大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)40号 判決 1965年9月29日
理由
控訴人が丸栄金属に対し原判決添付目録記載の約束手形四通を振り出したことは当事者間に争いがなく、右手形が丸栄金属から株式会社徳田商店へ、同商店から被控訴人へと順次裏書譲渡され、現に被控訴人がその所持人であることは、控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。
控訴人は、本件手形債務は丸栄金属に対する代物弁済により消滅した旨を主張し、あるいは丸栄金属から支払猶予ないし免除を得た旨主張するのであるが、かりにその主張のような事実が、本件手形が丸栄金属から株式会社徳田商店へ、さらに被控訴人に対して適法に裏書譲渡された後において、前者たる丸栄金属との間で生じたとしても、これがために、前記裏書譲渡によつて現に所持人となつている被控訴人の手形上の権利に何等の消長をきたすものでないことは明らかであるし、また、かりにその主張のような事実が丸栄金属との間に生じた後に、本件手形が丸栄金属から株式会社徳田商店へ、さらに被控訴人に裏書譲渡されたものとしても、手形面にその旨の記載がなされていない以上、それらの事実は前者たる丸栄金属に対してのみ主張し得べき単なる人的抗弁であるにすぎないから、所持人である被控訴人に対抗し得べきものでないこともまた明らかである。いずれにせよ、丸栄金属との間にその主張のような事実があるというだけでは、これをもつて被控訴人の本訴請求を拒むことはできないから、控訴人の右抗弁はそれ自体失当である。
ところで本訴は、本件各手形の満期到来前に提起され、本件訴状が控訴人に送達されたのが昭和三九年一一月一二日であることは記録上明らかであるところ、原判決言渡後から当審に係属中にかけて、各満期日がいずれも到来したものである。そして手形金請求訴訟の訴状の送達は、これによつて当該手形を相手方に呈示し相手方を遅滞に付すると同じ効果が認められ、かつその効果は当該訴訟の係属中持続するものと解せられるから、本件のように、満期到来前に訴状が送達せられ、訴訟係属中に満期日が到来した場合には、満期日の到来と同時にそれぞれの手形が相手方に呈示されたものとして付遅滞の効果が生じたものというべきである。
そうすると、控訴人に対し本件手形金合計金二〇〇万円及びこれに対する本件手形のうち満期日の最もおそい本件(四)の手形の満期日の翌日である昭和四〇年一月二六日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は、正当としてこれを認容すべきものであり、本件控訴は理由がない。しかし被控訴人の請求につきここになす判決は、原判決後における満期日の到来と当審における請求の減縮により、原判決主文と符合しなくなつたので、原判決をその限度で変更する。