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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)922号 判決 1968年5月16日

第六六四号事件控訴人 榊田喜三

右訴訟代理人弁護士 甘糟勇雄

同 前田常好

同 杉島勇

第六七六号事件控訴人

(旧商号 大阪ゴム株式会社) 大日企業株式会社

右代表者代表取締役 中道達治

右訴訟代理人弁護士 小林康寛

第六六四号事件 第六七六号事件被控訴人 森田武顕

右訴訟代理人弁護士 奥西正雄

同 熊谷直之助

当事者参加人 柳鉉次郎

右訴訟代理人弁護士 安藤伊重郎

主文

一、本件各控訴を棄却する。

二、本件参加申出中、被控訴人と第六六四号事件控訴人との間の訴訟に対する参加申出を却下する。

三、被控訴人と第六七六号事件控訴人との間の訴訟における参加申出につき、

(一)当事者参加人と第六七六号事件控訴人間において、原判決別紙目録記載の物件が当事者参加人の所有であることを確認する。

(二)第六七六号事件控訴人は、当事者参加人に対し右物件につき昭和三九年一一月二五日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三)当事者参加人のその余の請求を棄却する。

四、控訴費用は各控訴人の負担とし、参加によって生じた訴訟費用は、当事者参加人と第六七六号事件控訴人との間においては、当事者参加人に生じた費用の二分の一を右控訴人の負担、その余を各自の負担とし、当事者参加人と被控訴人、第六六四号事件控訴人との間においては、全部当事者参加人の負担とする。

事実

第六六四号事件控訴人(以下「控訴人榊田」という。)は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、第六七六号事件控訴人(以下「控訴会社」という。)は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は、控訴会社に対し原判決別紙目録記載の物件を引渡し、かつ、昭和二七年一二月一日から昭和二九年一二月三一日まで一ヶ月につき五、一五九円、昭和三〇年一月一日から昭和三一年六月三〇日まで一ヶ月につき五、五三三円、同年七月一日から右引渡しずみに至るまで一ヶ月につき五、六六六円の各割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者参加人(以下「参加人」という。)は、「参加人と被控訴人、控訴人榊田、控訴会社間において原判決別紙目録記載の物件が参加人の所有であることを確認する。控訴人榊田は、控訴会社に対し右物件につき昭和二一年一月九日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。控訴会社は、参加人に対し右物件につき昭和三九年一一月二五日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。参加によって生じた訴訟費用は、控訴人両名と被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人と控訴人榊田は、「参加人の請求を棄却する。参加によって生じた訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、控訴会社は、参加人の請求を認諾すると述べた。

≪以下事実省略≫

理由

第一、本件参加申出の適否について

一、被控訴人が本件において請求の原因として主張するところは、要するに、原判決別紙目録記載の物件は控訴人榊田の所有であったが、昭和二一年一月九日同人から直接に、しからずとするも中間省略登記の合意の下に第三者を経て、控訴会社に売渡され、次いで被控訴人が昭和二七年八月下旬控訴会社から買受けて、被控訴人の所有に帰したものであるから、控訴人榊田、控訴会社との間で本件物件が被控訴人の所有であることの確認と、控訴会社に代位して登記名義を有する控訴人榊田に対し、控訴会社あてに所有権移転登記手続を、控訴会社に対し被控訴人あてに所有権移転登記手続をそれぞれ求めるというのである。次に、参加人が当審における参加の理由として主張するところは、要するに、本件物件は控訴会社外二名が昭和二一年一月九日控訴人榊田から共同で買受けた後、控訴会社の単独所有となったが(控訴会社の主張事実を援用)、参加人は昭和三九年一一月二五日控訴会社からこれを買受けて所有権を取得したから、被控訴人、控訴人榊田、控訴会社との間で本件物件が参加人の所有であることの確認と、控訴会社に代位して登記名義を有する控訴人榊田に対し、控訴会社あてに所有権移転登記手続を、控訴会社に対し参加人あてに所有権移転登記手続をそれぞれ求めるというのである。従って、本件参加申出は、被控訴人の請求が控訴人榊田と控訴会社に対する訴の主観的併合であるのに伴い、被控訴人、控訴人榊田間の訴訟に対する参加申出(即ち、被控訴人に対する所有権確認請求と控訴人榊田に対する所有権確認、登記請求)と、被控訴人、控訴会社間の訴訟に対する参加申出(即ち、被控訴人に対する所有権確認請求と控訴会社に対する所有権確認、登記請求)とが併合されているものと認めることができる。

