大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和41年(ラ)288号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕仮処分決定をもつて既存の仮処分決定を取消変更することは許されないから、既存の仮処分決定の内容と抵触する内容の仮処分決定は不適法なものであること云うまでもないことであるが、このように仮りにその内容が不適法な仮処分決定であつても、既にその決定がなされた以上、他に無効原因がなければ当然無効であると云うことはできない。そして、このようにその内容が不適法な仮処分決定は仮処分異議等の方法で取消すことができ、また右異議申立に附随する申立により一時的な執行の停止若しくは執行処分の取消等がなされることもあるが、いやしくも手続上適法に成立した仮処分決定は、その内容が先行の仮処分決定のそれと抵触して不適法であつても、仮処分異議等の方法で取消されるか又は一時的執行停止若しくは執行処分の取消決定がなされる等別段の裁判がなされない限り、当然に失効したりその執行力を失つたりすることはない。本件の場合においても、前記昭和四一年一〇月一一日附の仮処分決定(以下これを第二次仮処分決定と称する。)は、その内容がこれに先行する同月七日附仮処分決定(以下これを第一次仮処分決定と称する。)のそれと抵触しているとしても、右に述べたとおり当然無効であると云うことはできないところ、相手方は原、当審において右第二次仮処分決定について他に無効、失効又は執行力喪失等の原因がある旨の主張をしていないばかりでなく、記録を精査してもこれら原因があることを見出すことができないから、右第二次仮処分決定は適法に成立しその後その執行力を維持しているものと云わねばならない。

執行方法に関する異議は、強制執行の方法又は執行に際し執行吏の遵守すべき手続に関し、これらが違法又は不当であることを理由として執行裁判所に対して申立てる異議であるから、債務名義の内容が不適法であることを理由としてこれに基づく執行に関し執行方法に関する異議の申立をすることはできない。けだし、執行裁判所は、執行の方法である裁判に関してはその具体的な執行の前後を通じて、その内容の当否について審理判断してその執行の許否、執行処分の存廃に関する裁判をすることができるけれども、債務名義に基づく執行については、債務名義が当初から不存在又は無効である場合や異議申立についての裁判又はこれに附随する裁判等でその取消又は執行力の排除等があつた場合は別であるが、そうでなくて債務名義が形式上適法に成立存続しその執行力を維持している場合には、債務名義に基づいて適法な執行を為すべき旨又は債務名義に基づかない執行その他違法不当な執行を為すべからざる旨を執行官に命ずることができるだけで、債務名義の内容である請求権の存否、当否等その実体にわたつて審理判断し、その内容の違法不当を理由としてその執行力を左右することはできないからである。

右の法理は債務名義が本案の裁判であると仮処分決定であるとによつて相違を来たさない。即ち、仮処分申請について裁判をする裁判所は、先行の仮処分決定の内容と抵触する内容の仮処分を許容する決定をしてはならないし、また既に右決定をした後においても、適法な仮処分異議の申立があれば右仮処分決定の内容の違法を理由として右仮処分を取消し又は変更する裁判をしなければならないけれども、執行方法に関する異議申立について裁判をする執行裁判所は、その仮処分決定を債務名義とする執行をしてはならない前記のような別段の事由がある場合は別であるが、仮処分決定の内容が既存の仮処分決定のそれに抵触して違法であると云う理由で右債務名義の効力又はその執行力を否定する裁判をすることはできない。本件の場合においても、かりに第二次仮処分決定の内容が第一次仮処分のそれに抵触しても、前述したとおり、それは第二次仮処分決定の内容が違法であると云うだけのことで別段の事由がなければそのために決定自体が無効にはならないし、他に右決定が失効したりその執行力を失つたりするような別段の事由も認められないから、右決定の内容の違法のみを理由として右決定に基づく仮処分執行に対し執行方法に関する異議の申立をすることはできない。

なるほど、先執行の仮処分執行に抵触する新な仮処分の執行は、右先執行の仮処分の執行を改廃するものであつて、違法な執行であるから、執行機関は同一の係争物について既存の仮処分の執行と抵触する新な仮処分の執行をすることができないのは所論のとおりである。しかしながら、先行の仮処分決定の内容と矛盾する内容の仮処分決定を先行仮処分決定の執行前に執行した場合には、後の仮処分決定が当然無効であるとき、それが仮処分異議等の方法で取消されたとき又は一時執行停止決定等によつてその執行力が停止されたときその他これに基づく執行をしてはならない特別な理由があるときを除いて、後の仮処分決定に基づく執行を違法又は不当と云うことはできない。けだし、この場合には、後の仮処分決定に基づく執行による先行仮処分執行の改廃を生ずることはないからである。本件の場合には、第二次仮処分決定に基づく昭和四一年一〇月一二日の執行がなされた当時、第一次仮処分決定に基づく執行は未だなされていなかつたことは前認定のとおりであるので、仮りに第二次仮処分決定の内容が第一次仮処分決定のそれと矛盾していても、他の別段の事由がない限り、右執行を違法又は不当と云うことはできない。(乾久治 長瀬清澄 安井章)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!