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大阪高等裁判所 昭和41年(行コ)28号 判決 1970年5月28日

大阪市港区桂町一丁目一五番地

控訴人

港税務署長

藤原多八

右指定代理人検事

鎌田泰輝

右指定代理人法務事務官

葛本幸男

高木国博

右指定代理人大蔵事務官

多田雅美

川中繁徳

畑守恭男

大阪市大正区千島町六五番地

被控訴人

南北木材株式会社

右代表者代表取締役

西野久雄

右訴訟代理人弁護士

川根洋三

新原一世

右当事者間の法人税等更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は、昭和四四年九月三日終結した口頭弁論に基づいて、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(被控訴人の主張)

本件山林は西野久雄が青山清治とともに昭和二七年一一月一四日山根民弥から四〇〇万円で買受け、西野久雄及び青山清治の共有名義に所有権移転登記されたものであり、右売買代金四〇〇万円は右両名折半して各二〇〇万円ずつ支出したものであるが、そのうち西野久雄が負担すべき売買代金二〇〇万円のうち一〇〇万円については、同人振出の小切手で支払われたものであり、そのうち七〇万円の小切手(小切手番号W四八六八)は昭和二七年一一月一五日、三〇万円の小切手(小切手番号W四八六九)は同月二五日いずれも同人が当時当座預金取引をしていた株式会社大和銀行小林町支店から支払われた。残代金一〇〇万円のうち五〇万円については、同額面の満期日昭和二八年二月二五日、支払場所株式会社三和銀行大正橋支店の同人振出の約束手形で支払われたものである。同人は当時右銀行大正橋支店との間に当座預金取引がなかつたけれども、被控訴人が右支店と当座預金取引があつた関係で、右支店を支払場所とする手形用紙を使つたものである。右約束手形は西野久雄がその満期日に右支店に五〇万円を持参して窓口決済をしたものであるが、西野久雄は同人がさきに被控訴人に対し貸与していた五〇万円の貸金の弁済として受領した金員で右決済をしたものである。残代金五〇万円については、同額面の満期日昭和二八年三月一六日、支払場所前同様、振出日昭和二七年一一月一五日の西野久雄振出の約束手形で支払われたものであるが、その支払場所を右のようにしたのは前同様の理由によるものである。右約束手形は満期日に前同様西野久雄が右支店において窓口決済をしたものであるが、西野久雄は同人がさきに被控訴人に対し十一会(西野久雄が代表者となり、その同級生で組織された友交団体である。)名義で貸与していた五〇万円の貸金の弁済として受領した被控訴人振出の額面五〇万円、支払人株式会社三和銀行大正橋支店の小切手(小切手番号いる〇六三二七)で右決済をしたものである。以上のとおり、本件山林売買代金のうち青山清治が負担すべきものを除いた二〇〇万円は、いずれも西野久雄個人の資金で支払われたものであつて、被控訴人の資金で支払われたものではないから、本件山林は西野久雄と青山清治の共有に属するものであつて、被控訴人の所有となつたものではないこと明らかである。

(控訴人の主張)

一(一)  被控訴人主張の西野久雄振出の七〇万円の小切手(小切手番号W四八六八)が本件山林購入代金の支払にあてられたことは認めるが、株式会社大和銀行小林町支店における西野久雄名義の当座預金は後述のとおり被控訴人の別口預金であるから、右小切手による本件山林購入代金の支払は被控訴人の資金でなされたことになる。

被控訴人主張の西野久雄振出の三〇万円の小切手(小切手番号W四八六九)が本件山林購入代金の支払にあてられたことは否認する。右小切手は本名木材株式会社名古屋出張所に対する銀行送金のため用いられたものである。

本件山林の売主である山根民弥が金額五〇万円、支払場所株式会社三和銀行大正橋支店の約束手形二通を本件山林売買代金の一部として受領したことは認めるが、右約束手形が被控訴人主張のように西野久雄が振出したものであり同人が右支店において窓口決済をしたものであることは否認する。西野久雄は株式会社大和銀行小林町支店と当座預金取引をしていたのであるから、同人がわざわざ当座預金取引のない他の銀行において窓口決済というような迅遠な手続を必要とする手形を振出し、決済するというようなことをするはずがない。山根民弥が受領した五〇万円の約束手形二通は、いずれも被控訴人が振出したものであり、そのうち一通は山根民弥において自己の取引銀行である株式会社南都銀行榛原支店で割引を受け、同銀行がこれを取立てており、他の一通は山根民弥において内牧村農業協同組合で割引を受け、同農業協同組合はこれを奈良県信用農業協同組合連合会を通じて取立てているが、いずれも被控訴人の取引銀行である株式会社三和銀行大正橋支店においてその支払がなされている。この事実からすれば、本件山林の売買代金はすべて被控訴人の資金から支払われているものといわなければならないから、本件山林は被控訴人が購入したものであつて、被控訴人の所有に帰したものであること明らかである。

