大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1419号 判決 1968年7月19日
理由
被控訴人が原判決添付目録記載の1ないし5の約束手形(金額合計一〇〇万円)の所持人で、これを各支払期日に呈示したこと、控訴人は、右各手形につき、支払拒絶証書作成の義務を免除していることは、当事者間に争いがない。
《証拠》によれば、昭和三九年三月頃、被控訴人は、控訴人の裏書のある手形を割引いた約束手形(以下旧手形という)債権合計約二〇〇万円を有していて、その取立を佐々木三郎に依頼したところ、同人は被控訴人より旧手形を預り、控訴人より、同年四月六日同和ステンレス株式会社振出の金額五〇万円の手形一通を、同年六月三〇日本村製作所振出の五一万四、〇〇〇円の手形を受取り、前者は支払期日たる同年七月二五日頃現金化し、後者はそのまま所持していたが(これも同年一〇月一〇日の支払期日に現金化した。)、被控訴人には全然これを渡さず、このため被控訴人より請求され、同年八月三日頃、本件手形五通を含む各金額二〇万円の約束手形一〇通(以下新手形という)を振出し控訴人の裏書を得てこれを被控訴人に渡したこと、佐々木が右のように新手形を控訴人の裏書を得て被控訴人に交付したのは、同人が被控訴人より取立を委任され控訴人より受取つた金員等を全く被控訴人に渡していないためその支払責任を果すためであるのと、旧手形のうち控訴人がまだ支払つていないものがあつたので控訴人にその分に対する支払の担保をさすため、被控訴人の要求により控訴人の裏書を得て被控訴人に渡したものであること、佐々木は当初は被控訴人より委任を受けていたが、昭和三九年六月頃、控訴人方の顧問又は嘱託となりむしろ控訴人のために行動していたことの各事実が認められ、以上の認定に反する《証拠》は措信しない。特に控訴人の主張に副う控訴人は、被控訴人の意向を受けた佐々木より誰の裏判でもよい、形式さえ整えてあればよいといわれたため何ら責任の伴わない裏書として、本件裏書をしたのだという趣旨の証人佐々木三郎の証言、控訴人代表者の供述は、左様な裏書は何らの存在意義がなく、控訴人代表者が手形裏書の意味を理解せずに本件裏書をしたとは解されない点からも措信できない。従つて、控訴人は、佐々木が被控訴人に対し本件手形を含む新手形一〇通によつて負担している債務を保証するためと、当時未払の自己の旧手形債務に対する支払担保のため裏書したものと解するのが相当であつて、控訴人はこの裏書の責任を免れることはできないといわねばならない。されば、本件手形につき、裏書の意思もなく、基本の債務も存在しないから裏書人としての責任がない旨の控訴人の主張は、採用できない。但し、このうちの五通金額一〇〇万円については、控訴人が前記のように被控訴人を代理する佐々木に対し手形二通により合計一〇一万四、〇〇〇円を支払い実質上の決済がなされ、被控訴人はこの分は請求していないので、ここに問題とする必要はない。
次に、控訴人の弁済の抗弁につき判断するに、《証拠》を総合すると、佐々木は、昭和三九年九月下旬頃から同四〇年一月頃まで刑事々件で身柄を拘束され、その勾留中佐々木の妻は、佐々木から取立を委任されたことも、取立を命ぜられたこともないのに、佐々木の保釈金、弁護人に対する弁護料等を調達するため、控訴人より、昭和三九年一〇月一五日と一一月二一日に各金二〇万円づつを、同年一二月二五日に金三八万六、〇〇〇円を各現金で、又同年一〇月三一日銀行振込で金二〇万円を受取り、その都度勝手に佐々木三郎名義の受領証(乙一号証の三ないし五)を作成して控訴人に交付したことを認めることができる。右認定に反する控訴人代表者本人の供述は措信できない。
そこで、佐々木の妻に支払つたこの合計九八万六、〇〇〇円の弁済が前記一〇通の手形の残りの五通である本件手形の弁済となるかどうかについて判断するに、本件手形の各支払期日が昭和三九年一一月から翌年三月までの毎月々末なのに、控訴人は支払期日前の同年一〇月一五日と一一月二一日に各二〇万円を支払い、三八万六、〇〇〇円も支払期日でない一二月二五日に支払い、銀行振込も同年一〇月三一日に行なわれ、それらは何れも手形と引換えでなく行なわれていること、控訴人は、佐々木の妻は被控訴人の復代理人又は被控訴人の代理人である佐々木の使者として、前記金員を受領したと主張しているが、佐々木が、復代理人を選任するにつき、被控訴人の許諾があつたとか、巳むを得ない事情があつたと認め得る資料がないばかりでなく、佐々木がその妻に本件手形金の支払を受けるための取立を委任したり、使者として取立を命じたものとは認められないことは、既に認定したところにより明らかであるから、佐々木の妻が被控訴人の復代理人又は佐々木の使者としてこれらの金員を受領したものと認めることはできない。従つて控訴人が佐々木の妻に支払つた前記認定の金員を以て、控訴人の旧手形債務及び本件手形債務に対する弁済があつたとなし得ないことは明らかである。
最後に原審は、支払期日が昭和四〇年二月二九日とある原判決添付目録4の本件手形は、暦にない日であるから無効であると断じているが、前掲の甲一ないし三号証、同五号証によると、他の四通の手形の支払期日がすべて月末となつていること、証人佐々木三郎も二月々末のつもりなのを誤つて二月二九日と書いたと証言していることに鑑み、これは二月末日を支払期日とする有効な手形であると解され、左様に解しても不合理ではないので、この故を以て右手形を無効とするのは相当でない。よつて、この請求を棄却した原判決の部分はこれを取り消すこととする。
されば、原判決のうち、控訴人に原判決添付目録1235の手形四通の額面合計八〇万円とこれに対する右5の手形の支払期日の翌日たる昭和四〇年四月一日から完済に至るまで年六分の利息の支払を命じた部分は相当であつて、控訴人の控訴は理由がないので、これを棄却