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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)966号 判決 1968年10月21日

控訴人(付帯被控訴人) 康英春

右訴訟代理人弁護士 井関和彦

右訴訟復代理人弁護士 三野秀富

同 中田明男

被控訴人(付帯控訴人) 増田久子

右訴訟代理人弁護士 倉田勝道

主文

一、原判決中控訴人敗訴の部分をつぎのとおり変更する。

(一)  被控訴人・控訴人間の別紙目録記載の土地に対する賃貸借契約の賃料は、昭和三八年七月一日以降昭和四二年六月一四日までは一か月金二、二八〇円、昭和四二年六月一五日以降は一か月金六、〇〇〇円であることを確認する。

(二)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二、本件付帯控訴を棄却する。

三、訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人のその余を被控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、本件付帯控訴を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、

被控訴代理人は、

(一)  本件控訴を棄却する。

付帯控訴にもとづき請求を拡張して全部につき、

(二)  原判決をつぎのとおり変更する。

(三)  被控訴人・控訴人間の別紙目録記載の土地に対する賃貸借契約の賃料は、昭和三八年七月一日以降昭和四二年六月一四日までは一か月金九、四六九円、昭和四二年六月一五日以降は一か月金一三、〇〇〇円であることを確認する。

(四)  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

との判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、

(一)  被控訴代理人において、「昭和三八年六月に賃料増額請求をした後も、地価の高騰・経済事情の変動等の事情の変更があったため、右増額請求にかかる賃料(月額。以下同じ。)九、四六九円がなお不相当となったので、被控訴人は、控訴人に対し、昭和四二年六月九日付翌日到達の書面で同月一五日以降本件土地の賃料を一三、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をした。よって、請求を拡張して右再度の増額にかかる賃料額の確認をも求める。」と陳述し、

(二)  控訴代理人において、「被控訴人の請求の拡張は、これを許容するときはその主張の事情の変更につきさらに審理を尽くさなければならなくなり、終結まぎわになっている本件訴訟手続を著しく遅延させることが明らかであるから、右訴変更を許すべきでない。つぎに、被控訴人は、原審以来、組谷貞吉に賃貸していた当時の賃料一、五〇〇円がそのまま六年後の控訴人との間の賃貸借にすえ置かれた旨主張しこれを賃料増額の理由とするけれども、控訴人が賃借したのは、組谷の賃借していた約二〇〇坪(六六一・一五平方メートル)の三分の一程度にすぎないから、額は同じでも昭和三六年一〇月の一、五〇〇円の賃料は組谷とは関係なく決められたものである。」と陳述し(た。)

(三)  証拠≪省略≫ほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一、まず、被控訴人の請求の拡張の許否につき判断するに、右請求の拡張は付帯控訴状によってされたのであるが、その付帯控訴状が当庁に提出された当時はすでに本件につき控訴人申請の証人尋問の取調べを終っていたこと、しかし、被控訴人申請の鑑定については採用決定があったのみでまだ取調べにはいっていなかったことが、本件記録上明らかである。そして、右請求の拡張は、被控訴人の主張する再度の賃料増額請求を理由とするものであるところ、その当否を審理するにあたっては、すでに採用決定のされている鑑定の鑑定事項を追加することによって、訴訟手続の著しい遅滞を避けることができるのであるから、かような段階でした被控訴人の請求の拡張は、これを許してしかるべきである。

二、≪証拠省略≫によれば、被控訴人と控訴人との間で昭和三六年一〇月六日被控訴人が本件土地を賃料一、五〇〇円で控訴人に賃貸する旨の契約が成立したことを認めることができる。原審証人金光来および当審証人金光補は、控訴人はそれより前の昭和三一年に被控訴人の管理人組谷貞吉から賃借した旨証言しているけれども、組谷の管理人としての権限ことに本件土地を賃貸する権限があったという点については、これを認めるべき的確な証拠はないから、右各証言によっては右認定(とくに賃貸借成立時期についての認定)を動かすことはできないし、ほかには右認定を妨げるべき証拠はない。

つぎに、被控訴人が控訴人に対し、昭和三八年六月中に右一、五〇〇円の賃料を同年七月一日からは九、四六九円に増額する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく、ついで昭和四二年六月一〇日到達の書面で同月一五日からはこれをさらに一三、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をしたとの被控訴人主張事実は、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきである。

