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大阪高等裁判所 昭和41年(ラ)40号 決定 1968年10月21日

抗告人 山村静子(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を和歌山家庭裁判所に差し戻す。

理由

抗告人は、「原審判を取り消す。事件本人らを失踪者とする。」との決定を求め、その理由の要旨は、「抗告人は、事件本人らの妹であるが、事件本人らは、三〇年以上消息不明であり他の親族も文通なきことはもちろん、なんらの消息さえ聞知したこともなく、心当りを探査しても判明しないので、当然失踪宣告の審判がなされるべきであるのに、原審が抗告人の申立を却下したのは、失当である。」というにある。

よつて、記録を精査するに、つぎの事実をうかがうことができる。

(一)  事件本人深沢清(明治三五年五月一八日生)は、昭和一六年一〇月二四日、大阪区裁判所において、窃盗罪により、懲役四年に処せられ、その裁判は、同年一〇月二〇日に確定したこと(和歌山県那賀郡○○○町長作成の前科照会回答書)、出獄年月日は不明であるが、即時服役したものと推定されること、原審家庭裁判所調査官鳥谷末松作成の調査報告書によるも、右の事件本人については、前記有罪判決前である昭和一五年又は一六年ごろ、抗告人の姉であり、事件本人の妹である深沢みち子の当時の住居である大阪市○○区○○町○丁目○○○番地に事件本人が尋ねてき、二晩程同家に宿泊した後いずれかへ立ち去つたが、その後親族らにおいて、同人に会つたものがないこと。

(二)  事件本人深沢俊雄(明治四〇年三月二五日生)は、昭和一九年六月五日和歌山区裁判所において、窃盗罪により懲役一年に処せられ、その裁判は、同年六月八日確定したこと(前記照会回答書)、出獄年月日は不明であるが、即時服役したものと推定されること、同人が終戦直後(昭和二〇年から同二四年ごろまでの間と推認される)和歌山市かその付近で、申立人に面接したことがあること、昭和三〇年ごろ、深沢よね(事件本人および申立人の母)を尋ねてきたことがあるが、同女においてろくに住居、職業もきかずに追い返したとの情報があるが、その後の消息は、親族のいずれもこれを知らないこと。

(三)  事件本人両名は、いずれも、正規の住民登録届出を戦後していないこと、両名ともに前述の処罰以前に処罰歴もあり、兄弟姉妹らは、事件本人らに対しいわゆる義絶同様の態度をとり、数年ぶりに会う機会があつても、歓待するどころか、その来訪をきらう態度を露骨に示していたこと。

以上の事実が認められる。

ところで、原審は、抗告人や事件本人両名の兄弟姉妹と、事件本人らとの間において平素来訪を拒みあうような間柄であるから、互に消息不明であるといつても、失踪宣告の要件である「生死ガ分明ナラザル」ものに該当しないとして、公示催告の手続ならびにこれに基づく必要な調査を経由することなく、失踪宣告の申立を却下したのであるが、前記の諸事情が認められるかぎり、事件本人両名の「生死ガ七年間分明ナラザルトキ」に該当しないものと速断することは早計に失するものというべく、また当審における申立人審尋の結果によれば、財産管理人の選任を以て申立人の需要をみたし得ることも推測するに難くない。

よつて家事審判規則一九条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 井関照夫 判事 藪田康雄 判事 賀集唱)

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