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大阪高等裁判所 昭和41年(ラ)310号 決定 1967年8月03日

抗告人

山崎健二

主文

原決定を取消す。

和歌山地方裁判所昭和三七年(ヨ)第一五九号仮差押命令申請事件の仮差押命令に基づく執行処分を取消す。

本件申立費用および抗告費用は相手方の負担とする。

理由

抗告人は主文同旨の裁判を求め、その理由として、別紙抗告の理由記載のとおり主張した。これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

仮差押執行後に債権者が強制執行(以下仮差押の執行と区別するために本執行と表示する)をすることができるようになつたときは、仮差押の執行は本執行に移行し、仮差押手続上の既存の裁判、執行および執行処分は可能な限りその請求の本執行手続に関して行なわれたものと見做され、その限りにおいてそのまま本執行手続の一部を構成することになるから、法律上本執行をすることができない場合に誤つて本執行を開始続行としたこと又は本執行の債務名義である仮執行宣言が取消されたことに原因して、本執行の申立が撤回若くは取消されたり、又は本執行の開始およびその後の執行処分が無効となつたり若くはこれを取消す裁判があつたりして本執行が失効したときは、仮差押執行の本執行への移行のみが失効したものとして仮差押手続上の裁判、執行および執行処分は当然に本執行移行前の効力を回復するけれども、そうでなくて本執行を開始し仮差押の執行を本執行に移行させたことが違法であること以外の原因による本執行の終了(例えば、請求の満足、本執行手続の完了、請求の放棄又は執行目的に対する強制執行の断念の意思をもつてする本執行の取下、執行不能、執行目的達成不能等に原因する本執行の終了)は、本執行仮差押の執行共通の終了原因によるものであるから、本執行開始前の仮差押の執行又は執行処分で本執行に移行して本執行の一部になつたものは、当然に本執行とその存続の運命を共にすべきものであつて、本執行の失効後に仮差押の執行としての効力を回復する道理はない。

記録によれば、本件の場合には、執行裁判所は本件執行目的不動産の価額をもつては、右不動産の換価代金につき本件執行債権よりも優先弁済を受けることができる右不動産上のすべての負担および手続費用を弁済して剰余がある見込みがないと認めたので、本件債権者である相手方に対してその旨を通知して民訴法第六五六条第二項所定の申立の機会を与えたが、その申立がなかつたので、本件の本執行手続を取消し、本執行の申立を却下する旨の決定をなし、これによつて本件本執行手続が終了したものであることを認めることができる。そうすれば、右本件本執行手続の終了原因は、本件執行目的不動産に関する限りでは本執行にも仮差押の執行にも共通してその執行の続行を無益のものとするものであつて、仮差押の執行を本執行に移行させたことが違法であること又は結果において違法に帰したことに由来するのではないこと明白であるから、本執行終了後に仮差押の執行又は執行処分のみがその本執行への移行前の効力を回復する場合には該当しないというべきである。原決定は、この場合においても本件債権者である相手方の仮差押をする必要は解消されていないと言うけれども、本件仮差押決定は本来の意味の仮差押命令即ち仮差押目的物件の特定のない仮差押の許容と仮差押命令の執行としての裁判すなわち特定の仮差押物件に対する仮差押の許容とを兼ね、両者不可分の一体をなしその成否存否の運命を共にするものであるところ、本件執行目的不動産に関する限りではもはや仮差押を継続することは無益となり存続の必要がないものとなつたのであるから、本件仮差押決定全体として仮差押をする必要を失つたものということができるわけであつて、この点に関する原決定の見解はこれを採用することができない。

原決定が、この場合においても、その本執行開始前にあつた仮差押の執行又はその執行処分は当然に右移行前の効力を回復すべきものであると判断して、本件の仮差押命令(相手方を債権者、抗告人を債務者とする和歌山地方裁判所昭和三七年(ヨ)第一五九号仮差押命令申請事件の仮差押命令)に基づく執行処分を取消す旨の裁判を求めた抗告人の申立を却下し、右仮差押の執行処分を存続させる措置を採つたのは、法律の解釈適用を誤つた不当な裁判であるから取消しを免れない。右仮差押の執行処分は執行裁判所において職権をもつて取消すべきものであつて、その取消を求める抗告人の原審における執行方法に関する異議は正当としてこれを認容すべきものである。

よつて、民訴法第九六条第八九条を適用して主文のとおり決定する。(乾 久治 長瀬清澄 新居康志)

抗告の趣旨<省略>

抗告の理由

抗告人の異議申立理由は原決定理由摘示の通りである。けれども仮差押と強制競売事件とが一体をなすものとの表現は適切ではないが、強制競売事件の係属によつて、仮差押が消滅しその後は強制競売事件のみが係属しているに過ぎないという意味である。

原審がその点について充分な釈明をなさなかつたことは不当である。

又、原審は、仮差押の後に強制競売手続即ち本執行が開始されれば仮差押がその目的を達し将来に向つてその効力を失うことは認めているがこれは解除条件の附帯しているものであり本執行が民訴法第六五六条に基く競売手続の取消等の事由によつて失効するときには条件が成就し仮差押の効力が消滅しなかつたものとなる。

従つて、本件の場合は本執行が民訴法六五六条に基く競売手続の取消があつたのであるから仮差押の効力は消滅してはおらずその執行を取消すべきではないと暗に判示している。

けれども本執行解消の事由がなにであれ総べて本執行に転移した場合に仮差押は無条件に消滅しているものと考えるべきである。

そうでなければ債務者に対する拘束力が強大なものとなり著しく不当な結果となるからである。

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