仮に本件山林の売買代金が西野久雄個人名義の預金等から支出されているとしても、右西野久雄個人名義の預金等は被控訴人に帰属する別口預金とみるべきものであるから、右預金等を利用して購入した本件山林もまた被控訴人の別口資産とみるべきものである。例えば、株式会社大和銀行小林町支店における西野久雄名義の当座預金が本件山林の購入代金の支払に利用されているとしても、右当座預金は被控訴人の取引代金、例えば被控訴人と伊藤忠商事株式会社、浅野木材株式会社、尾崎木材株式会社、大阪原木協同組合、株式会社中井鋼商店、芝坂正雄等との間の取引代金の支払のために利用されているところからして、右当座預金が被控訴人に帰属する別口預金であること明らかであるから、右当座預金を利用して購入した本件山林もまた被控訴人の別口資産であるというべきである。

(二)  西野久雄が豊能税務署長に提出した同人個人の所得税の確定申告によると、昭和二八年度ないし昭和三二年度の総所得金額は、昭和二八年度が三六二、一一三円、昭和二九年度が六〇九、三〇〇円、昭和三〇年度が五九四、九七〇円、昭和三一年度が八八五、六四一円、昭和三二年度が一、二二九、七〇〇円となつており、これら申告にかかる総所得金額の推移から推計すると、同人の昭和二七年度以前の各年度の総所得金額は四〇万円にも満たない金額であつたと考えられるから、西野久雄個人の所得が本件山林購入の資金源とはなり得ないので、本件山林は西野久雄が同人の個人資金で購入取得したものとは到底考えられず、本件山林は被控訴人がその帳簿外の別口利益金をもつて取得したものであると推認せざるを得ない。

二(一)  なお、本件において、課税の対象となつた被控訴会社がその所有の本件山林をその代表取締役たる西野久雄に対し譲渡した行為は、いわゆる株式会社とその取締役との間の取引として商法二六五条により取締役会の承認を要するものであるところ、本件の場合、厳密な意味では右承認があつたと即断することはできないけれども、被控訴会社の如く小規模の同族会社においては、会社とその取締役との間に法が予定している鋭い利害の対立はなく、むしろ、両者は一身同体の如く利害を共通にしているものであるから、本件の場合には右取引につき取締役会の承認があつたものとして取扱うべきである。したがつて、被控訴人から西野久雄に対する本件山林の譲渡が有効になされたものとしてなされた本件課税処分は適法である。

(二)  仮に被控訴人から西野久雄に対する本件山林の譲渡につき右承認を欠くとみられるとしても、課税の原因となつた行為が厳密な法の解釈適用の上からは不適法、無効とされる場合であつても、税法上の見地からは、現実に事実上の効果が生じ、当事者がその効果を現に享受している限り、これに対して課税すべきであること実質課税の原則からいつて明らかであるところ、被控訴人から西野久雄に対する本件山林の譲渡により、そこに事実たる取引が存在し、その事実上の効果が実現している以上、右山林譲渡行為の存在を前提としてなされた本件課税処分になんら違法の点はない。

(証拠関係)

被控訴人は、甲第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし五、第八、第九号証、第一〇号証の一ないし三を提出し、当番における証人山根民弥、山田義之の各証言及び被控訴会社代表者西野久雄の本人尋問の結果を援用し、当審において新たに提出された乙号証のうち乙第六号証、第一一ないし第一四号証、第一五号証の二、第一六号証の二、三、第一七号証の二ないし六、第一八ないし第二四号証の各成立は認めるが、その余の乙号各証の成立は不知と述べ、乙第一四号証を利益に援用した。

控訴人は、乙第六、第七号証、第八、第九号証の各一、二、第一〇ないし第一四号証、第一五、第一六号証の各一ないし三、第一七号証の一ないし六、第一八ないし第二四号証を提出し、当審における証人徳沢勲、柴原昭義の各証言を援用し、当審において新たに提出された甲号証のうち甲第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし五、第九号証の各成立及び甲第八号証の官署作成部分の成立は認めるが、同号証のその余の部分の成立及びその余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一  次の事実は当事者間に争がない。

