する旨の登記手続を経由したこと、ところが、江南省三は右弁済期を経過しても元利金の支払をしなかつたので、被控訴人は右期限の経過により当然本件物件の所有権を取得したと主張して、江南省三を相手に大阪地方裁判所に本件物件の停止条件付所有権移転請求権保全仮登記(大津地方法務局八幡出張所昭和三〇年二月一八日受付第四八二号)の本登記手続をなすことを訴求したところ、江南省三は同裁判所の昭和三八年一一月二六日の法廷において、被控訴人の右請求を認諾したことを認めることができる。右認定事実によれば、被控訴人は前記代物弁済契約に基づいて本件物件の所有権を取得したものと認めるべきである。ところで、右代物弁済契約に基づく所有権移転請求権保全のために昭和三〇年二月一八日付をもつて仮登記のなされていること、及び控訴人が本件物件について強制競売の申立をなし、その旨昭和三八年九月四日付をもつて登記簿に記入されていることは、前記のとおり当事者間に争ない事実である。そうすれば、被控訴人が本件物件について、右仮登記の本登記手続を求めるについては、控訴人は登記上利害関係を有する第三者(不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項)であることは明らかである。

三、停止条件付代物弁済に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合に、債権者が所有権を取得するのは条件成就のときであつて、仮登記を経由したときに遡るものではないが、本登記の順位は仮登記の順位による(不動産登記法七条二項)のであるから、仮登記権利者は、本登記をなすに必要な要件を具備するに至つたときは、仮登記によつて保全された権利に牴触する仮登記後の所有権の移転を、それが仮登記権利者の所有権取得の時期の前であつても、すべて否認し、その登記の抹消を請求し得るものと解すべきである(昭和三八年一〇月八日最高裁判決、民集一七巻九号一、一八二頁)から、仮登記によつて保全された権利に牴触する所有権移転を生ぜしめる原因をなす強制競売の申立の登記がなされたときには、この登記の名義人である執行債権者に対して、仮登記の本登記手続をなす承諾の意思表示を命ずる判決を求めることができると考えるべきである。そこで、この理窟を前記一、二に記載の事実にあてはめて判断すれば、被控訴人は控訴人に対して、本件物件につき、大津地方法務局八幡出張所昭和三〇年二月一八日受付第四八二号をもつてなされている所有権移転請求権保全の仮登記の本登記手続をなすことの承諾の意思表示を求めることができるものというべきである。

四、次に被控訴人は右本登記手続を経由することを条件として、控訴人が本件物件につき大阪地方裁判所昭和三五年(ワ)第四九九六号貸金ならびに保証債務履行請求事件の執行力ある判決正本に基づき申立てた大津地方裁判所彦根支部昭和三八年(ヌ)第一〇号不動産強制執行の不許を求めるので、これについて判断する。

前第三項において判断したとおり、控訴人は被控訴人に対し、本件物件についての仮登記の本登記手続をなすことを承諾すべきものであるから、原判決の主文第一項の確定の後、被控訴人がその本登記手続を完了したときには、被控訴人は本件物件につき本登記ある所有権者(但し前記のとおり持分二分の一)となることは明らかである。ところで、右の条件が成就しても、控訴人は直ちに前記大津地方裁判所彦根支部昭和三八年(ヌ)第一〇号不動産強制執行の申立を取下げない意思であることは、弁論の全趣旨から推認されるから、被控訴人は条件成就を条件として予め右強制執行の不許を求める必要があるものというべきである。

五、なお、控訴人は本件物件の昭和三八年一一月当時の最低競売価格は金四八四、五〇〇円、時価は一五〇万円を下らないのに、被控訴人がこれを代物弁済として取得したときの被控訴人の債権額は金八七、五九〇円にすぎず、この代物弁済は江南省三の窮迫浅慮に乗じてなされたもので、無効である旨主張するが、本件物件の昭和三八年一一月当時の最低競売価格が、四八四、五〇〇円であつたこと、被控訴人が代物弁済契約により所有権を取得した昭和三六年八月二〇日において、被控訴人は江南省三に対して、元本債権額金八七、五九〇円及びこれに対する昭和三六年六月一〇日から同年八月二〇日まで日歩五銭の割合の利息を有していたことは、前記甲第三号証の一、二、第四号証、成立に争ない甲第二号証の二によつて認めることができるが、右物件の時価が一五〇万円であることを認めるに足る証拠はない。ところで、本件物件はいずれも江南省三の単独所有ではなく、その持分二分の一を有する共有物であつたことは、前記のとおり当事者間に争ないところ、共有物はその管理処分等が難しく、そのため単独所有権の対象たる物に較べてその換価は一層困難で、最低競売価格で競売されることが一般に難しいことは公知の事実である。かかる事実を考慮すれば、被控訴人が江南省三に対する右元本ならびに利息債権額をもつて本件物件を代物弁済によつて取得するも、いまだこれをもつて江南省三の窮迫浅慮に乗じてなした無効のものということはできない。

六、その他控訴人主張の前記事実欄記載の二ないし四の主張は、この理由欄の二ないし四に判断したところから理由のないことは明らかである。

七、そうすれば、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、これと同一結論の原判決は結局において正当であつて、本件控訴は理由がないから、棄却すべきである。そこで、民事訴訟法三八四条、八九条、九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 安部覚 山田鷹夫 鈴木重信)

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