二、しかして、右第一の参加申出は、参加人が民事訴訟法第七一条前段の「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコトヲ主張スル第三者」に該当するとしてなされたものと解されるが、右規定は、その沿革に照らして考えると、本訴当事者間の訴訟を放置するにおいては、第三者として右訴訟についてなされた判決の結果を事実上承認せざるを得なくなり、延いては自己の権利を害されるという場合に、これを防止するため、右のような利害関係を有する第三者に対して係属中の訴訟に当事者として参加することを認めたものである。従って、第三者の参加の許否については、本訴の当事者が第三者の利益を害する意思で訴訟を追行しているかどうか、即ち客観的に見て当該訴訟が第三者にとって詐害的、馴合的な訴訟であるかどうかをもって、判定の基準とすべきであり、それが否定される場合には、参加申出は不適法であると解するのが相当である。

そこでこれを本件について見るに、被控訴人の控訴人榊田に対する請求原因は前記のとおりであるが、これに対し控訴人榊田は終始一貫して本件物件を何人にも売却したことはないと主張しており、右売買の有無を主要な争点として原審以来証拠調べが重ねられて来たところ、参加人は前記の如く本訴が当審に係属後に本件物件を控訴会社から買受けたと主張して(従って、参加人は二重譲渡における後の譲受人である。)、参加に及んだものであって、右のような本訴の請求原因と参加の理由、及び本件訴訟の経過に鑑みるならば、被控訴人と控訴人榊田間の訴訟は、参加人の利益を害する意図の下に追行されているもの、即ち参加人にとって詐害的、馴合的な訴訟であるとは到底言い得ないことが明らかである。そうすると、第一の参加申出は、参加の要件を欠き、不適法として却下を免れない(なお、本件においては、当事者の訴訟追行の態度から推してこれを同法第六四条の補助参加と解する余地もないというべきである。)。

三、次に第二の参加申出について附言すると、右参加申出は、参加人が同法第七一条後段の「訴訟ノ目的ノ全部若ハ一部カ自己ノ権利ナルコトヲ主張スル第三者」であるとしてなされたものと解されるので、参加人の主張する権利と本訴の目的となっている権利とが論理的に両立し得ないものであることを要する。ところで、叙上の事実によると、被控訴人の主張と参加人の主張がいずれも理由がある場合には、控訴会社は本件物件を被控訴人と参加人に二重譲渡したのであるから、控訴会社に対する関係では、被控訴人も参加人も共に本件物件の所有権を取得したことになるが、いずれも対抗要件を具備していないために、相互には右所有権取得を主張できない関係にあることが明らかであって、結局第二の参加申出は、被控訴人に対する所有権確認が理由なきに帰するは格別として、被控訴人の控訴会社に対する請求と両立することが可能であり、これまた参加の要件を欠くのではないかとの疑問を生ずる。

しかしながら、右は本案審理の結果言えることであって、後段の参加の要件としての権利の非両立性は、参加の理由によってのみ判断すれば足りるというべく、右のように実体法上同一の権利関係が相対的に帰属するため請求が両立し得ることを理由に、かかる参加を不適法とすることはできないと解すべきであろう。けだし、右のように実体法上請求が両立する場合には、実体に即して判断を下すのがむしろ当然であり、当事者参加制度という手続上の理由で、実体法上の大原則を否定するが如き結果を招来することは許されないからである。しかして、第二の参加申出は、その理由に照らすと参加の要件を具備しているから、もとより適法といわなければならない。

第二、控訴人榊田から控訴会社への所有権移転について

一、以下、便宜上売買の時間的順序に従って本案についての判断を加えることとする(厳密には、被控訴人の控訴人榊田に対する代位による登記請求の関係では、代位の要件たる控訴会社から被控訴人に対する売買が判断の前提となるものであることはいうまでもないが、この点は後述する。)。