そこで、はじめの昭和三八年七月一日からの増額の請求について考えるに、当審鑑定人都築保三提出の鑑定書中の財団法人日本不動産研究所調べ「地域別六大都市市街地価格推移指数表」によれば、昭和三六年九月から昭和三八年九月までの間に六大都市の住宅地の土地価格が半年ごとに八パーセントないし一〇パーセントも高騰していることが認められるから、当初の賃料額をそのまま継続することは相当でなくなったものというべきであり、被控訴人の右増額請求の結果、相当賃料額まで増額されたものとしなければならない。ところで、原審における鑑定人小野三郎の鑑定の結果によると、いわゆる底地価格に利潤率を乗じて算出した本件土地の賃料額は本件賃貸借が成立した時点でも四、六三三円であることが認められ、これに比べると当初の約定賃料一、五〇〇円はかなり低すぎるわけであり、当審における被控訴本人の供述によると、右一、五〇〇円というのは世間の相場もわからないまま取り決めたことが認められる。しかしながら、≪証拠省略≫によれば、控訴人は賃貸借成立に際し権利金として二五万円を被控訴人に交付していることが認められ、この二五万円という額は約定賃料一、五〇〇円(年額一八、〇〇〇円)に比しはなはだしく高額であり、このことと賃貸借締結後二年も経過しないのにかかわらず賃料増額を請求していることとに徴すると、当初の賃料額が低すぎるという前認定の事情を考慮に入れても、なお、賃料増額の範囲は、当初の額に地価上昇率を乗じた限度にとどめるのが相当である。ほかには、この判断を動かすべき事情ことに被控訴人が主張するような六年前に当時の賃借人組谷との間で改訂した額をそのまま本件賃貸借にすえ置いたという事情を認めるべき証拠はない。そこで、右地価上昇率を前記「地域別六大都市市街地価格推移指数表」によって求めると、賃貸借成立の昭和三六年一〇月に最も近い同年九月の「五五七」と増額請求にかかる昭和三八年七月に最も近い同年九月の「八四六」とを比較して、一・五二倍の上昇ということになる。この上昇率を当初の一、五〇〇円に乗じた二、二八〇円をもって右増額請求による相当賃料額とすべきである。

つぎに、昭和四二年六月一五日からの増額の請求につき考える。この時点では、賃貸借成立後すでに六年近く経過しているのであるから、前の増額請求の場合のように単に当初の賃料額に地価上昇率を乗じたのでは、前に認定した当初は賃料が低きにすぎたという不合理な事情がいつまでも被控訴人につきまとうこととなって妥当性を欠く。したがって、いわゆる底地価格に対する利回りを考えた算出方法によるのが相当である。もっとも、その額が地価上昇率により算出した賃料に比し高額にすぎるときは、控訴人に酷な結果となりことにともかくも当初は相互の契約によって賃料額を取り決めたことから考えると、かえって公平を失することにもなる。いま右の二つの方法で算定してみると、まず地価上昇率によるときは、前示「地域別六大都市市街地価格推移指数表」中昭和四二年六月一五日に最も近い同年三月の指数「一一四六」は賃貸借当初の指数「五五七」の二・〇五倍にあたり、これを当初の賃料額一、五〇〇円に乗ずると三、〇七五円となる。一方、利回り計算によるほうは、賃貸借継続中であることを前提とした昭和四二年六月一五日現在の賃料額は、当審鑑定人田中淑夫の鑑定の結果によると、七、六〇〇円であることが認められる。この額は、地価上昇率により算定した額の二倍以上(前の増額にかかる賃料額の三倍以上)にもなるので、前に説示した控訴人のため配慮すべき事情をしんしゃくして地価上昇率による場合の二倍程度(前の増額賃料の三倍以下)にとどめ、右の時点における賃料額を六、〇〇〇円とするのが相当である。≪証拠省略≫は、本件土地の近隣の地代についてのいくつかの事例に触れているが、これら事例の賃貸借がはたして本件賃貸借と同等の条件のものであることを認めるに足りる証拠がないのみならず、右≪証拠省略≫によると、そのなかには地代家賃統制令が適用されているものもかなりあることが認められるから、これら各証拠から右賃料額についての判断を動かすほどの事情を認定することはできない。ちなみに、本件賃貸借は、昭和三六年に新築された延べ面積一二〇坪(三九六・六九平方メートル)以上の建物の敷地の賃貸借であることにつき当事者間に争いがないから、地代家賃統制令の適用を受けないことが明らかである。ほかには、右相当賃料額についての判断を動かすべき資料はない。

三、以上のとおりであるから、本件土地の賃料は昭和三八年七月一日以降一か月二、二八〇円に増額され、さらに昭和四二年六月一五日以降一か月六、〇〇〇円に増額されたものというべきである。しかるに、被控訴人・控訴人間で増額された賃料額につき争いがあるから、被控訴人の本訴各請求は、右各賃料額の確認を求める限度において理由があるけれども、その余は失当というべきである。

よって、原判決中被控訴人の請求を認容した部分は、右の限度をこえて請求を認容した点において一部不当であるから、これを変更し、原判決中被控訴人の請求を棄却した部分は相当であるから本件付帯控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条および第九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 井関照夫 判事 藪田康雄 賀集唱)

<以下省略>

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