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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)241号 判決 1968年5月24日

控訴人 富士輸送機工業株式会社

右代表者代表取締役 内山正太郎

右訴訟代理人弁護士 小倉武雄

同 密門光昭

同 青野正勝

被控訴人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 小林保夫

同 東中光雄

同 石川元也

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。同部分についての被控訴人の仮処分申請を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は、次のものを付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

(控訴人の主張)

1、控訴人が昭和三五年七月労務課を新設したのは、従来総務課で行っていた労務関係事務を整理、統一するためであって、これを組合活動の抑制と結びつけるのは不当な偏見である。

2、昭和三五年一一月、一一名の係長が本社労組を脱退したのは、右係長らが本社労組の方針であった同年々末賞与の一律支給に不満をもっていたためであり、又同三七年二月の五〇名の脱退も同三六年の本社労組の過激ストと執行部に対する非難が原因となったもので、控訴人側が干渉した結果であるというのは当らない。

3、就業時間中の組合活動についても従前より一方的な届出で許容していたのではなく、控訴人と本社労組との間で事前承認制の合意が成立していたにも拘らず、本社労組がその合意を破棄し、一方的な届出で離職を強行してきたもので、控訴人側ではその都度その不当さに厳重な警告を発し反省を促し続けてきたもので、厳しく制約するようになったものではない。

4、その他の各種事実も控訴人側が業務の遂行に当り企業の繁栄を企図して行ったもので、本社労組の活動とは無関係であり、組合活動の抑制措置と見做さるべきものではない。

5、被控訴人が本社労組青年婦人部の副部長であるとか、全国一般労働組合大阪地連青年婦人部常任委員であるとか、その他諸種の組合活動を行っていたのを控訴人側が知ったのは、本件転勤命令発令後の組合との団体交渉や本件保全訴訟が起きてから後のことであって、組合活動の報復として本件転勤命令を発したのではない。控訴人は、控訴人会社の京都サービスステーションの的場敏子の補充として、かつ同所の企業拡張に伴う人員補充の一環として本件転勤命令を発したものであり、企業の合理的な維持増強という目的に従ったもので、被控訴人の組合活動を理由とするものではないから、不当労働行為というのは当らない。

(原判決の訂正)(証拠)≪省略≫

理由

本件当事者間に争いのない事実及び原判決による原審の事実認定のうちの第二の一、二、四、六の前半までの部分は、当裁判所の事実認定と一致するので、原判決一六枚目表の冒頭から二〇枚目表一行目まで、同二〇枚目表九行目初から二一枚目裏一一行目終まで、同二二枚目表九行目初から二二枚目表九行目の「……いる事実」まで、を引用し、これに次の認定と判断を加える。

≪証拠省略≫によれば控訴人(以下会社という)方の京都サービスステーションは、もと営業所であったが、昭和三八年六月頃営業所よりサービスステーションに格下げとなり、主としてエレベーター、エスカレーター等の修理業務を行っていたが、その後新規註文も増える傾向にあったので、翌三九年一〇月一日再びこれを営業所に昇格させ営業の拡大を図り、将来建設される予定の京都毎日会館内に一室を借り受けて移る話を接渉中であったこと、但し会社が被控訴人に本件転勤命令を発した当時はいまだサービスステーションであり、その所員は、主任の白木正以下五名でその中の一人が女性の的場敏子であったこと、この的場は、短大出身の女子事務員で客先よりの受註に伴う書類の作成、代金請求書の作成、電話の応待、経理、外出の多い男子職員が出払った後の連絡受付等一般的な業務を担当していたが、昭和三九年三月末より産前産後の休暇に入ったこと、このため京都サービスステーションではかねてより本社に対しその補充を要請していたこと、一方被控訴人は、昭和二九年三月一五日中学を卒業して事務、雑用要員として会社に入り、傍ら夜間の定時制高校に通い、ここを卒業した後タイプ練習所に通ってタイプ技術を習得したこと、被控訴人は、このタイプが出来るようになり会社に退社を申出たところ、今後はタイピストとして勤務してくれということで月額一、〇〇〇円の増給があったので、爾来主としてタイピストとして勤務を続けてきたこと、しかし、タイピストの仕事が主であるとはいえ普通の事務員がするような事務、雑用も必要に応じて担当してきたこと、又在社歴は既に一〇年を越え控訴会社の各種の事務に豊かな経験をもっていること、被控訴人は、その間又関西大学文学部の夜間部を卒業し、当裁判所の引用する原判決の認定するように労働者の権利を強調する組合員であり、積極的な推進者でもあったこと、会社総務部には被控訴人のほか津田好栄がタイピストとして勤務していたこと、被控訴人のような女子職員を大阪から京都へ転勤さすような事例は従前その例がなかったことの各事実が疎明される。

