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大阪高等裁判所 昭和39年(ラ)225号 決定 1965年4月08日

抗告人 山本友吉

右代理人弁護士 宮内勉

相手方 松井アキ

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断。

(一)  抗告理由第一点(本件不動産強制競売事件の債務者である抗告人は、右強制競売の目的である本件不動産が第三者の所有であるという実体上の理由に基づき、これが強制競売開始決定に対し執行方法の異議を申し立て得るとの主張)について。

おもうに、不動産強制競売開始決定は強制執行の方法にほかならないから、これに不服のある債務者その他の利害関係人(民訴法六四八条参照)は執行方法の異議を申し立て得ることはいうまでもない。なお執行方法の異議は、ほんらい、執行機関のなす執行行為等に形式的、手続的瑕疵が存する場合になし得べきものであって、このことも論をまたない。ところで、不動産強制競売は債務者の所有不動産に対してなされるべきものであるから、不動産強制競売を申し立てた債権者は、目的不動産が債務者の所有として登記されている旨の登記官吏の認証書(右不動産につき登記がある場合)、もしくは、債務者の所有であることを証すべき証書(右不動産が未登記の場合)を申立書に添付すべきである(民訴法六四三条一項一、二号)。したがって、かかる書類が全然添付されていないか、あるいは、添付されていても、目的不動産が債務者の所有でないことが手続上一見明白な場合(例えば、添付された登記官吏の認証書によれば、目的不動産が登記簿上債務者の所有ではない場合。なお、登記官吏の通知によりかかる事情が明白となった場合の処置につき同法六五三条参照)には、執行裁判所としてはもとより不動産強制競売開始決定をなすべきものではなく、もし、執行裁判所がこれを看過して右決定をなした場合、右決定には手続上の瑕疵があるわけであるから、前記利害関係人らはこの瑕疵を攻撃する利益のある限り執行方法の異議を申し立て得るものといわなければならない。しかし、かかる特段の事情がなく、目的不動産が債務者の所有であることを証明する前記各書類が適法に添付されている以上、執行裁判所としては、目的不動産が債務者の所有であることにつき証明があったものとして取り扱い不動産強制競売開始決定をしても、この点なんら手続上の瑕疵は存しないわけである。このように、右不動産が債務者の所有であることにつき、手続上欠けるところがない以上、前記利害関係人たる債務者において、添付書類たる前記登記官吏の認証書その他の証書の内容の真実性を否認し、右不動産が事実は第三者の所有であるという実体上の権利関係を主張して右強制競売開始決定に対し執行方法の異議を申し立てることは、右異議の前記性格等に照らし許されないといわなければならない(ただし、右第三者が右不動産の所有権を主張して第三者異議の訴を提起し得ることはもとより別個の問題である。)。この点は債務者の占有解除、執行吏保管の仮処分の執行あるいは有体動産の差押にあたり、執行吏が目的物件の占有状態についての判断を誤った場合と異るところである。けだし、この場合、目的物件の占有はすなわち事実的支配たる所持を意味し、この所持が債務者にあるかどうかの調査判断は、強制執行法上執行機関たる執行吏に委ねられているのであって、執行吏がその判断を誤ることは、すなわち執行方法を誤ったものとして執行方法に関する異議による救済の対象になるのはいうまでもないが、不動産に対する強制競売の場合において、当該不動産が債務者の所有に属するかどうかという実体法上の問題については、執行裁判所にその調査権限がないのである。執行裁判所は執行法上前説示の如く競売申立書添付の書類によって一応債務者の所有と認められる以上、競売手続を進行すべきものとされているのであるから、前者の場合に執行方法の異議が許されるからといって、後者の場合についても同様であるとなしえないことはいうまでもない。従って、抗告人引用の判例は本件に適切でない。

ところで本件においては、本件強制競売の目的不動産は未登記の物件であるところ、債権者たる相手方はこれが申立てをなすにあたり、右不動産が債務者たる抗告人の所有であることを証明する書類として神戸市長作成にかかる抗告人申請名義の建築許可証明書を添付していることが一件記録上明らかである。ところで、右文書は右不動産が抗告人の所有であることを証明する書類として相当というべきであるから、右文書が添付されている以上、執行裁判所たる神戸地方裁判所が右不動産を抗告人の所有であると認めて本件強制競売開始決定をしたことにつきなんら手続上の瑕疵は存しないというべきである。もっとも、本件記録に編綴されている抗告人提出の神戸市長田区長作成にかかる各証明書によると、同区備付の家屋課税台帳及家屋補充課税台帳には、競売物件の所在地とされている同市長田区神楽町四丁目五番地には高徳章所有名義の建物が登載されているだけで、抗告人所有名義の建物は登載されていないことが認められるが、同証明書によれば、高徳章所有名義の建物は本件競売建物と構造、床面積が異り、はたして両者同一物件であるかどうかは判然しないし、かりに同一物件であるとしても、前記競売申立書添付の建築許可証明書と対比し、真実高徳章の所有であるかどうかは明白でなく、執行裁判所として、これらの実体上の所有関係について調査する権限がない以上、そのまま執行手続を進めるのほかはないのである。

そうすると、前記説示から明らかなように、抗告人において、右不動産が債務者たる抗告人の所有でなく第三者の所有であることを理由として右強制競売開始決定に対し執行方法の異議を申し立てることは許されない筋合いである。したがって、抗告理由第一点は理由がない。

(二)  抗告理由第二点(抗告人は、本件不動産の所有者たる高徳章から右建物を貸借している株式会社山本製作所の代表取締役としてこれが賃借権の防禦につき重大な利害関係を有するから、本件執行方法の異議申立てをなす必要があるとの主張)について。

本件不動産が第三者(高徳章)の所有であることを理由とする抗告人の本件執行方法の異議申立ての許されないものであることは前記説示のとおりである。そうすると、右不動産が右第三者の所有であることを前提とする右抗告理由第二点はその余の判断をなすまでもなく理由がないというべきである。

(三)  以上の次第であって、抗告人の本件執行方法の異議申立てを不適法であるとして却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから棄却を免れない。

よって、抗告費用の負担について、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長判事 金田宇佐夫 判事 日高敏夫 黒川正昭)

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