大阪高等裁判所 昭和41年(行コ)122号 判決 1969年11月26日
大阪市城東区今福北四丁目二九番地
控訴人
長尾容器株式会社
右代表者代表取締役
長尾伊三雄
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
岡時寿
同
今中利昭
大阪市北区中之島四丁目一五番地
被控訴人
北税務署長
井形武
右指定代理人
北谷健一
同
江藤邦弘
同
吉田重夫
同
下山宣夫
同
谷本政利
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、控訴人
原判決を取消す。
被控訴人が昭和三七年三月三一日付で控訴人の昭和三五年七月一日から昭和三六年六月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正決定(ただし大阪国税局長が昭和三九年三月三一日付で一部取消決定をし、変更されたもの)を取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二、被控訴人
主文と同趣旨
第二、当事者双方の主張
当事者双方の事実に関する主張はつぎに付加訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一、原判決五枚目裏四行目「結果による」を「結果になる」と訂正する。
二、原判決八枚目裏末行目及び同九枚目裏一行目の各「四五坪二合六勺」をいずれも「四五坪二合五勺」と訂正する。
(控訴人)
一、原判決は、控訴人が訴外長尾伊三雄から賃借していた都分が一二五坪二合六勺であることを一度認めたが、後これを撤回したとしている。しかし、控訴人は、訴状請求の原因第二項(二)に、控訴人が訴外長尾伊三雄から賃借していた部分は、四五坪二合五勺と記載し、この訴状を口頭弁論期日で陳述しているのであつて、自白を撤回したものではない。なお、右賃借部分の坪数は四二坪二合六勺が正確である。
二、原判決九枚目裏六、七行目に記載の「(二)につき被告の主張は争う。」との答弁を「(二)のうち(2)は認めるが、その余は争う。」に訂正する。
三、原判決は、借地権に価格の認められる地域において、借地権を譲渡または消滅させる場合には、借地権者に借地権価格相当の対価を支払うことは公知の事実であるとする。しかし、法律上このような対価を受領する根拠はないし、また公知の事実でもない。借地権の対価の支払がされるのは、はじめに権利金、敷金の支払がされている場合でありこの場合でも、法律上当然に借地権の対価の支払を求め得るものではない。本件では、控訴人は権利金、敷金の支払をしていない。
四、所得税法上の「確定すべき所得」とは、客観的に確定すべきものでなければならない。借地権の対価は、法律上当然に受領できるものでないから、かりに控訴人が借地権の対価を受領すべきであつたとしても、控訴人はこれを受領しない旨確定的に表示しているのであるから、確定すべき所得があつたということができないのであり、かかる所得のないところに租税を支払うべきではない。
五、被控訴人は、旧法人税法三一条の三によつて控訴人の計算を否認する。しかし、同族会社だからといつて、すべて否認できるのではなく、そこには租税回避行為がなければならない。本件ではかかる主張立証はされていない。
六、本件貸借権の消滅によつて利益を受けるのは、訴外長尾伊三雄であつて、控訴人ではない。従つて右訴外人の受けた利益を認定賞与なりとして税を課税すべきであつて、何らの利益も受けておらず、また将来受ける可能性もない控訴人に所得税を賦課すべきではない。
(被控訴人)
一、原判決七枚目表八、九行目「も借地権の譲渡または消滅に対する対価であつても」を削除する。
二、控訴人は、原審第九回口頭弁論期日で、控訴人が訴外長尾伊三雄から賃借していた部分が一二五坪二合六勺であることを認めた。
三、借地権の消滅に対する対価の支払がなされることは、公知の事実である。借地権は各種の法令の規定により保護され、地価の上昇にともない経済的な価値が発生する。そして借地権者の意思に反して消滅させられるとき、この経済的な価値が具体化されるのである。
四、本件借地権の消滅の対価を収受するのは控訴人である。控訴人は、借地権の消滅によつて利益を受けるのは、訴外長尾伊三雄であると主張するけれども、借地権の対価の帰属者は借地権者である控訴人である。本件では、控訴人に発生した借地権消滅の対価を控訴人の役員である訴外長尾伊三雄が収受したことになる。即ち、一日控訴人に帰属した未計上の利益が社外流出したもので、正当な役員報酬と認められない限り、すべて利益処分による賞与と認定されるべきものである。従つて控訴人の損害とはならず利益処分の賞与として控訴人の所得に加算されるべきものである。(最高裁昭四一・六・二四判決参照)
第三、証拠
当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、つぎに付加するほかは、原判決事実摘示欄記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人)
(1) 甲第一〇、一一号証、第一二号証の一ないし四、第一三ないし第一六号証の各一ないし三提出。
(2) 当審の証人長尾光雄の証言および鑑定人荒木久一の認定結果援用。
(3) 乙第三号証は原本の存在および成立を認める。
