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大阪高等裁判所 昭和40年(う)373号 決定 1965年6月05日

被告人 S・G(昭二二・八・三一生)

主文

本件を大阪家庭裁判所堺支部に移送する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人杉野忠郷作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は量刑不当を主張するのであるが、当裁判所は所論にかんがみ記録を精査し、更に当審における事実の取調の結果に基き被告人の処遇につき事実審理をした結果次に述べるような理由によつて少年である被告人を保護処分に付するのが相当であると認めたので少年法五五条により決定をもつて本件を大阪家庭裁判所へ移送することとする。

本件公訴事実の要旨は被告人はA、Bと共謀のうえ、自動車強盗をしようと企て昭和三九年九月○○日午後一一時四〇分頃大阪市南区道頓堀橋において東宝タクシー所属運転者○波○男(当二四年)の運転するタクシーに客を装うて乗車し、翌××日午前一時四〇分頃京都市右京区○○○町○離宮前の暗がりにおいて停車を命じ、同人に対し所携のナイフ、ドライバーを突きつけ針金で同人の両手足を緊縛してその反抗を抑圧したうえ同人からその管理にかかる現金九、〇〇〇円および右乗用車一台(時価八〇万円位相当)を強奪したものであるというのであり、右事実は本件記録により明らかであるところ、本件犯行の罪質、態様は悪質であり、被告人が実行行為に際しては、むしろ主動的であつたとみられるので、一応刑事処分の必要も考えられるのであるが、本件犯行に至る経緯をみると被告人は中学卒業後自動車学校整備科(一年課程)に入り同校を昭和三九年三月卒業して自動車会社の整備工として働いていたものであるが、同年九月一一日昼頃近所の遊び友達である中学同級生のAと同じ中学一年下のBから誘われて右二名と共に大阪市内に出て映画をみたり、パチンコをしたりして遊び所持金を殆んど使い果したため同人らと共謀のうえ、本件自動車強盗をするに至つたもので、本件犯行の発案者も必ずしも被告人と断定できないのみならず、実行行為においても被告人が被害者を縛る際BやAもナイフやドライバーを被害者に突きつけたりして協力している事実も窺われるから、犯行の動機、態様全額被害弁償を右二名と共同でしていること、その他の事情を併せ考えると本件により少年院送致の保護処分を受けた右両名との間に特に処遇について大きく区別する必要性に乏しいものと考えられる。殊に被告人は思考未熟の未だ一七年の年少者であり、過去に中学在学中に原動機付自転車の無免許運転や喫煙をしたことで警察で調べを受けたことがあるだけでその他に非行前歴もないこと等の点を考慮すると被告人に対しては刑事処分に付するよりは今一度家庭裁判所で調査審判を経たうえ適切な保護処分に付するのが相当であると考えられる。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 笠松義資 裁判官 八木直道 裁判官 荒石利雄)

参考

受移送家裁決定(大阪家裁堺支部 昭四一・七・一一決定保護観察)報告四号

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