≪証拠省略≫を総合すると、次のような事実を認定することができる。

即ち、控訴人榊田は戦前から榊田証券株式会社の社長をしていたが、昭和二〇年暮頃証券業界の混乱で会社運営資金に不足を来たし、破産寸前にまで立至ったので、急場を切抜ける資金を捻出するため自己所有の不動産を早急に売却する必要に迫られていたところ、不動産仲介業者の日進商事こと小阪喜之助のあっせんにより売却の目途がつき、昭和二一年一月九日自己の義弟であり、会社での職務を事実上代行させていた榊田陽吉を自己の代理人とし、買主である小杉源蔵、横山和子(未成年のため後見人の坂本まさが代理した。)の両名との間で、本件物件を含む控訴人榊田所有の一一戸分の土地家屋を代金一八〇万円、手付金三〇万円は同日払い、残金は同年二月末日限り所有権移転登記手続と同時に支払うこと、登記の際買主の名義を第三者に変更することがあっても売主は何等異議がないこと(中間省略登記の合意)等の約定の下に売渡し、即日右手付金三〇万円が授受され、売買契約書が作成されたこと、ところが右売買物件中には控訴人榊田方居宅の家屋敷も含まれていたことから、家族が本宅まで処分することに反対を唱えたので、一両日後双方の協議により控訴人榊田が四五万円で買戻したという形式を採ってこれを売買の対象から除外し、結局これにより売買代金は一三五万円に変更されたこと、右買主である小杉、横山は転売の目的で買受けたもので、転売の際には中間省略により直接転買人名義に所有権移転登記ができるようにするため、前記代理人の榊田陽吉から控訴人榊田名義の買受人住所氏名、日付欄を空白とし、ブロック毎に物件を区分した売渡証書と白紙委任状を五組徴していたこと、他方、控訴会社は予てから小杉に対し京都市内に控訴会社の社員寮ないし顧客の宿泊施設として適当な土地家屋の買受方あっせんを依頼していたので、小杉等から右物件中の本件物件を代金三〇万円で買受けることとし、右代金を支払うと共に本件物件に関する前記売渡証書と委任状を受領したこと、なお本件物件以外の物件は同年二月七日小杉、横山の両名から加藤尚に対し一括して代金一〇八万円で転売され、控訴人榊田に支払うべき残代金は加藤に対する転売代金で支払われたこと、以上の事実が認められる。≪証拠判断省略≫

二、控訴人榊田は、本件物件を何人にも売却したことがなく、ただ榊田証券株式会社の運営資金にあてる必要上、小杉、横山の両名との間で一三五万円を限度とする金銭消費貸借契約を結び、右債務につき本件物件を含む土地家屋を売渡担保に供したに過ぎないと主張するが(右のように債権債務関係の存続を主張しているところからすると、譲渡担保の趣旨のようにも解されるが、そのいずれにせよ)、担保の目的に出たものとすれば特段の事情のない限り抵当権を設定するのが合理的であるのみならず、控訴人榊田主張の如き債務の弁済期や利息についての約定の存在を認めるに足りる証拠もなく、却って手付金の授受や中間省略登記の合意を含む単純にして確定的な売買契約が締結されたものであることは前記のとおりであるから、右主張は採用できない。

また控訴人榊田は、売渡担保でなく売買であるとすれば、意思表示に錯誤があったから右売買は無効であると主張するが、前認定の売買成立の経緯に鑑みると、右主張も理由がない。

三、してみると、本件物件は控訴人榊田から小杉、横山の両名に、右両名から控訴会社に、それぞれ中間省略登記の合意の下に譲渡されて控訴会社の所有に帰したものというべきである。

第三、控訴会社から被控訴人への所有権移転について

一、被控訴人が昭和二七年八月下旬控訴会社から本件物件を代金五〇万円で買受け、即日内金一〇万円を支払い、残代金四〇万円の支払期日を同年九月末日と定めたが、右期日までに残代金を支払わず、同年一一月六日になって約束手形三通(額面計二四万一、四四九円)、小切手一通(額面八、五五一円)を控訴会社に送付したこと、控訴会社は同月一二日被控訴人に到達の内容証明郵便で被控訴人に対し、右書面到達後五日以内に三九万一、四四九円(残代金四〇万円から右小切手金を控除した金額)を支払うべく、もしその支払いがないときは本件売買契約は解除となる旨の催告及び停止条件付契約解除の意思表示をしたこと、以上の事実は被控訴人と控訴会社、参加人間においては争いがなく、被控訴人と控訴人榊田間においては同控訴人が明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

