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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)465号 判決 1967年1月26日

控訴人 美浪有限会社

右代表者代表取締役 志治ダイ

右訴訟代理人弁護士 前田常好

被控訴人 西村日吉

右訴訟代理人弁護士 峰島徳太郎

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人の請求を棄却する。

被控訴人は控訴人に対し、別紙第二目録記載の建物を収去して別紙第一目録記載の各土地を明け渡し、かつ、昭和三四年六月一〇日から昭和三五年三月三一日までは一ヶ月金二、三二五円、同年四月一日から昭和三六年三月三一日までは一ヶ月金二、六五四円、同年四月一日から昭和三七年三月三一日までは一ヶ月金三、三三九円、同年四月一日から昭和三八年三月三一日までは一ヶ月金三、六六九円、同年四月一日から昭和三九年三月三一日までは一ヶ月金三、九九八円、同年四月一日から右各土地明け渡しずみに至るまでは一ヶ月金四、二七一円の各割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は第三項の金員の支払を命ずる部分にかぎり金一〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し、別紙第二目録記載の建物を収去して別紙第一目録記載の各土地を明け渡し、かつ、昭和三四年六月一〇日から右各土地明け渡しずみに至るまで一ヶ月金五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決と金員の請求部分について仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、被控訴人の本訴各請求について

(一)  当裁判所は、被控訴人が訴外木村留三郎より別紙第一目録記載の各土地を承継取得したことを理由として右各土地に対する所有権移転登記抹消登記手続を求める請求を失当と判断するものであって、その認定及び理由は原判決理由三(1)ないし(6)と同一であるから、ここに引用する(但し、同理由三(4)二枚表六行目冒頭に「全証拠調の結果によっても……」とある前に「売主である訴外中西英子及び同桑名輝子と買主である訴外浅田克已との間の別紙第一目録記載の各土地に対する第二の売買が公序良俗に反して無効であるといいうるためには、第二の買主である訴外浅田克已が売主を訴外木村留三郎とし、買主を被控訴人とする右各土地に対する第一の売買を単に主観的に知っていたというだけではたらず、さらに積極的な背信的意図ないし行為がなければならないところ(たとえば昭和三六年四月二七日最高裁第一小法廷判決参照)、そもそも」を加える)。

(二)  次に被控訴人は、被控訴人が別紙第一目録記載の各土地の所有権を時効取得したことを理由として右各土地に対する取得者を被控訴人とする所有権移転登記手続を求めるので、右請求について判断する。

同一不動産についていわゆる二重売買がなされ、右不動産所有権を取得するとともにその引渡しをも受けてこれを永年占有する第一の買主が所有権移転登記を経由しないうち、第二の買主が所有権移転登記を経由した場合における第一の買主の取得時効の起算点は、自己の占有権取得のときではなく、第二の買主の所有権取得登記のときと解するのが、相当である。けだし、右第二の買主は第二の買主が所有権移転登記を経由したときから所有権取得を第一の買主に対抗することができ、第一の買主はそのときから実質的に所有権を喪失するのであるから、第一の買主も第二の買主も、ともに所有権移転登記を経由しない間は、不動産を占有する第一の買主は自己の物を占有するものであって、取得時効の問題を生ずる余地がなく、したがって、不動産を占有する第一の買主が時効取得による所有権を主張する場合の時効の起算点は、第二の買主が所有権移転登記をなした時と解すべきであるからである(なお、昭和三六年七月二〇日最高裁一小判決参照)。これを本件についてみると、別紙第一目録記載の各土地は、被控訴人が訴外木村留三郎から昭和二七年一月二六日買い受け、いまだ所有権移転登記を経由しないうち、訴外浅田克已が昭和三三年一二月一七日訴外木村留三郎の相続人である訴外中西英子、同桑名輝子の両名から買い受け、同年一二月二七日、これが所有権移転登記を経由し、ついで訴外浅田克已が昭和三四年六月頃訴外中西浅右衛門に譲渡し、さらに控訴人が昭和三四年六月九日訴外中西浅右衛門から買い受け、同年六月一〇日、中間登記を省略して、訴外浅田克已から控訴人に直接所有権移転登記を経由したものであること前記(一)において認定したとおりである。したがって被控訴人は、訴外浅田克已が所有権移転登記をなした昭和三三年一二月二七日から民法一六二条一項、二項の定める時効期間を経過したときに別紙第一目録記載の各土地の所有権を時効取得するものというべきである。

