大判例

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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1867号 判決 1968年8月31日

控訴人

岡坂庄五郎

被控訴人

藤田功

被控訴人

藤田やい

右両名代理人

貝松秀雄

被控訴人

甲子園製氷冷蔵株式会社

右代理人

尾嶋勘

吉本範彦

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人らは連帯して控訴人に対し金一一万円を支払え。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決を求め、

被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人は、

(一)  原審判決に関与した裁判長裁判官村上喜夫は大阪高等裁判所昭和二八年(ネ)第九七三号請求異議控訴事件の判決につき裁判官として関与しているから、同裁判官が原審に関与することは、前審関与裁判官の除斥の趣旨に違反する。しかも同裁判官は右事件の審理に際し控訴人の小切手帳に代る当座預金勘定元帳についての文書提出命令を不当にも却下し、また上告手続法の改正による注意書を上告受理通知書に故意に添付しなかつたため、上告理由書を記載して上告裁判所からの記録受理通知の送達がなされるのを待つていた控訴人の上告は却下の決定がなされるに至つた。村上裁判官が前に関与した判決と同趣旨の判決を維持したのは憲法七六条三項の裁判官が良心に従つて職権を行う旨の規定に違反している。

(二)  本件については二個の証拠保全事件により証人らが偽証し、裁判官、及び検察官が欺されていることが明らかとなつた。間違つた判決は憲法違反、正義違反、裁判目的違反であるから、控訴人としては憲法一二条によつても適正判決に訂正しなければならない国民的義務がある。

と陳述し<証拠略>た。

2  <省略>

理由

一控訴人は原審判決の裁判長裁判官村上喜夫には前審関与の違法があると主張する。そして成立に争いない甲第一三号証、乙第一号証の二によると、同裁判官が後記二認定の(ロ)の事件の判決に関与したことが認められる。(ただし乙第一号証の三によると同裁判官は控訴人主張の上告却下決定には関与していない)。しかし原審は差戻しによらない第一審であるから、民訴法三五条六号及び第四〇七条三項の問題は直接生じないのみならず、除斥事由は法定の事由に限られその拡張解釈は許されず、本件においては忌避回避の事由にも該当しないから、控訴人の右主張は採用できない。

二ところで控訴人の主張するところは要するに、訴外井出捨吉及び藤田平太より控訴人に対して提起した神戸地方裁判所昭和二七年(ワ)第九二九号請求異議事件(以下(イ)の事件と略称)とその控訴審なる大阪高等裁判所昭和二八年(ネ)第九七三号事件(以下(ロ)の事件と略称)、並びに右井出捨吉より控訴人に対し提起した神戸地方裁判所昭和二六年(ワ)第八五一号所有権移転請求権保全仮登記の抹消及び電話加入権名義書換等請求事件(以下(ハ)の事件と略称)とその控訴審なる大阪高等裁判所昭和二八年(ネ)第一四三号事件(以下(ニ)の事件と略称)の夫々係属した際、右藤田が(イ)(ロ)の各事件において本人、(ハ)の事件において証人としていずれも虚偽の供述をなし、また訴外浜田国太郎が(イ)(ニ)の各事件においていずれも証人として虚偽の供述をしたため、これらの各事件の判決を誤まらしめ、その結果、控訴人は右のすべてにおいて敗訴の判決を受けて損害を被つたというのである。しかしながら本件口頭弁論の全趣旨によると、右(ロ)の判決については控訴人の上告理由書不提出のため上告却下決定があつて、確定し、これに対し控訴人は二度にわたり再審の訴を起したが一度は却下、一度は棄却され、後者については上告して棄却されたものであり、一方(ニ)の判決も控訴審で確定した後、控訴人はこれに対しても二度にわたり再審の訴を提起したが、いずれも却下され、二度目の却下判決に対する上告も棄却されたこと明らかである。してみるとこれらの証人或いは本人の供述が真実であるか否か、また判決における判断の基礎とするに足るものであるか否かについては、すでに右に列挙したすべての事件を通じて審理判断を受けた事柄であつて、控訴人が本訴において判断を求めることは右各事件におけると同一の争いのむしかえしにすぎず、この意味において本訴請求は右各判決特に(ロ)(ニ)の各判決が不当であることを前提とするものと見ることができる。ところが控訴人はこれらの判決に対し、前示のごとく上訴及び再審による不服申立方法をつくしたに拘わらず、その効果がなかつたのであるから、もはや法律上これらの判決を不当として争う方法を持たないのである。それと共に当裁判所も本件損害賠償請求訴訟において、すでになされた別件の確定判決の当否を判定することは、法的根拠を欠き、許されないところであり、またこれらの判決を当然無効と見なければならぬほどのかしのないことも多言を要しないので、不当な確定判決には既判力は存在しないとの控訴人の法律論は採用できない。

かように考えると、控訴人に対し、仮登記の抹消、公正証書の執行力の排除等の結果を生ずるについて直接且つ決定的の原因となつたのは右各確定判決の存在でありこれらの判決の効力が覆えされない以上、その事件の当事者たる控訴人はこれに拘束されるため、前示証人本人の供述がこれらの事件において各判決を誤まらしめたと主張することはできないわけである。したがつてこれらの供述が真実であるか否か、或いはそれらが各判決の判断の基礎となつたか否かを考察するまでもなく、これらの判決によつて控訴人に生じた結果と右各証人本人の供述との間には因果関係がないと謂わざるを得ないので、控訴人の本訴請求はすべて、この点において法律上失当と解するほかはない。また控訴人は憲法違反を主張するが、独自の論で採用できない。

なお、被控訴人甲子園製氷冷蔵株式会社に対する損害賠償請求については浜田国太郎が同会社の代表取締役であつたからとて、同人が個人としてなした証言につき同会社が責任を負うべき理由はないから、右請求はこの点においても失当である。

三以上の次第であつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局正当であるから本件控訴を棄却すべきものとし、民訴法三八四条八九条を適用し、主文のとおり判決する。(沢井種雄 村瀬泰三 田坂友男)

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