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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1158号 判決 1968年4月18日

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方、被控訴補助参加人らの主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人は、

株式会社は、実体はその会社の株主のものであり、控訴会社のごとき小企業にあつては、少数の限られた人数の株主がいて実質的に会社を構成しているものである。したがつて株主総会のごとき商法上の厳格な規定を形式的にあてはめることは妥当ではなく、実質的に全株主が会合し、全株主の意思が会議において表明される場合にはその会合は株主総会と認めるべきである。控訴会社の新株主総会については、当時の控訴会社の株主六名全員が出席して役員改選の決議をしているが、これを単なる株主の集合にすぎず、会社機関としての株主総会を成立せしめるものではないとすることは、あまりにも形式論にすぎ、控訴会社の実体を解しないものであつて、むしろ実体面からみてその総会は成立し、その決議は有効になされたものとみるべきである。

と述べ、乙第六号証を提出し、丙第四号証の成立を認めた。

2  被控訴人は、乙第六号証の成立を認めた。

3  被控訴補助参加人らは、

(一)  被控訴人は訴外丸善石油株式会社の神戸出張所長三好久一から控訴会社を再建させてやるからそれまで一時的に控訴会社の株券を担保として訴外会社に預けておいてもらいたいと申向けられ、その旨誤信して被控訴補助参加人らの株券を提供せしめられた。右三好は一旦株券の交付を受けるや前言をひるがえし、訴外会社と共謀して非合法的に会社の乗取りに着手し、順次に架空の株主総会を作為したものである。

(二)  訴外会社は幹部の乱脈と経営の放慢のため莫大な負債を生ずるとともにその特約店もまた訴外会社に対し多額の債務を負うものが続出したが、控訴会社の負債が他の特約店に比較して少額であり、被控訴人が訴外会社の関係社員に金品を交付することが少なかつたためにこれを乗取りその負債を遥かに超過する会社財産を横領したものである。

と述べ、丙第四号証を提出し、乙第六号証の成立を認めた。

理由

一  当裁判所が控訴人の本案前の主張について、差戻に際しなした判断は、裁判所法四条により下級審の裁判所を拘束するので、原判決がこの点につきなした判示はすべて無用であり、本判決においても、もとよりこの点には触れない。

二  そこでまず旧株主総会決議が存在するかどうかについて判断する。被控訴人がかつて控訴会社の代表取締役であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の二、第三、四号証、第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる同第一号証の一、三、四、第五号証及び原審証人三好久一の証言によると、昭和三三年六月一五日以降の控訴会社の取締役は被控訴人のほか被控訴補助参加人伊坂スミ及び同山村賞の三名であり、監査役は同荒井藤造一名であつたこと、右四名はいずれも昭和三四年三月二四日辞任し、その旨の登記を経由し、控訴会社の取締役、監査役全員につき欠員を生じたこと、被控訴人は控訴会社の設立の当時株主である被控訴補助参加人らから株式についてあらかじめ譲渡処分の権限を付与されていたのみでなく、その第一裏書欄の調印欄にそれぞれ右株主の印鑑を押捺した株券全部の保管を託されていたので、この授権に基づき同年二月初旬頃株式全部を前記株主の代理人として訴外丸善石油株式会社に譲渡すべきことを約諾して右株券全部を同会社に交付したこと、同会社はその神戸出張所長であつた訴外三好久一名義に名義書換手続を了し、同人一人が株主となつたこと及び右三好は被控訴人から当時後任取締役、監査役選任のための旧株主総会招集手続をなすことを委任されこれに基づいて自ら株主総会決議をなしたことをいずれも認めることができる。右認定に反する原審証人伊坂スミの証言は措信しがたく、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はないので、被控訴補助参加人らの主張は採用できない。

ところで株主総会の招集については株主ら利害関係者の保護をはかるためその招集権は法によつて定められた機関に専属的に与えられているものではあるけれども、いわゆる一人会社の場合に限りそのような考慮は全く不必要であつて、その総会はその一人の株主が出席すればそれで成立すると解しても何ら弊害はあり得ない。したがつて招集手続も不要であつて、招集権の委任が許されるか否かの問題も生じないと解すべきである。したがつてこの点についての控訴人の主張は理由があり、臨時株主総会議事録(甲第二号証の二)は登記申請手続のために作成したにとどまり、それが公正証書原本不実記載同行使の罪にふれる(丙第三号証)としても、旧株主総会そのものは適法に成立し、その決議は不存在といえない。

三  そうすると旧株主総会決議によつて選任された訴外木村勝太郎、同佐久間正夫、同堅山秀造の取締役としての行為はすべて有効であり、これらの者によつて招集された新株主総会も適法に成立し、その決議は有効になされたものというべきである。

四  よつて旧株主総会の決議不存在並びに新株主総会の決議無効の各確認を求める被控訴人の請求を認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取消して被控訴人の請求を棄却すべく、民訴法八九条、九六条を適用して主文のように判決する。

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