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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1908号 判決 1967年5月16日

控訴人 株式会社鈴木物産(旧商号 株式会社鈴木羅紗店)

右訴訟代理人弁護士 岡崎耕三

同 井藤勝義

被控訴人 福座巖こと 福座克己

右訴訟代理人弁護士 藤本亮一

主文

原判決を左のとおり変更する。

本件につき、神戸地方裁判所竜野支部が昭和四一年二月一〇日言渡した同庁昭和四〇年(手ワ)第二八号為替手形金請求事件の手形判決のうち、被控訴人が控訴人に対し金五二五、〇八九円及びこれに対する昭和四〇年六月三〇日から支払いずみまで年六分の割合による金員の支払をなす旨命じた部分を認可し、その余の部分を取消す。

控訴人の右取消しにかかる請求部分を棄却する。

訴訟費用は第一、二審(第一審における手形訴訟により生じた訴訟費用を含む)を通じ、これを十分しその九を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

控訴代理人は陳述したと看做された控訴状により「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し金五四〇、六二二円及びこれに対する昭和四〇年六月三〇日(右控訴状の控訴の趣旨中に昭和四〇年六月三日とあるのは、同控訴の理由中に事実上法律上の主張は原判決事実摘示と同一であると記載している点に徴し上記の誤記と認める)から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決並びに仮執行宣言を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は、被控訴代理人において「乙第二号証(控訴人の被控訴人に対する請求書)記載の残債務金五二五、〇八九円中、本件(一)ないし(四)の手形金合計四九〇、六二二円について、被控訴人主張の分割払いの契約が成立したのである」と陳述したほか、原判決事実摘示と同一(但し、原判決二枚目表一〇行目の「原告が自己宛振出し」を「原告(控訴人)が支払人を被告(被控訴人)として自己指図にて振出し」と訂正する)であるからここにこれを引用する。

理由

控訴人が原判決添付目録記載の為替手形(以下本件手形という)五通(額面金額合計五四〇、六二二円)につき支払人を被控訴人とした上自己指図にて振出し、被控訴人をしてその引受けをさせ、げんにその所持人であること、及び控訴人が右各手形の支払期日に支払場所に各手形を呈示してその支払いを求めたがいずれもこれを拒絶されたことは当事者間に争いがない。

被控訴人は抗弁として、昭和四〇年五月一五日控訴人代理人福井進二郎と被控訴人との間で、被控訴人がかねて控訴人に負担していた債務金合計五二五、〇八九円(乙第二号証参照)のうち本件(一)ないし(四)の手形金債務合計四九〇、六二二円について昭和四〇年六月三〇日をはじめとして爾後毎月三〇日に金五〇、〇〇〇円あて分割弁済する旨の契約が成立したので、右(一)ないし(四)の手形は当然被控訴人に返還されるべきものであり、本件(五)の手形は右契約に基く第一回分の支払として引受けたものである、と主張するので検討する。被控訴人の右主張は要するに「本件(一)ないし(四)の手形金債務は前記分割弁済契約の成立によって消滅し(一種の更改契約の主張と目される)、右四通の手形はいずれもいわゆる手残り手形であるからその支払義務はない」というにあるものと解される。

そこで右主張について按ずるに、<省略>本件手形の中(一)ないし(四)の四通は昭和四〇年三月二五日現在における当事者間の洋服地等取引上の売掛残代金債務金五二五、〇八九円のうちの一部の支払方法としてかねて被控訴人が引受けたものであるが、右残代金債務五二五、〇八九円については被控訴人主張の頃あらたに控訴会社従業員(代理人)福井進二郎と被控訴人との間で昭和四〇年六月三〇日以降同四一年三月三〇日まで毎月三〇日(但し、二月は二八日)金五万円宛(但し、昭和四〇年一一月三〇日には六〇、〇〇〇円、同年一二月三〇日には六五、〇八九円)分割して支払う旨の約定がなされ、その支払方法として各その分割金を額面金額とする為替手形一〇通が新たに被控訴人によって引受けられたこと、及び本件(五)の手形は右契約に基く第一回分割金の支払方法としてその頃被控訴人が引受けた為替手形のうちの一通であることは認めることができるけれども、