してみると、別紙第一目録記載の各土地について、時効の起算点を被控訴人が占有を開始した昭和二七年二月六日とする被控訴人の主張は理由がなく、被控訴人の別紙第一目録記載の各土地に対する占有は控訴人が所有権移転登記をした昭和三四年六月一〇日からはもちろんのこと訴外浅田克已が所有権移転登記をした昭和三三年一二月二七日からでも民法一六二条一項、二項の定める時効期間を経過していないこと明らかであるから、被控訴人は別紙第一目録記載の各土地を時効取得するいわれがない。したがって、被控訴人が別紙第一目録記載の各土地の所有権を時効取得したことを理由とする右各請求も失当として棄却すべきである。

(三)  被控訴人は、別紙第一目録記載の各土地について、前記(一)の承継取得を理由として、さらに前記(二)の時効取得を理由として、所有権確認を請求するが、右請求も前記(一)(二)と同一の理由により失当として棄却すべきである。

二、控訴人の反訴請求について

別紙第二目録記載の建物の敷地が別紙第一目録記載の各土地であること、訴外木村留三郎が大蔵省から、昭和二五年一月二七日、別紙第二目録記載の建物の売払を受け、ついで同年八月二九日、別紙第一目録記載の各土地の売払を受け、それぞれその所有権を取得したこと、被控訴人が、昭和二七年一月二六日訴外木村留三郎から別紙第一目録記載の各土地及び別紙第二目録記載の建物を買い受け、同年二月六日以降右建物を所有して右各土地を占有していること、訴外浅田克已が別紙第一目録記載の各土地を昭和三三年一二月一七日訴外木村留三郎の相続人である訴外中西英子、同桑名輝子の両名から買い受け、同年一二月二七日、これが所有権移転登記を経由し、ついで訴外浅田克已がこれを昭和三四年六月頃訴外中西浅右衛門に譲渡し、さらに控訴人が昭和三四年六月九日訴外中西浅右衛門から右各土地を買い受け、同年六月一〇日、中間登記を省略して、訴外浅田克已から控訴人に直接所有権移転登記を経由したこと、以上の事実は前記(一)において認定したとおりである。

したがって、別紙第一目録記載の各土地は、その所有者であった訴外木村留三郎から被控訴人に譲渡されたが、その登記のないうちに右訴外人の相続人である訴外中西英子、同桑名輝子の両名から訴外浅田克已に二重に譲渡され、その所有権移転登記がなされたのであるから、その時から被控訴人は右各土地に対する所有権を喪失し、訴外浅田克已は右各土地について完全な所有権を取得し、ついで右訴外人から訴外中西浅右衛門を経て譲渡を受けた控訴人も右各土地について完全な所有権を取得したものというべく、被控訴人は控訴人に対して昭和三四年六月一〇日以降別紙第二目録記載の建物を収去して別紙第一目録記載の各土地を明け渡すべき義務あるものというべきである。

被控訴人は、訴外木村留三郎が被控訴人に対し別紙第二目録記載の建物を譲渡した際、右建物を建物としての用法に従い使用させる目的で譲渡したのであるから、右建物のために地上権が設定されたものと認めるべきであるとか、訴外木村留三郎が物納物件であった別紙第一目録記載の各土地及び別紙第二目録記載の建物を大蔵省より売払を受けるに際し、被控訴人が木村留三郎のために右代金を支払い、登記簿上別紙第二目録記載の建物は被控訴人に別紙第一目録記載の各土地は訴外木村留三郎に帰属したのであるから、右はあたかも競売によって土地は右訴外人に地上建物は被控訴人に競落されたのと同様であって被控訴人は民法三八八条により法定地上権を取得したとか主張する。しかしながら、別紙第一目録記載の各土地及び別紙第二目録記載の建物は、訴外木村留三郎が大蔵省より売払を受け、これを被控訴人に譲渡したのであるが、別紙第一目録記載の各土地について、被控訴人のために所有権移転登記がなされないうち、訴外浅田克已が右各土地を訴外木村留三郎の相続人である訴外中西英子、同桑名輝子の両名から譲渡を受け、これが所有権移転登記を経由した結果、被控訴人の右各土地に対する所有権が消滅した関係である。したがって訴外木村留三郎が被控訴人に対し別紙第二目録記載の建物を譲渡するに際し、右建物のために別紙第一目録記載の各土地に地上権を設定したものとは到底認めがたい。また、あたかも競売によって別紙第一目録記載の各土地は訴外木村留三郎に、別紙第二目録記載の建物は被控訴人に競落されたのと同視して、被控訴人が民法三八八条による法定地上権を取得したものとも認めがたい。