二、右事実によると、右催告にかかる支払期限は同月一七日であるところ、被控訴人は、控訴会社の代理人中村信義において同月一三日、右期限を一日猶予し、従って期限は一八日に変更されたと主張するので案ずるに、≪証拠省略≫を総合すると、控訴会社は前記の如く社員寮ないし宿泊施設とするため本件物件を買受けたが、本件物件には被控訴人が従前から賃借人として居住していて容易に明渡しを得られないため買受けの目的を達成できず、折柄の不況のせいもあって本件物件を居住者の被控訴人に売却することにしたものであること、本件売買については控訴会社の取締役で総務部の庶務会計を担当している中村信義が、売買代金の取決めや内金一〇万円の受領、残代金支払いの督促をしたりして、控訴会社の代理人として被控訴人との折衝に当っていたこと、被控訴人は前記の内容証明郵便が到達した翌一三日に控訴会社内の中村に電話し、一七日にはどうしても資金繰りがつかないが、一八日にはその見込みがあるので同日まで待たれたく、また登記手続をするにつき落合う場所を決められたいと懇請し、兼ねて先に送付した約束手形の返送方を依頼したところ、中村は一八日に変更の件については「仕方がないなあ」と答え、なお落合う場所は後日連絡し、手形は返送する旨返答したこと、控訴会社は一三日付翌一四日発信の書留速達便で被控訴人に前記の約束手形、小切手を返送したが、その際同封の書面の末尾に、一七日には一応工場までお越し願いたい旨記載してあったこと、そこで被控訴人は一七日控訴会社に中村を訪れたが、中村は代金支払いの件は先日の電話で了解しているとの趣旨を告げ、更に所有権移転登記手続に必要な前所有者控訴人榊田の印鑑証明書を被控訴人と控訴会社のいずれが取寄せるかにつき被控訴人と交渉をしたことが認められる。≪証拠判断省略≫

右事実によると、中村は控訴会社の代理人として、被控訴人の申入れに応じ期限を一日延期して一八日とすることを承諾したものと認めるのが相当であり、従って、催告にかかる期限の一七日が変更されていないことを前提とし、同日の経過と共に本件売買が解除されたとする控訴会社の主張が失当であることは明らかである。

のみならず、本件売買の売主である控訴会社としては、被控訴人に対し本件物件の所有権移転登記手続をする義務を負担しているのであり、本件売買当時土地の登記名義が控訴人榊田にあり、家屋が未登記であって、共に控訴会社が登記名義を有していなかった(弁論の全趣旨により明らかである。)としても、右義務が存することには変りはない。また被控訴人が本件売買以前から本件物件を賃借して占有しており、本件売買により控訴会社が賃貸人の地位を当然承継したという事情があるにもせよ、それがため控訴会社主張の如く被控訴人が本件売買により本件物件の所有権移転登記を受けて対抗要件を具備する必要がなかったものとは認め難い。しかして、前認定の事実に≪証拠省略≫を総合すると、右のように控訴会社の負担する所有権移転登記義務と被控訴人の残代金支払義務とは、同時履行の関係にあったものと認められるところ(≪証拠判断省略≫)、控訴会社が前記催告にかかを期限である一七日までに自己のなすべき反対給付たる登記義務の履行につき、これが提供をしたことを認めるに足りる証拠は何ひとつ存しないのであって、このように双方の給付が同時履行の関係にある場合に、反対給付の提供をしないでした催告に基づいて契約を解除しても、これにより何等の効力を生ずるものではない。

