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大阪高等裁判所 昭和40年(ラ)230号 決定 1965年11月11日

抗告人 田中よしこ(仮名)

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は「原審判を取消す。本件申立を却下する」との裁判を求め、その理由として別紙抗告の理由記載のとおり主張した。これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

家庭裁判所の審判に対しては、家事審判規則その他の法令規則に即時抗告をもつて不服を申立てることができる旨の規定がある場合においてのみ不服の申立をすることができる。その他の場合には、申立を不適法として却下した審判、または審判をすることができない事項について為された審判に対して即時抗告をすることができるのは別として、事案の実体について為された審判の当否を争つて不服の申立をすることは許されない。

原審判は、抗告人の夫田中次郎が抗告人に対して訴訟しているために、精神障害者である抗告人の保護義務者にならないので(精神衛生法第二〇条第一項但書参照)、次順位の保護義務者となるべき抗告人の扶養義務者の中から(同条第二項参照)、抗告人の実姉沢村しづこを保護義務者として選任した審判である。(同条第三項)右のような審判事件の管轄、手続については特別家事審判規則第二一条第二二条の規定があるが、右審判に対して即時抗告を為し得る旨の規定はない。従つて右審判に対しては、その実体についての判断の当否を争つて不服の申立をすることは許されない。

抗告人は本件抗告中で抗告人が精神障害者と認定され、かかる者として処遇されることについて不服を申立てている。しかしながら、精神障害者保護義務者選任審判は、既に精神障害者として処遇されている者または将来かかる者として処遇する必要を生ずるおそれある者について、その保護義務者を選任するものに過ぎず、抗告人が主張するように、特定の者を精神障害者と指定するものでも、またその者を精神障害者として処遇すべき旨を定めるものでもない。このような精神障害者の指定及び処遇は、例外的には保護義務者が都道府県知事の許可を受けて精神障害者の拘束等の処遇をすることもないではないが、原則として都道府県知事、精神病院長、精神衛生鑑定医等が行政処分としてこれらを行うのであるから、これに対する不服の申立は、右保護義務者選任審判に対する即時抗告をもつてこれをなすべきかぎりでないこと明白である。

原審判は、その実体についての判断の当否を争つて不服の申立をすることができない種類のものであるのに、本件抗告は原審判の実体についての判断不当として非難するものであるから、不適法としてこれを却下すべく、民訴法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 長瀬清澄 裁判官 岡部重信)

抗告理由<省略>

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