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大阪高等裁判所 昭和41年(行コ)103号 判決 1968年7月04日

大阪市生野区東桃谷町二丁目五番地

控訴人

中島忠久

被控訴人

右代表者法務大臣

赤間文三

右指定代理人検事

川井重男

法務事務官 矢野留行

国税訟務官 坂上竜二

同 嵯峨時重

同 東照久

大蔵事務官 本野昌樹

同 西村和典

同 山田勲

大阪市生野区東桃谷町二丁目五番地

当事者参加人

中島忠見

主文

本件控訴を棄却する。

当事者参加人の訴を却下する。

控訴費用は控訴人の、参加により生じた費用は参加人の各負担とする。

事実

控訴人は適法な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものと看倣される控訴状には「被控訴人の控訴人に対する昭和二七年及び同二八年分贈与税合計一一八、一二〇円の請求権のないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める旨の記載があり、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者参加人は「原判決を取消す。被控訴人の控訴人に対する昭和二七年及び同二八年分贈与税合計一一八、一二〇円の請求権のないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文第二項同旨の判決を求めた。

控訴人及び被控訴人の事実上の主張、証拠関係は、控訴人の主張として、右陳述したと看倣される控訴状に、

一  若し登記簿に記載する如く、中島忠見が昭和二七年九月一〇日本件宅地及び母屋を買受けて控訴人に贈与したとすれば、その価格は二〇〇万円を下らず、当然買主、売主に所得税を課税しなければならないのに拘らず、之につき何等触れることなく、贈与税のみを請求することは自己矛盾も甚だしい。そのこと自体同二二年八月一日売買がなされたことを示すもので、申告の過誤は客観的に明白である。公信力がない登記により売買、贈与を認定するのは誤である。

二  本件申告は、母屋については二七年分は登記簿の坪数、二八年分は生野消防署の建築前届出増築坪数により課税価格を算出したが、本件母屋は買受当時登記簿上の坪数を一五坪一合六勺越えていたもので、生野区役所の調査により増築部分は二三坪二合一勺(内一〇坪七合四勺は共有者名義に保存登記)であることが判明し、而も増築が完成したのは昭和二九年である。従つて、右坪数からするときは課税価格も亦異つてくるところで、それは錯誤の問題ではない。仮りに錯誤の問題とするも、公文書による立証がなされているので申告の過誤は明白である。

との趣旨の記載があるほか、原判決事実摘示と同一(但し原判決三枚目表一二行目に「原告の増築により取得」とあるは「原告が贈与により取得」の、四枚目表一〇行目に「遂次」とあるは「逐次」の誤記と認められるから訂正し、五枚目表末行「乳児」の次ぎに「は」を挿入する。)であるから之を引用する。

当事者参加人は、控訴人は参加人の長男であり、現在本件不動産以外無資産、無収入であり、参加人と同居している。従つて若し控訴人が敗訴するときは参加人が贈与税を支払わなければならず、これを支払わないときは、本件家屋は競売せられ明渡を余儀なくされる不幸に遇い、参加人としては控訴人、被控訴人間の訴訟の結果につき密接な利害関係があるので、本件参加に及んだものである。参加人の主張は控訴人の主張と同一であるので、全部これを援用すると陳述した。

理由

一、当裁判所は原判決通り控訴人の請求は失当であるから棄却すべきものと認める。その理由は、以下に附加するほか原判決理由中租税関係部分の記載と同一であるから之を引用する。

(一)  昭和二七年分確定申告書の誤記について。

原審における控訴人法定代理人忠見本人尋問の結果によると、忠見は控訴人の法定代理人として生野税務署に出頭した際、係官に対し「本件建物中母屋の部分並びに宅地は、忠見が買受け昭和二二年八月一日に控訴人に贈与したものであるから、申告の必要がない。」と主張したところ、係官より登記が二七年になされていることを指摘されて確定申告の必要を説明され、乙第一号証の一の確定申告書が作成されたと述べているのであつて、その趣旨からすると贈与年月日を二二年八月一日と記載すべきに誤つて同二七年九月一日と記載した錯誤による誤記があつたと認めるのは相当でない。仮りに誤記にあたるものとしても、本件建物中母屋の部分並びに宅地は、登記簿上も、又甲第三号証からしても、控訴人自身が買主となつているに拘らず、控訴人は忠見が買受け之を控訴人に贈与したものと主張するところからするときは、控訴人の買主の表示は名義上のもので、少くとも売買にあたつての経済的利益の実質的帰属者は忠見であつたものと認められるところ、買受けの時期が甲第三号証記載通り二二年八月一日であつたとして、之が贈与の時期については之を認めるに足る確証はなく、税法の解釈運用上課税物件と納税義務者との間の帰属関係について、法律形式上帰属する者に経済的実質も帰属するとする表見課税の原則が基準として承認されていることを考慮すると、登記簿上控訴人が所有権を取得したものとされる日時が贈与の日時として記載されていることは、客観的にはむしろ右の原則に則つたものと考えるのが相当であり、外形上客観的に誤記であることが明白であるとは認められない。売主、買主に対する課税の有無の如きは右の認定に何等影響を与えるものではない。

(二)  二八年分課税価格の誤算について。

贈与税について、贈与財産の評価は取得時における時価によるとされているところ、家屋については基本的な評価方法に関する規定なく、一般的に固定資産税の評価額を以て之にあてている実情であるが、固定資産税評価額は再建築価格を基準として算出されているから、増築の場合にあつてはその部分の評価額は増築に要した費用を基準として算定されるものと解せられ、本件の場合乙第一号証の二の確定申告書記載の課税価格たる三九六、〇七〇円については、むしろ客観的には坪数に拘らず忠見が支出した増築に要した費用が申告されたものと認めるのが相当である。控訴人の主張するところは、結局増築部分が二三坪二合一勺であるのに、床面積訂正部分を増築部分に含め増築部分を三八坪三合七勺と誤信し、之を増築部分の坪単価に乗じた数値を増築部分の評価額として申告した誤算があると云うに帰するが(共有保存登記部分はその登記がなされたのが昭和三一年九月一〇日であり、その部分を控除すべきでないことは原判決の指摘する通りである)、控訴人主張の坪単価九、六六六円に三八坪三合七勺を乗じても申告額に一致せず、その算出の根拠が不明であるのみならず、原審証人中前利憲の証言によると、昭和三〇年度の本件建物固定資産税評価額中増築部分に該当するものは四六五、〇〇〇円であることが認められ、之を二八年当時にひき直し、且つその一部が二九年に完成したことを考慮に入れると、仮令誤算があつたとしても、それが重大で控訴人の利益を著しく害するとは認められない。

二、当事者参加人の参加の理由は控訴人は当事者参加人の長男であり参加人と同居し、現在本件不動産を所有するほか、資産収入もなく、若し控訴人が敗訴し、贈与税を支払わないときは、右不動産は競売となり、明渡しを余儀なくされるに至るから、参加人が支払わざるを得ないことになり、控訴人と参加人は密接な利害関係があるから当事者参加に及ぶと云うにあるところ、具体的に金銭債務化した贈与税債務の不存在確認を求める公法上の当事者訴訟に関しては民事訴訟法第七一条による参加が認められることはもとよりであるが、参加人主張の参加の理由は単に訴訟の結果につき経済的利害関係があると云うに過ぎず、第七一条の参加の要件を欠き不適法であり、その欠缺を補正することができないと認められるから、同法第二〇二条により参加人の訴を却下することとする。

三、仍て控訴人の本件控訴は棄却し、参加人の訴は却下することとし、民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 岩口守夫 裁判官 松浦豊久 裁判官 青木敏行)

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