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大阪高等裁判所 昭和41年(ツ)8号 判決 1967年12月25日

上告人 酒井正一

右訴訟代理人弁護士 後藤三郎

被上告人 大西清

右訴訟代理人弁護士 井藤誉志雄

主文

原判決を破棄する。

本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

理由

上告理由第一点について。

原判決は、その挙示の証拠により、原判決添付目録(一)記載の宅地八七坪(土地区画整理事業により同所四六四番宅地六五坪二勺となった実測六四坪六合七勺の土地)(本件土地)はもと訴外松尾政吉の所有であったが、同訴外人が昭和三七年二月一二日本件土地を上告人に売渡したところ、これより先昭和三〇年頃から右訴外人より本件土地の一部を借受け同地上に原判決添付目録(二)記載の建物(本件建物)を所有していた被上告人が本件土地のうち西側半分に賃借権があると主張したため、昭和三七年三月八日頃上告人夫婦、同人らが依頼していた土地仲介業者橋本喜一郎、右松尾政吉の代理人中野秀昭および右松尾が依頼した土地仲介業者島田保夫らが被上告人方に赴き、同人と話合った結果、被上告人が主張する本件土地の西側半分三二坪三合五勺位のうち本件建物の北端から北へ六尺の線以北の土地約一六坪は被上告人において返還し、その代償として、前記松尾政吉が被上告人に金一八万円を支払い、本件建物敷地を含む(原判決四枚目裏末行の「本件建物を含む」とあるは、「本件建物敷地を含む」の誤記と認められる。)右以外の土地は被上告人が引続き上告人から借りるが賃料は後日被上告人、上告人間で話合ってきめる、本件建物の西側の土地は上告人が必要とするときはその通行を認める。旨の約束がなされ、最終的には当日被上告人の土地賃借権を認めた事実を認定したうえ、被上告人の主張は理由があると判示した。原判決の判示するところは判文上必ずしも明らかではないが、原判決が控訴代理人の主張として掲げた三記載の事項と照合すると、前記話合の結果、上告人は、本件土地の西側半分中本件建物の北六尺以北の土地約一六坪を除く本件建物敷地を含む土地につき被上告人が訴外松尾政吉に対し賃借権を有することを確認し、その賃貸人の地位を承継したが、賃料については後日双方で話合って決定することとなったとの趣旨に解せられる。しかしながら、土地につき賃貸借契約を締結するにあたっては、目的土地の範囲を定めるとともに、賃料の取り決めをするのが一般であって、これを後日の協定に委ねるというが如きは異例のことに属するものと解すべく、したがって、賃貸借契約は成立したが目的土地の範囲は定かでなく賃料については後日双方で協定することとしたとなすには、これらを後日の協定に委ねても賃貸借を成立させなければならない特別の事情があったかどうかが重視されなければならない。しかるに、原判決の右認定事実から、前記話合いがなされた当時被上告人と右訴外人間に本件土地の賃借権の存在ないしは賃借地の範囲につき争のあったことが窺知されるにもかかわらず、原判決は、右両者間の賃貸借における賃借地の範囲や賃料について確定せず、単に、上告人が賃料は後日双方で話合ってきめる約束のもとに同訴外人の被上告人に対する賃貸人の地位を承継した旨判示するのみで、上告人において、賃料の取り決めをしないまま判示土地部分についての従前の賃貸借を確認しこれを承継しなければならない特別の事情があったことについては何ら言及していない。このような特別の事情もないのに、判示のように上告人と被上告人間の賃貸借関係を認定することは、経験則上到底首肯し難いところである。原判決は、以上の点で審理不尽、理由不備の違法があるというほかなく、原判決にそのような違法があることを主張する趣旨と解せられる所論は結局理由があるから、原判決はその他の上告理由につき判断するまでもなく破棄を免れないし、なお審理判断の必要があるから、本件を原裁判所に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 坂速雄 判事 谷口照雄 輪湖公寛)

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