本件(一)ないし(四)の手形金額と右一〇通の手形金額とはその各通の金額はもとより合計額においても異り後者が前者の書替手形として引受けられたと速断することは無理であるし、前記のように代金債務の支払確保のために引受けられた既存の(一)ないし(四)の手形が基本債務につき分割契約が成立しその分割金支払確保のために新たに分割金額を額面とする手形が引受けられた一事によってその目的を失って引受人の責任がなくなるとは言えないし、<省略>却って被控訴人としてはもしその主張の如き契約であればそのさい右手形四通の返還を求むべきにもかかわらず前記の如く右四通の手形は控訴人の手中にあるのに何ら積極的にそのような請求をした形跡が認められない。してみると、右四通の手形は右分割弁済が約定通り履行された場合は不用に帰するが、それまでは(本件では遂に分割金は一回も支払われずに終ったことは被控訴本人の原審での供述により明白である)依然として前記残代金支払確保のために控訴人の手中に留保されたものと推認するのが相当であり、右四通の手形は被控訴人主張のような被控訴人に返還されるべき手残り手形と言うことは出来ない。してみると、本件(一)ないし(四)の手形金請求を争う被控訴人の前記抗弁は理由がない。

ところで、被控訴人は(五)の手形については特に具体的な抗弁主張をしておらないのみか前記(一)ないし(四)の手形抗弁に関連して一見その支払義務を自認したかの如くであり、それ故本件(五)の手形金請求部分に関する抗弁は何ら無きものとしてこれを全部認容すべきものと考えられる。しかしながら、元来被控訴人は本訴抗弁として専ら(一)ないし(四)の手形が手残り手形である旨主張し、その結果(五)の手形が書替手形である旨主張するに至ったものであり、いわば被控訴人は右抗弁を理由あらしめるため派生的附随的に(五)の手形引受の経緯を主張したに過ぎず、必らずしもこれにより第一義的に(五)の手形金の支払義務の存在を自白した趣旨ではないと解される上、被控訴人は前記抗弁に関連して既に本件手形五通引受の原因関係たる洋服地等売掛残代金債務の存在とその金額が金五二五、〇八九円であることにつき主張立証を逐げており、これら被控訴人の弁論の全趣旨によれば被控訴人としては本訴抗弁においていずれにしても全体として右原因債務額を超過する手形金請求についてはその支払義務なき趣旨も含めて抗争していると解するのがいわゆる訴訟行為(主張)の解釈上相当である。そうすると、本件(五)の手形金五万円については前記売掛残代金五二五、〇八九円と(一)ないし(四)の手形の確保する金四九〇、六二二円との差額金三四、四六七円を超過する金一五、五三三円は右(一)ないし(四)の手形の確保する債務と同一債務を二重に確保することになるからこの部分の請求は結局二重請求となり、右超過分に関する控訴人の請求は失当である。(なお、控訴人の本件手形五通の請求次第を叙上の事実関係殊にその原因債権額に照らすと、控訴人は本訴において右原因債権たる売掛残代金債権実現のため、まず既存の(一)ないし(四)の手形金の支払を求め、足らざる分をのちに新らたに引受けられた一〇通の手形金の一部、即ち(五)の手形によって支払いを求める訴旨であることを推認することが出来る。しかして、本件事実関係によれば控訴人としては原因債権額を超過しない限り、既存の手形債権を行使すべきか新らたな手形債権を行使すべきかは専ら手形所持人たる控訴人自身の意思に委ねられていると考えられるから、本訴における控訴人の請求次第はもとより妥当である。)

そうすると、控訴人の被控訴人に対する本件為替手形金請求中、本件(一)ないし(四)の手形金及び(五)の手形金中三四、四六七円計五二五、〇八九円及びこれに対するいずれも満期日以後である昭和四〇年六月三〇日から支払いずみまで手形法所定の年六分の利息金の支払いを求める部分は理由があるが、本件(五)の手形金の右金額を超過する部分およびこれに対する右同旨の附帯利息金を求める部分は失当であると言わなければならない。<以下省略>。

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