(一)  被控訴人は昭和三四年六月一日、当時の管轄税務署たる西税務署長に対し、被控訴人の昭和三三年四月一日から昭和三四年三月三一日までの本件係争事業年度の所得金額を一、一八二、一一〇円として確定申告したところ、西税務署長は昭和三四年一〇月三一日被控訴人の右係争年度の所得金額を五、六〇三、四八〇円とする更正処分をし、その通知書が同年一一月二日被控訴人に到達した。そこで、被控訴人は、同月三〇日西税務署長に対し右更正処分(以下本件更正処分という。)に対する再調査の請求をしたが、西税務署長が三カ月以内にこれに対する決定をしなかつたので、右請求は大阪国税局長に対する審査請求とみなされ同国税局長は昭和三六年一月九日右審査請求を棄却する旨の決定をし、被控訴人はその通知書を同月一〇日受領した。

そして、本件更正処分に表示された所得金額の内訳は次のとおりであつた。

(1)  一、一八二、一一〇円 被控訴人の申告した所得金額

(2)  一〇一、三七〇円 被控訴人の買掛金値引につき計上ずれがあつたため、申告から洩れた所得と認定された金額

(3)  四、三二〇、〇〇〇円 被控訴人所有の山林譲渡による益金として、被控訴人の所得と認定された金額

(二)  本件係争年度の終了日たる昭和三四年三月三一日現在において、被控訴人の会計帳簿上の借方(資産)勘定に山林一、〇一六、五〇〇円が記載されていたが、被控訴人は、これとその見合勘定である貸方(負債)勘定に記載された被控訴人の代表者たる西野久雄からの借入金一、〇一六、五〇〇円とを帳簿上消除して、本件係争年度の所得の確定申告をしたところ、西税務署長はこの事実を捉えて、右帳簿に記載された山林は本件山林に該当し、これほ被控訴人の所有であつたが、被控訴人がこれを本件係争年度中に時価である五三二万円で西野久雄に売却したものと認定し、右時価から帳簿価格一〇〇万円(右一、〇一六、五〇〇円のうち一六、五〇〇円は撫育費であつて、山林帳簿価格にに含まれない。)を差引いた四三二万円は、被控訴人の西野久雄に対する未収金であつて、被控訴人の資産処分益金であり、被控訴人の本件係争年度の所得に算入すべきものと認定して、前記のとおり本件更正処分をしたものである。

二  控訴人は、本件山林は被控訴人が昭和二七年一一月一四日前所有者からこれを買受けてその所有権を取得したものであると主張するけれども、控訴人の右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、かえつて、原審証人青山清治の証言、原審及び当審における被控訴会社代表者西野久雄の本人尋問の結果並びにこれら各供述により成立の認められる甲第四号証及び官署作成部分について争がなくその余は右供述により成立の認められる甲第八号証によれば、西野は青山清治とともに昭和二七年一一月一四日本件山林をその前所有者山根民彌から代金四〇〇万円で買受ける旨の売買契約を締結し、その売買代金は西野久雄と青山清治との間で折半してそれぞれ二〇〇万円ずつ支出する旨約したが、その売買契約書上の買受名義人は西野久雄となつていたことが認められ、山根民彌から西野久雄及び青山清治の共有名義に本件山林所有権移転登記がなされたことは控訴人において明らかに争わないところである。

控訴人は、西野久雄はかつて個人で木材業を営んでいたが、昭和二六年四月五日被控訴会社を設立し、西野久雄個人の従前の営業を全部被控訴会社に引継いで、以後右個人営業を廃止したものであるから、被控訴会社設立後になされた本件山林売買契約における実質上の買受人は被控訴人であると主張し、成立に争のない乙第五号証、原審証人青山清治、堂本厳、安江伍郎、平野昌昭の各証言並びに原審及び当審における被控訴会社代表者西野久雄の本人尋問の結果を総合すれば、西野久雄は以前から西野商店の名称の下に個人で原木の売買を主とする木材業を経営してきたところ、昭和二六年四月三日木材業及び製材業等を営む目的をもつて被控訴会社が設立されたことが認められるけれども、控訴人主張の如く西野久雄が従前の個人営業を全部被控訴人に引継いだと認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右証拠によれば、西野久雄は被控訴人にその営業の全部を引継いだものではなく、被控訴会社設立後も昭和三二年頃までは、従前の個人営業を被控訴人の営業と併行して営んできたものであることが認められ、山根民彌との間の本件山林売買契約が被控訴会社設立後になされたものであるからといつて、本件山林の買受人が被控訴人であるとしなければならないものではないから、控訴人の右主張は採用できない。