(被控訴人)
(1) 原審で提出した乙第三号証は写である。
(2) 当審の鑑定人木口勝彦の鑑定結果援用。
(3) 甲第一一号証の成立は知らない。甲第一〇号証、第一二号証の一ないし四、第一三ないし第一六号証の各一ないし三は、いずれも成立を認める。
理由
原判決事実摘示中、請求の原因の一記載の事実、同二記載の事実中更正決定および審査決定の理由の要旨、被告の主張一の(一)の(2)よよび(二)記載の加算減算分があること、同二の(二)の(2)記載の事実は、当事者間に争いがない。
そうすると、控訴人は、昭和三五年七月一日から昭和三六年六月三〇日までの事業年度の所得金額を金一、二〇三、七二八円として確定申告したが、更に計算の誤りにより減算すべきもの一円、交際費勘定の否認により加算されるべきもの金五四九、三六五円、違法繰延べをしていたことにより加算されるべきもの金七、七一九、六八四円があることは当事者間に争いがなく、従つて、控訴人の本件事業年度の益金として金九、四七二、七七六円があつたことは、当事者間に争いがない。
そうすると、本件の争点は、控訴人の本件事業年度に、金一二、九九一、九八二円(審査決定により変更された更正決定額)と右当事者間に争いのない益金九、四七二、七七六円との差額金三、五一九、二〇六円以上の否認の対象となる借地権消滅の対価の益金計上もれがあるか否かである。
まず、当審の控訴人の付加主張一について判断するに、本件記録中原審の第九回、第一〇回各口頭弁論調書の記載および控訴人が原審第一〇回口頭弁論期日で陳述した昭和四〇年一〇月一二日付準備書面の記載によれば、この点に関する原判決事実摘示には誤りがないので、控訴人の右主張は理由がない。
本件土地の売買の経過に関する当裁判所の判断は、つぎに付加訂正するほかは、原判決一〇枚目裏二行目から同一五枚目表三行目までの記載と同一であるから、これを引用する。
(1) 原判決一〇枚目裏三行目「長尾光雄」のつぎに「(原審分)」を挿入する。
(2) 同一〇枚目裏一二行目「長尾光雄」のつぎに「(原審分)」を挿入する。
(3) 同一一枚目表一〇行目「右他に」とあるのを「他に右」と、同一二行目及び同裏八行目の各「四五坪二合六勺」を「四五坪二合五勺」とそれぞれ訂正する。
(4) 同一一枚目裏四行目「長尾光雄の証言」のつぎに「(原審および当審分)」を挿入する。
(5) 同一二枚目表六行目「長尾光雄」のつぎに「(原審分)」を挿入する。
(6) 同一三枚目表八行目「の一部」のつぎに「(原審分)」を挿入する。
(7) 同一三枚目裏八行目「の証言中」のつぎに「(原審および当審分)」を挿入する。
(8) 同一四枚目表一行目「長尾光雄の証言」のつぎに「(原審分)」を挿入する。
(9) 同一四枚裏九行目「長尾光雄の証言」のつぎに「(原審分)」を挿入する。
(10) 同一五枚目表二行目「右認定に」以下同三行目末までを「控訴人は訴外長尾伊三雄から営業権補償費を貰う権利なく、また必要もないから、前記営業権補償金は借地権の対価そのものであるとの原審および当審の証人長尾光雄の証言は採用できない。」と訂正する。
以上によれば、訴外長尾伊三雄は、本件土地売買について、控訴人に借地権消滅の対価の支払をしていないところ、借地権に価格の認められる地域では、借地権を譲渡または消滅させる場合には借地権者に借地権価格相当の対価を支払うことは公知の事実であり、本件土地が借地権に価格の認められる地域にあることは既に認定したところである。
控訴人は、権利金、敷金の支払のない場合には、借地権価格が発生しない旨主張するが、当審の鑑定人木口勝彦の鑑定結果によれば、権利金、敷金を支払つていないことは借地権価格の減額理由となるだけであり、更に使用貸借の場合にも借地権価格が存することが認められ、他にこの認定を覆えすに足る証拠はないから、右主張は採用できない。
控訴人は、借地権価格は、法律上当然に請求できない旨主張するが、既に認定した経過のもとで、もし控訴人が同族会社でなく、また訴外長尾伊三雄が控訴人と関係のない者であれば、経済利益を得ることを目的としている株式会社の控訴人が借地権消滅の対価を受領せずに借地権を破棄することはあり得ないので、被控訴人が、借地権の対価なしとした控訴人の行為計算を本件事業年度当時施行されていた法人税法三一条の三の規定により否認したのは正当である。
そこで、本件借地権消滅の対価について判断するに、既に認定した事実に、当審の鑑定人木口勝彦の鑑定結果を総合すると、この対価は金五九〇万円と認めるのが相当である。当審の鑑定人荒木久一の鑑定結果は、前掲証拠および弁論の全趣旨に照らして採用しない。
なお、控訴人の当審の付加主張六は、被控訴人の当審の付加主張三と同様の理由により、主張自体理由がない。
以上によれば、控訴人の本件事業年度の益金として申告すべき金額は、当事者間に争いのない益金九、四七二、七七六円と右借地権の対価金五九〇万円の合計金一五、三七二、七七六円であり、これは、本件更正決定の益金一二、九九一、九八二円を上廻るので、控訴人の請求は理由がない。
従つて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用については民訴法八九条、九五条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江菊之助 裁判官 乾達彦 裁判官 道下徹)