会社は、かかる状況下において被控訴人に京都サービスステーションへの転勤を命令したわけであり、その直接の動機原因は、被控訴人を的場の後任として勤務させるためにあったものと認められる。而して、会社は、その企業を維持発展さすため人事権をもち必要な個所に必要な人員を配置する権限をもつものであり、特に原審証人沢田哲夫の証言にあるように、わが国のエレベーター業界は、日立、三菱等の大手三社が市場の大部分を占有し、控訴会社のような中小企業は、その残りの市場を争う運命にあるところから特に生産性の向上に努力せざるを得ず、社員一人々々の一身上の都合ばかり考えておれない実情にあることが推察されるし、会社が被控訴人を京都サービスステーションに転勤さすことにより被控訴人の京都での仕事がタイピストとしてのそれよりそれ以外の事務が多くなることが当然予想されるとしても給料その他の待遇に差があるわけではないから、一概に許せないということはできない。又過去に例がないからといって女子のみが本人の都合の悪いところへは転勤しなくてよいということにはならないと考える。しかし、本件において会社が既に人妻である被控訴人を通勤距離が遠くなって通勤に多くの時間がかかり、従前の通勤よりは多くの疲労や不便を伴う京都へ転勤させ不利益を与える転勤命令を発した重要な原因が奈辺にあるかをよく考えてみるに、表面上の直接の動機原因が的場の後任にするという会社の必要に基づくことは前に認定したとおりであるが、その真意は、当裁判所が引用する原判決が認定しているように、被控訴人が本社労組や総評傘下の全国一般大阪地連の役員、特に青年婦人部の幹部として積極的に活躍し、独身の男子青年のみにさせていた宿直制度の廃止要求を貫徹させたり、会社が女子職員更衣室のガラスを半透明ガラスに替えたりしたことに抗議し、又その抗議ビラを配布したこと、会社が女子従業員に生理休暇をとるには医師の診断書を以て証明せよと要求したことに反対する集会を開いて診断書の提出拒否を決議してその旨のビラを作って配布したこと、被控訴人の夫である甲野一郎も組合の中央執行委員として組合運動の積極的な実践家であること等の事情が使用者たる会社の利害と一致しないため、会社は、京都サービスステーションが的場の後任を必要としたこの時期を利用し、被控訴人を本社から遠ざけるため、同人に不利益となるこの転勤命令を発したものと認めるのを相当とする。このことはこの転勤命令が被控訴人らが行った診断書提出拒否の反対決議やビラ配布の直後間もなく、何らの予告なく突然発せられたことによっても裏付け得るものと判断する。

控訴人は、被控訴人が組合の重要な地位にあること等知らずに本件転勤命令を発したものであるから、不当労働行為になり得ないと主張しているが、会社が会社在職一〇年を超す被控訴人が本件転勤命令の発せられる数年前より本社労組の幹部として活動していたことを知らなかったと認めることができないのみならず、前にも説明したように本件転勤命令は、被控訴人が生理休暇には医師の診断書をつけよという会社の要求を拒否する集会をリードし、その拒否決議を行ってビラを作成して配布した直後に突然発せられたこと、又原審における録音テープの検証によっても疎明されるように、控訴人の代表者は、被控訴人が夫の甲野一郎と時を同じくして休暇をとったり遅刻したりしたことを指摘し、その行動の不当性を強調し、被控訴人の勤務状態が著しく悪いと認めている位であるから、会社が組合員として被控訴人の行動従ってその活動ぶり、地位を知らなかったと認めることはできないので、控訴人のこの主張は採用できない。従って、控訴人が発した本件転勤命令は、控訴人が被控訴人のなした正当な組合活動を排除するために行った不当労働行為として無効になるといわざるを得ない。

(休職命令について)

≪証拠省略≫によれば、被控訴人は、本件転勤命令を拒否して京都サービスステーションに通勤せず、昭和三五年五月三〇日、控訴人に対し姙娠二ヶ月、子宮位置異常、姙娠悪阻なる診断書とともに休暇願を提出したこと、これは当時被控訴人の転勤問題について組合と会社側が接衝中で、これとは切りはなして出してくれと会社側よりいわれて提出したに過ぎないこと、被控訴人は、この休暇願の期限が切れた同年八月一日以降も転勤問題の解決がつかず出勤しなかったこと、会社は、これを理由に同年八月三一日付で就業規則四六条一項一号に該当するとし、期限を定めず被控訴人を休職処分とし、翌日より賃金を支給していないことの各事実が疎明される。控訴人は、被控訴人が休暇願を出したことを以て転勤命令を受諾したのであると述べているが、被控訴人は、この転勤命令を終始争っているのであり、控訴人が被控訴人を休職としたのはこの休暇願の期限経過後も出勤しないのを理由にしたのではなく、転勤命令を争って全然出勤しないことをその理由としたものとみるのが相当であり、前記のようにこの転勤命令自体が無効である以上、これを原因とする休職命令も無効といわねばならない。

(被控訴人の賃金等について)

被控訴人の当然受けるべき収入、それが支払われないことによる損害についての認定判断は、原判決による原審の認定、判断は当裁判所のそれと一致するので、その部分に関する原判決二六枚目表六行目以下終りまでの説明をここに引用する。≪訂正省略≫

されば、原審が被控訴人の本件仮処分申請を容れた原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は、理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 宮本勝美 菊地博)

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