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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1385号 判決 1972年8月02日

控訴人

石井繊維株式会社

右代表者

藤井篤治

右訴訟代理人

物部義雄

右訴訟復代理人

間狩昭

外二名

被控訴人

上江洲春子

外四名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

《前略》二さて、そうすると、前記後訴事件の判決の既判力の効果として、後訴事件の敗訴被告の一人である利光よし子及び阪堺造船と同事件原告上江洲安久及びその相続人である被控訴人らとの間では、右後訴事件の口頭弁論終結時において本件土地の所有者が上江洲安久であることが確定され、利光及び阪堺造船は、もはや被控訴人らに対し右と異なる主張をすることができないわけである。

<証拠>を総合すると、本件土地について、利光よし子から控訴人まで、控訴人主張の抗弁1の経過でそれぞれ売買契約が締結され、その主張どおりの経過で被控訴人ら主張の2、3の各登記がなされたことが認められる。この認定に反する証拠はない。

してみると、その証明書部分につきその方式等により公務員が職務上作成したものと認められる<証拠>によれば、後訴事件の口頭弁論終結時が昭和三八年五月三一日であることが認められるから、本件土地の外形上の所有者たる地位を利光よし子から橋本忠夫を経由して承継し、その対抗要件たる所有権移転登記を後訴事件の口頭弁論終結時後である同年八月二日に阪堺造船から得た控訴人は、民訴法二〇一条一項にいう、後訴事件被告利光及び阪堺造船の口頭弁論終結後の承継人たる地位を免がれず、次項に述べるような場合に該当しない限り、後訴事件の判決の既判力に拘束され、上江洲安久が堀本治作から本件土地の所有権を取得したか否かを判断するまでもなく、控訴人らが本件土地の所有権を有することを否定できないし、阪堺造船から控訴人への所有権移転登記を抹消すべき義務を否認することもできないのである。

三判決の既判力を口頭弁論終結後の承継人に及ぼすことの意味は、殊に敗訴者の承継人について、口頭弁論終結時に被承継人の有した実体法上の地位をそのまま承継する関係に立つ者に対して、その承継した地位の限度で、既判力による拘束力を及ぼして、同一紛争のむし返しを防ぎ、判決によつて判断を下された法律関係の安定をはかろうとするところにある。したがつて、既判力の承継人に及ぼす拘束力の限界もここにあり、それ以上に、既判力が実体法秩序を動かし、実体法の規定の適用を排除する効果をもつものではない。すなわち、承継の原因となつた契約その他法律関係変動の原因事実の実体法的性質上、第三者として、被承継人の有しない独自の地位を取得する関係にある者については、その独自の地位にもとづく法律効果の主張までも既判力によつて封じられるものではないと解すべきである。判決により動産の引渡しを命じられた者からその動産を善意取得した者、不動産の売主たる被承継人からその不動産を二重に譲り受けて先に対抗要件を備えた者、虚偽表示により外形上所有権を有する被承継人から善意でそれを譲り受けた者、これらの者のする所有権の主張などがその例である。

そこで、本件においては、抗弁2の虚偽表示の主張について判断を加えなければならない。

<証拠>によると、本件土地はもと堀本治作の所有であつたが、これを上江洲安久が堀本から買い受け、その所有権を取得したこと、昭和二六年二月ころ、まだ本件土地の登記簿上の所有名義が堀本にある間に、安久は、訴外中村幸徳を介し、本件土地を譲渡担保にして、訴外金城某から金融を得ようとしたが、中村も金城も、事情があつて本件土地の所有名義人となることを嫌い、金城が、中村の叔母である仲村ハルを本件土地の所有名義人とすれば金を貸すと申入れたので、安久は、真実本件土地の所有権を仲村に譲渡する意思はなかつたが、右金融を得る手段として、堀本の了解を得て、本件土地につき堀本から直接仲村への所有権移転登記手続をしたこと、ところが、その後金城が本件土地上に家があることを理由に金を出すことを断わつたので、安久は右の目的を達することができなかつたが、本件土地の所有名義を仲村のままにしているうちに、仲村から中村幸三へ、同人から利光よし子へと順次所有権移転登記がなされてしまつたこと、以上の事実を認めることができる。この認定に反する証拠はない。

このような場合には、上江洲安久の立場に、堀本から一旦本件土地の所有権移転登記を得たうえ、これを仲村との間の通謀虚偽表示にもとづき仲村に所有権移転登記をした場合と実質上同視すべきものであるから、民法九四条二項を類推し、安久は、仲村より後の本件不動産の善意の取得者に対し仲村が本件土地の所有権を取得しなかつたことを対抗できないものと解するのが相当である。

前記認定の控訴人が本件土地につき所有名義を取得した経過、成立に争いのない甲第一号証(後訴事件につき予告登記はなされていないことがこれにより認められる。)、<証拠>を総合すると、控訴人は、前記の経過で橋本から本件土地を買い受け、阪堺造船からその所有権移転登記手続を受ける際に、仲村が右のような事情で本件土地の真実の所有者でないことも、前記後訴事件が係属中であることも知らなかつたことが認められる。この認定に反する証拠はない。

そうすると、前述の理により、控訴人は、後訴事件の承継人ではあるが、その既判力に何ら妨げられることなく民法九四条二項にいう善意の第三者であることを主張できるわけであり、これに対し上江洲安久及びその相続による承継人である被控訴人らは仲村ハルが本件土地の所有権を取得したことがなく真実の所有者は被控訴人らであるということを、控訴人に対して対抗することができない。

四よつて、結局、被控訴人らが本件土地の所有権を有することを前提とする本訴請求は理由がなく、これを認容した原判決は失当であつて取消しを免れない。本件控訴は理由がある。

よつて、原判決を取り消して、被控訴人らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡野幸之助 入江教夫 高橋欣一)

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