控訴人は、西税務署長が昭和三三年一一月、被控訴人の昭和二八年四月一日から昭和三三年三月三一日までの五事業年度の所得税に関して調査し、被控訴人の簿外資産とみるべきものを多数発見し、本件山林も被控訴人の簿外資産と認定して、これを被控訴人に帰属すべきものとして、右五事業年度の所得税について再更正処分又は更正処分をしたが、被控訴人は右処分に先立つて、その処分の内容どおりの事実を確認する旨の追加所得確認書を提出したのみならず、右処分に対して不服申立をせず、西税務署長が本件山林をも含めて、昭和三三年一一月二五日現在の被控訴人の簿外資産と認定したものを被控訴人の経理に組入れるように指示したのに対し、被控訴人はそのとおり実行したものであるから、本件山林の実質上の所有権者は被控訴人であつたと主張し、控訴人の右主張事実は、当事者間に争がないか、又は被控訴人において明らかに争わないところである。しかし、原審証人平野昌昭、堂本厳の各証言並びに原審及び当審における被控訴会社代表者西野久雄の本人尋問の結果によると、前記のとおり被控訴会社設立後は被控訴人の営業と西野久雄個人の営業とが併存し、更に、被控訴人は昭和二八年から休業して、その営業設備の全部を西野久雄の被用者であつた堂本厳に賃貸し、同人は南北製材所という名称で同種営業を営み、昭和三二年までこれを続け、その間右三事業主体の営業活動の区分もはつきりせず、その個々の資産の購入資金がいずれの営業主体から支出されたものであるかが不明確であつたり、被控訴人の架空名義の取引先やいわゆる裏勘定があつたりなどしたため、西野久雄は西税務署長の前記五事業年度に関する調査に際し、調査担当官に対し、本件山林は西野久雄個人の所得であることを極力主張したけれども、聞き入れられなかつたので、被控訴人は本件山林が被控訴人に属するものとすることなど個々の簿外資産の認定そのものを承認したわけではないが、それはともかく、西税務署長の右五事業年度についての再更正処分及び更正処分の結論はやむを得ないものとして、積極的に右処分に対し不服を申立てこれを争う挙に出なかつたに過ぎないものであることが認められるから、控訴人主張の前記事実の存在をもつて、本件山林は被控訴人が租税債務回避の目的で西野久雄個人の名義を用いて買受けたものであり、被控訴人の所有に属したものであると認めることはできない。被控訴人が前記追加所得確認書を西税務署長に提出したからといつて、直ちに本件山林が本来被控訴人の所有でないのにこれにより被控訴人の所有に帰するいわれはなく、また、被控訴人がその後になつて、別個の処分を争う場合に、右確認書の内容と異なる主張をすることまで、禁反言の原則に反するものとして許されないわけではないこと勿論である。

