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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1226号 判決 1968年2月26日

控訴人 宮島正次

みぎ訴訟代理人弁護士 橋本清一郎

被控訴人 日新株式会社

みぎ代表者代表取締役 伊藤与曽次

みぎ訴訟代理人弁護士 中沢信雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被控訴人が、控訴人において引受けをした原判決別紙目録第一(1)ないし(10)の為替手形の所持人である事実は当事者間に争いはない。

二、(免除の抗弁について)

控訴人の抗弁するとおり被控訴人が控訴人の債権者集会の席上で控訴人に対し本件手形債権全額の支払義務を免除したとすれば、それは、みぎ債権関係の当事者双方にとっては勿論、控訴人の他の債権者らにとっても重大な利害関係のある変動であるから、その当時当事者または債権者集会の責任者らが後日の証拠とするために、その事実を書面に作成するのが通常の事例であるのに、本件に顕れた全証拠によってもこのような書面が作成された形跡は認められない。また免除の動機として控訴人の主張するところは、被控訴人より借り受けた反物の一部を返還したというにすぎず、免除の動機として薄弱であることは免れない。≪証拠省略≫中には、控訴人のみぎ抗弁に副う供述があるけれども、これら証人らおよび控訴人はその供述内容自体からして、いずれも控訴人のみぎ抗弁事実である債務免除に利害関係のあるものであることおよび前示のような情況、ならびに、原、当審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果に照し、前記証人らや控訴本人の供述はたやすく信用し難く、他にみぎ事実を認めるに足りる証拠はない。

三、(相殺の抗弁について)

(一)  控訴人が、被控訴人に対し、昭和三七年四月三〇日より同年一一月一五日までの間に西陣御召を売り渡し、金一四〇万八、〇〇〇円の売買代金債権を取得した事実および被控訴人がみぎ売買代金債務支払いのために、控訴人に対し原判決別紙目録第二(1)ないし(9)の約束手形を振出し交付した事実ならびに控訴人がみぎ売買代金債権を自働債権として本訴において相殺するにあたり、みぎ九通の約束手形を交付呈示せず、これを所持すらしていない事実は当事者間に争いがない。およそ原因債務の支払確保のため債権者に手形を交付した債務者は、特段の事由のない限り、みぎ代金の支払いは手形の返還と引換えにすべき旨の同時履行の抗弁をなしうるものであり(最判昭和三三・六・三および同三五・七・八)、同時履行の抗弁の附着する自働債権で相殺する場合には、反対給付の提供を要するものである(大判昭和一三・三・一)から、このような原因債権でする相殺は、手形債権でする相殺と同じく、原則としてみぎ手形を交付することによって、これを行使すべく、ただ例外として、このような相殺を訴訟上する場合は、手形の交付を要しない(大阪高判昭和三三・一一・一〇高民集一一・九・五六五)のであるが、この解釈は訴訟上このような権利を行使する場合は、予備的仮定的にされることが多く、裁判所の判断のいかんにより、または訴の取下・和解など訴訟の経過によっては、このような相殺の抗弁が不要に帰する場合も多く、このような浮動的な相殺の場合に、ただちに手形を交付するまでの必要を見ないとの配慮に出たものであって、当該手形が債権者から第三者に譲渡され、債権者が所持人でない場合にまで、この例外を許す趣旨ではない。本件についてみると、控訴人は、本件手形を他に譲渡した一事により、その原因債権である売買代金債権を失うものではない(最判昭和三五・七・八)けれども、手形を他に譲渡して自らはその所持人でないことを自認しているのであるから、みぎ売買代金債権でする相殺は効力を生ずるに由ないものであることは明らかである。

(二)  つぎに、控訴人主張四の相殺についての判断は、原判決六枚目裏二行目に「原告代表者本人」とあるを、「原、当審における被控訴人会社代表者本人」とするの外原判決中当該判示部分(原判決六枚目表八行目から裏四行目まで)と同一であるから、これを引用する。

四、そうしてみると、控訴人の抗弁は悉く失当であって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、民訴法二八四条八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 宅間達彦 判事 長瀬清澄 古崎慶長)

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