次に、被控訴人の残代金支払義務の履行の有無について検討するに、≪証拠省略≫によると、被控訴人は変更後の期限当日である一八日に株式会社大和銀行京都支店で残代金に相当する額面四〇万円の自己宛小切手を作成してもらい、これを持参して控訴会社に中村を訪ね、右小切手を呈示して交付しようとしたが、中村は本件については既に弁護士を依頼してあるといって受領を拒否したことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかして、銀行の自己宛小切手はその支払いが確実な点で取引上金銭と同一視されていることは公知の事実であるから、他に特段の事情の主張立証がない本件においては、右小切手による履行の提供は、債務の本旨に従ってなされたものと認めるのが相当である。

三、次に、控訴会社は、本件売買は控訴人榊田所有物件の売買であるところ、同人から控訴会社への所有権移転登記が未了であるため被控訴人に所有権移転登記をすることができないから、民法第五六一条の準用により本訴で本件売買契約を解除する旨主張するが、前記第一において判断したとおり、本件物件は控訴会社の所有に帰していたのであるから、右主張はその前提において失当たるを免れない。もっとも、売主の担保責任に関する限り本件のような場合にも同条の適用があると解する余地があるとしても、同条は買主につき解除権を認めた規定であり、売主については第五六二条の要件の下に解除権を行使するは格別として、第五六一条を準用することはできないから、右主張はこの点においても失当である。

四、以上によれば、本件売買につき控訴会社主張の解除は無効であるから、本件物件の所有権は控訴会社から被控訴人に適法に移転しているものということができる。

第四、控訴会社から参加人への所有権移転について

≪証拠省略≫によれば、控訴会社は本訴が控訴審に係属した後である昭和三九年一二月二五日参加人に対し本件物件を代金一五〇万円で売渡したことが認められ、これに反する証拠はない。この点に関し、被控訴人は本訴において被控訴人が代位権に基づき控訴会社の控訴人榊田に対する登記請求権を代位行使している以上、右代位行使の事実を知っている控訴会社としては本件物件を他に譲渡できないと主張するが、被控訴人が右のように登記請求権の代位行使をしているからといって、控訴会社が本件物件の所有権そのものを他に譲渡することが妨げられるいわれはないから、右被控訴人の主張は失当というべきである。

第五、結論

以上の説示に基づき、被控訴人の本訴請求、控訴会社の反訴請求について考えるに、まず被控訴人が控訴人榊田、控訴会社との間で本件物件の所有権確認を求める点については、被控訴人は本件物件につき未だ登記名義を有しないが、控訴会社は売買の直接当事者、控訴人榊田はその前々主であって、登記の欠缺をもって被控訴人に対抗することができないことが明らかであり、なお控訴人榊田、控訴会社が被控訴人の所有権を争っている以上、確認の利益を肯定すべきであるから、右請求は理由がある。次に、被控訴人が控訴会社に対する登記請求権を保全するため控訴会社に代位して控訴人榊田に対し、控訴会社あてに本件物件の所有権移転登記手続を、また控訴会社に対し被控訴人あての移転登記手続を、控訴会社に対する売買残代金四〇万円の支払いと引換えに求める点も正当である(なお、≪証拠省略≫によると、本件物件中土地は控訴人榊田が登記名義を有し、家屋は当初未登記であったが、被控訴人が控訴人榊田に対してした処分禁止の仮処分の執行に際し、登記所の職権で控訴人榊田名義に保存登記されたことが窺える。)。しかし、控訴会社が被控訴人に対し本件物件の引渡しと損害金の支払いを求める反訴請求は失当といわなければならない。そうすると、被控訴人の本訴請求を認容し、控訴会社の反訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件各控訴は理由がないから、これを失当として棄却するものとする。

次に、参加人が被控訴人と控訴会社間の訴訟に対する参加申出について、被控訴人、控訴会社との間で本件物件の所有権確認を求める点については、控訴会社との関係では、前記被控訴人の本訴請求について述べたと同様の理由で正当として認容すべきであるが(控訴会社が参加人の請求を争わないとしても、他の当事者が参加人の請求を争っている限り、参加人は確認の利益を有するものである。)、被控訴人との関係では、参加人は所有権取得を対抗できないこというまでもないから、該部分は失当として棄却すべく、また控訴会社に対し参加人あて所有権移転登記手続を求める部分は正当であるから認容すべきものである。

そこで、控訴費用及び参加によって生じた訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩口守夫 裁判官 松浦豊久 青木敏行)

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