被控訴人は、また、控訴人は別紙第一目録記載の各土地の上に被控訴人所有の別紙第二目録記載の建物が存在することを知りながら、右各土地の所有権を取得したのであるから、被控訴人に対し右建物を収去して右各土地の明け渡しを求めることは権利の濫用として許されないとも主張する。しかしながら、控訴人が別紙第一目録記載の各土地の上に被控訴人所有の別紙第二目録記載の建物が存在することを知って右各土地の所有権を取得したとしても、そのことだけではいまだ控訴人の所有権の行使が権利の濫用にわたるものとは認めがたく、その他本件全証拠によっても、控訴人が不当な利益追及のため所有権をその手段に供するものとは認めがたいから、被控訴人の権利の濫用の主張も採用できない。

そこで控訴人の損害金の請求について検討する。被控訴人は控訴人に対して昭和三四年六月一〇日以降別紙第二目録記載の建物を収去して別紙第一目録記載の各土地を明け渡すべき義務があるのにかかわらず、被控訴人はその後も依然として右建物を所有して右各土地を占有しているものであって、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は昭和三四年二月頃別紙第一目録記載の各土地について訴外浅田克已のために所有権移転登記がなされた事実を知り、ついで同年六月一〇日控訴人のために所有権移転登記がなされた事実を知り、その頃より控訴人から右各土地の買取り方と被控訴人がなした仮差押の登記の抹消の交渉を受けたことが認められるから、被控訴人はすくなくとも過失により昭和三四年六月一〇日以降不法に別紙第一目録記載の各土地を占拠して、これにより控訴人の右各土地に対する使用収益を妨げ、控訴人に対しその相当賃料と同額の損害を蒙らしめつつあるということができる。そして、右各土地の相当賃料は≪証拠省略≫によれば昭和三四年六月一〇日より昭和三五年三月三一日までは月額一坪当り金四四円一四銭、同年四月一日より昭和三六年三月三一日までは月額一坪当り金五〇円三九銭、同年四月一日より昭和三七年三月三一日までは月額一坪当り六三円四〇銭、同年四月一日より昭和三八年三月三一日までは月額一坪当り金六九円六五銭、同年四月一日より昭和三九年三月三一日までは月額一坪当り金七五円九〇銭、同年四月一日より同年六月現在まで月額一坪当り金八一円〇八銭であることが認められるから、被控訴人に対し、昭和三四年六月一〇日以降別紙第一目録記載の各土地の明け渡しずみに至るまで、右相当賃料と同一額の割合による損害金の支払をなすべき義務がある(昭和三九年六月以降も特別の事情のないかぎり月額一坪当り金八一円〇八銭と同一額であると認める)。

よって、控訴人の反訴請求中、別紙第二目録記載の建物を収去して別紙第一目録記載の各土地の明け渡しを求め、かつ、昭和三四年六月一〇日から昭和三五年三月三一日までは一ヶ月金二、三二五円、同年四月一日から昭和三六年三月三一日までは一ヶ月金二、六五四円、同年四月一日から昭和三七年三月三一日までは一ヶ月金三、三三九円、同年四月一日から昭和三八年三月三一日までは一ヶ月金三、六六九円、同年四月一日から昭和三九年三月三一日までは一ヶ月金三、九九八円、同年四月一日から右各土地明け渡しずみに至るまでは一ヶ月金四、二七一円の各割合により損害金(但しいずれも円未満は切捨)の支払を求める部分は正当であるから認容し、その余は失当として棄却すべきである。

三、むすび

以上のとおりであるから、右と趣旨を異にする原判決を主文記載のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九六条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 平峯隆 判事 中島一郎 阪井昱朗)

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