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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1494号 判決 1967年6月30日

控訴人 株式会社近畿相互銀行

被控訴人 大阪機工株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。奈良地方裁判所昭和三九年(ケ)第六号不動産競売事件につき同裁判所が昭和四〇年一一月二六日作成した配当表を変更し、被控訴人に対する金一、三二九、七五五円の配当分を取消し、控訴人に右金額を配当する。訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張証拠の提出援用認否は次に附加するほか原判決事実摘示(但し原判決二枚目表末行より二行目被告主張とあるを原告主張と、三枚目裏八行目先取権とあるを先取特権と訂正する。)と同一であるから之を引用する。

控訴代理人は

「工場抵当権と工場備付けの機械器具の売買による先取特権の効力については明文の規定はないが、右の効力の優劣については他の権利との関係を考え、各権利間の、効力に矛盾のないように決定すべきものである。之をその他の権利と対比して考えると、

一、工場抵当法第一三条第二項は工場財団に属するものは所有権以外の権利の目的とすることを得ないと規定し右所有権以外の権利には先取特権も含むものと解せられるが、之を先取特権について考えると同条の趣旨は、個々の組成物件に先取特権を認めるとすれば財団が一体として有する担保価値がその実行により破壊されることゝなるから工場財団の個々の組成物件について先取特権は存立しないとするのである。

工場抵当にあつても、その制度の目的は工場に設置された機械類を一体として担保化したものであるから工場財団抵当に於ける同法第一三条第二項の趣旨は工場抵当にも類推されると解すべきである。

二、自動車抵当法第一一条農業動産信用法第一六条は、抵当権と先取特権が競合する場合にあつては抵当権を民法第三三〇条第一項に規定する第一順位の先取特権と同順位としているのに、工場抵当法にはこののうな規定がない。これは民法第三三〇条のように動産先取特権が存することを知り工場抵当権を設定したときは優先権を行うことができないような制度をとるときは工場抵当の一体性を失うことになるから、動産先取特権が存することを知ると否とを問うことなく、公示方法を伴わない動産先取特権の全てに対し工場抵当権は優先的効力を有すると云う当然の法理から特に規定をおかなかつたものに過ぎない。

三、動産売買の先取特権は民法第三三〇条により第三順位におかれ、動産質権に劣るが、工場抵当の目的となつている工場備付の機械類については第三者のために質権を設定することは可能であり、この場合工場抵当権は工場抵当法第五条の追及力により動産質権に優先する効力を持つことになるところ、動産質権に劣る動産売買の先取特権が抵当権に優先すると解することは矛盾である。」と述べた。

被控訴会社代理人は

「抵当権と動産先取特権相互間の効力関係については、動産抵当制度を原則として認めない我民法上規定がないのは当然であり、特別法である工場抵当法に於ても之等物権相互間の効力関係について規定はない。ところで動産先取特権には公示制度なく他方狭義の工場抵当権は登記を以て対抗要件としているから、公示制度を以て両者の優劣を定める基準とすることはできず、結局両者の優先順位は成立の先後によらざるを得ない。

工場財団抵当、自動車抵当、農業動産抵当では法の特殊目的から特別の規定を設けその効力関係が明文化されているに過ぎない。」と述べた。

理由

一、控訴会社主張の任意競売事件について訴外葛城紡績株式会社所有の奈良県生駒郡斑鳩町大字竜田一三一四乃至一三一六番地所在家屋番号同所五三八番木造スレート葺平家建工場及び同工場備付の工場抵当法第三条による機械器具目録記載の機械器具その他につき競売がなされ競売代金一七、〇〇〇、〇〇〇円についてその主張の如き配当表が作成され、右配当表には被控訴会社が前記機械器具のうち別紙目録<省略>記載機械につき動産売買の先取特権があるとして、競売代金中一、三二九、七五五円を控訴会社第二第三番抵当権に優先配当する旨の記載がなされていることは当事者間に争なく、原審証人飯島章男同片岡忠雅の証言により成立の真正を認め得る乙第一、二号証、第三号証の一乃至七、第四号証の一、二と成立に争のない甲第二号証と右証人の証言と、弁論の全趣旨によれば、被控訴会社は昭和三六年五月一七日訴外葛城紡績株式会社に別紙目録機械を代金一三、五八九、五〇〇円、代金支払方法同三七年四月一六日一〇、〇〇〇、〇〇〇円 同年五月二一日 三、五八九、五〇〇円を支払う約で売渡し、同三六年一〇月一二日迄にその全部を訴外会社に引渡したが、その代金の支払を受けていないこと、右機械はその後追加担保として工場抵当法第二条による根抵当権の極度額増額の登記申請に際し、その根抵当権の目的となる機械器具として目録に登載され根抵当権の目的とされたことが認められる。