控訴人は、本件山林の購入代金は被控訴人の資金から支出されたものであると主張するので、この点につき検討する。被控訴人主張の西野久雄振出の七〇万円の小切手(小切手番号W四八六八)が本件山林購入代金の一部の支払にあてられ、株式会社大和銀行小林町支店における西野久雄名義の当座預金から支払われたことは当事者間に争がないところ、控訴人は右西野久雄名義の当座預金は被控訴人の別口預金であると主張するけれども、控訴人のこの主張事実を認めるに足りる証拠はない。もつとも、成立に争のない乙第一四号証、第一六号証の二、三、当審証人徳沢勲の証言により真正に成立したと認める乙第一六号証の一によれば、被控訴人と伊藤忠商事株式会社との間の取引代金の支払に右西野久雄名義の当座預金が利用されていることが認められるけれども、右当座預金が被控訴人と浅野木材株式会社をはじめその他の控訴人主張の取引先との間の取引代金の支払に利用されていたとの事実は、右乙第一四号証及び成立に争のない乙第一七号証の二ないし六によつても確認できず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、成立に争のない甲第九号証によれば、被控訴人の右取引代金は株式会社三和銀行大正橋支店における被控訴人の当座預金により決済されたものであることが認められるから、西野久雄名義の前記当座預金が一部被控訴人と伊藤忠商事株式会社との間の取引代金の支払のために利用されたからといつて、直ちに右当座預金が被控訴人の別口預金であるとは認め難く、前記七〇万円の小切手が被控訴人の資金で決済されたものとは認められない。本件山林売買代金のうち一〇〇万円については、金額五〇万円、支払場所株式会社三和銀行大正橋支店の約束手形二通で支払われたことは当事者間に争がなく、被控訴人は右支店と当座預金取引があるけれども、西野久雄は右支店と当座預金取引がなかつたことは被控訴人の認めるところであるけれども、成立に争のない甲第六号証の一ないし三、当審証人徳沢勲の証言により真正に成立したと認める乙第八、第九号証の各一、二、第一〇号証、当審における被控訴会社代表者西野久雄の本人尋問の結果によれば、右約束手形はいずれも西野久雄が振出したものであり、右約束手形のうち満期昭和二八年二月二五日とするものについては、西野久雄がさきに被控訴人に対し貸与していた五〇万円の貸金の弁済として受領した金員で決済され、満期同年三月一六日とするものについては、西野久雄がさきに被控訴人に対し十一会(西野久雄が代表者となり、その同級生で組織された友交団体である。)名義で貸与していた五〇万円の貸金の弁済として受領した被控訴人振出の額面五〇万円、支払人株式会社三和銀行大正橋支店の小切手で決済されたものであることが窺われ、右証拠によつても前記五〇万円の約束手形二通が被控訴人の資金で決済されたものと認めるには不十分である。乙第七号証には右約束手形のうち満期昭和二八年三月一六日のものが被控訴人の振出したものであるかのような記載があるけれども、成立に争のない甲第七号証の一ないし五(被控訴人の総勘定元帳)の支払手形の貸方欄に右約束手形に該当する手形の記載がないことに照らし、右乙第七号証の記載内容は措信し難い。他に右約束手形二通が被控訴人の振出にかかり、被控訴人の資金で支払われたと認めるに足りる証拠はない。控訴人は、西野久雄個人の昭和二七年度以前の各年度の総所得金額は四〇万円にも満たないものであつたから、西野久雄個人の所得が本件山林購入の資金源とはなり得ないものであり、本件山林は西野久雄が同人の個人資金で購入取得したものとは考えられず、被控訴人がその別口利益金でこれを取得したものであると主張し、成立に争のない乙第二一ないし第二四号証によれば、西野久雄が豊能税務署長に提出した昭和二八年度ないし昭和三二年度の所得税の確定申告における総所得金額を基礎に西野久雄の昭和二七年度以前の総所得金額を推計すれば、控訴人主張のとおり四〇万円にも満たないものであつたと考えられないことはないけれども、西野久雄が個人所得を正確に申告していたとは必ずしもいえず、過少申告していたとも考えられないでもないから、右事実をもつて、直ちに西野久雄個人が本件山林を購入する資力を有しなかったものであり、本件山林購入代金は被控訴人の資金から支出されたものであると断定することはできない。なお、原審及び当審証人柴原昭義の証言によると、柴原昭義が被控訴人の法人税に関する調査をした際、本件山林を被控訴人の所有と認めた根拠はその買入資金が西野久雄個人から出たか被控訴人の裏勘定から出たか区分できなかつたからというに止まり、右証言をもつて本件山林購入代金が被控訴人の資金で支払われ、本件山林が被控訴人の所有となつたものであると認めるには足りない。そうすると、本件山林購入代金が被控訴人の資金から支出されたと認めるに足りる証拠はないことに帰する。

三  そうであれば、本件山林が被控訴人の所有であつたことを認めるに足りる証拠がないのであるから、被控訴人が本件山林を西野久雄に譲渡するということはあり得ないので、被控訴人が帳簿上本件山林一〇〇万円とその見合勘定である借入金一〇〇万円とを消除したのは、単なる帳簿操作に過ぎないというべきである。したがつて、西税務署長がした本件更正処分のうち、本件係争年度において被控訴人が本件山林の譲渡益による所得を有したと認定してした部分は、その余の点について判断するまでもなく、違法であつて、取消を免れない。

なお、昭和三八年六月一五日大蔵省令第三三号により、被控訴人の本店が所在する大阪市大正区を管轄する税務署が西税務署から港税務署に変更され処分庁の権限につき承継があつたことは記録上明らかであるから、現在控訴人が本訴につき当事者適格を有すること明らかである。

そうすると、被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であるから、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 金田宇佐夫 判事 中川臣朗 判事輪湖公寛は転勤につき署名捺印することができない。裁判長判事 金田宇佐夫)

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