してみれば、被控訴会社は右機械の売買代金債権について、右機械の上に、先取特権を有するものと云わねばならない。

二、控訴会社は右先取特権は訴外会社が控訴会社のためになした工場抵当権の設定により訴外会社が右機械を第三者である控訴会社に引渡したことになり、仮りにそうでないとしても右抵当権設定により控訴会社は民法第一九二条により抵当権その他の優先弁済権を即時取得したからその反射効として右先取特権は追及力を失つたと主張するが、右主張は独自の見解に出るものであつて到底採用に値しないことは原判決理由二、に説示する通りであるから之を引用する。

三、控訴会社は本件機械器具上に動産売買の先取特権と工場抵当権が競合するときは抵当権が優先すると主張する。しかしながら

(一)  工場財団抵当にあつては財団組成物件を表示した工場財団目録を登記所に提出し、工場財団登記簿に所有権保存の登記をすることにより設定されるが、この場合登記官は工場財団に属すべき動産について権利を有する者が一定期間内にその権利を申出ることを催告し、その期間内に申出がないときはその権利は存在しないものと擬制されるから(工場抵当法第二四条第二五条)、動産売買の先取特権を有する者も右の申出をしないときは、その権利を主張することはできないが、他方この申出があるときはその動産は工場財団組成物件より排除されることとなる(同法第一三条)従つて工場財団抵当に於ても右申出がない場合に限り事実上抵当権が動産売買の先取特権に優先すると同様の結果が生ずるに過ぎないものであり、況やこのような特別規定のない狭義の工場抵当にあつては抵当権が動産売買の先取特権に優先すると解すべき根拠はない。

(二)  尤も自動車抵当法第一一条農業動産信用法第一六条は抵当権と先取特権が競合する場合にあつては、抵当権を民法第三三〇条第一項に規定する第一順位の先取特権と同順位としているから抵当権は動産売買の先取特権に優先するが、之等立法は自動車運送事業の発達と自動車輸送の振興をはかる目的から自動車所有者に金融の便を与えるため、或は農業金融の打開を目的とした特別立法であり、抵当権と先取特権の順位についての之等規定も夫々の立法理由に従つて国家が特殊な経済関係に於ける債権債務に特殊な規律を定めたものであるから、之等の規定が存するからと云つて工場抵当に於ける抵当権と先取特権の優劣の決定を左右するものではない。

(三)  尚工場抵当の目的となつている工場備付の機械類について動産売買の先取特権に優先する質権が設定せられた場合、抵当権者の同意のない限り工場抵当法第五条により工場抵当権は追及力を有すると解せられることは控訴人主張の通りであるが、それは物件が債務者の占有より逸出した場合の追及効に関する問題であつてこのことは工場抵当権と動産売買の先取特権の優劣を決定する理由とはならない。

工場抵当権の目的となつている機械器具上の動産売買の先取特権は工場抵当権に優先することは工場抵当法の解釈上認めざるを得ないが、このことは約定担保権の確保に努める現代法の中にあつて法定担保権である先取特権制度を認める以上約定の物的担保権の保持者を害する場合も生ずる当然の帰結に過ぎず異とするに足らないと云うべきであり控訴人の主張は採用の限りではない。

四  してみれば控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は棄却すべく訴訟費用負担については民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小野田常太郎 松浦豊久 青木敏行)

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