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大阪高等裁判所 昭和42年(う)1508号 判決 1968年3月12日

控訴人・原審弁護人 竹林節治

被告人 大盛三治

検察官 岩本幸利

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審における訴訟費用(証人深田善、同柏原武郎、同松本利一、同村野一生に各支給した分)は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人竹林節治作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第三(事実誤認の主張)について

論旨は要するに原判示第四の事実につき被告人は被害者松本利一が被告人の姉を侮辱したことにつき単に松本に謝罪を求める気持から被告人方で同人と応対したのに過ぎないもので、同人を脅迫する意思は全くなかつたものであり、同人と応対中そこに居合わせた村野一生が松本に対しテーブル上の灰皿を投げつけたり、更に右灰皿を持つて同人の頭部を殴打したのは被告人の意思に基くものではなく、被告人はこのような暴力に訴える意思が全くなかつたのであるから、右村野の暴行について責任はないというのである。

よつて所論にかんがみ記録を精査するのに、原判決挙示の証拠を綜合すると、被告人は昭和四一年四月一四日午前二時頃被告人の姉中根輝子が株式会社山手モータース所属のタクシー運転手松本利一の運転するタクシーに乗車中同人と口論し同人からパンパン呼ばわりされて肩を突かれた旨聞知するや深夜であるのに同会社に電話して宿直員に対し今から事情を聞きたいから同運転手を探がして連れて来いと申し向け、同日午前四時頃原判示大盛組事務所に右松本と同会社営業課長深田善及び同会社葺合営業所整備主任柏原武郎を呼び出し、右事務所応接室において、右松本に対し、「今晩あつた姉との問題を俺に分るように話してみい」といい、同人が「済みません、私の云い過ぎでした」といつて謝まつているのに拘わらず、身体を乗り出しテーブルを叩いてにらみつけて大声で怒鳴りながら「済みませんでは分らんじやないか、何でうちの姉のことをパンパン呼ばわりしたのか俺に説明せよ」といつて追求し同人が「パンパンではなくぽん引といつたのだが、済みません」といつて謝罪するのに対し、更にその場にいた村野一生も傍から「お前先から謝つてばかりいるが、これで済んだと思うのか、組長が許すといつても俺は許さんぞ、ぽん引とは何だ」といい、なおも弁解しようとする松本に対し、村野において原判示の如くテーブル上の灰皿を松本の胸部に投げつけるや、被告人はこれを制止しないばかりか同人に対し「今うちの若衆が灰皿を投げたが、こんなことで俺の気がすむと思うか」とか、「このままでは唯で済まんぞ」といつて同人の身体に更に暴行等の如何なる危害を加えるか判らないような気勢を示し、更に村野が右灰皿で松本の頭部を殴打し泣き出して謝る同人に対し被告人において「こんなことでへこたれるのなら初めから大きな口をきくな」とか「これで話しはまだついてないぞ」といい、前記中根輝子に謝罪させた後も「姉との話はすんでも俺たちの代絞を傷つけたことの話はついてない」といつて右松本に対しその身体等に如何なる危害を加えるか判らない旨暗示して脅迫していることが認められる。そして右のように被告人が深夜であるのに松本を呼び出したうえ、謝罪する同人に対してなした言動は被告人方の組員ではないが、居候をして被告人の世話になつている村野が被告人の意にそうべく取つた前記言動と相呼応するもので同人と意思相通じ共同して松本を脅迫したものというべく、村野が松本に加えた前記各暴行も被告人の意思に基づくものであるとみられるのであつて、所論のように被告人に脅迫の犯意がなかつたとか、又村野の脅迫や暴行が被告人の意思に基くものでないといつて被告人の刑責を否定できるものではない。されば以上と同趣旨の事実を認定したとみられる原判決は正当であつて、記録を精査しても所論のような誤りの点は存しない。論旨は理由がない。

なお職権をもつて調査するのに、原判決は罪となるべき事実第三において被告人に対する昭和四一年三月四日附起訴状記載の公訴事実と同じく「被告人は暴力団神戸山口組系大盛組々長、松久吉昭はその知人であるが、松久吉昭が法定の除外事由がないのに、昭和三九年二月末頃、神戸市生田区三宮町三丁目一〇バー「パイレツト」で同居主三田明より三二口径自動装顛式拳銃一挺、同実包約二五発を買受け、同日より昭和四一年一月七日頃迄の間、同所及び姫路市網干区和久二六六の自宅等において右拳銃等を不法に所持するに当り、被告人はその情を知りながらその頃右松久を前記三田明方に連行し、右松久をして右三田より前記拳銃等を買受けさせ、以つて右松久の前記犯行を容易ならしめてこれを幇助した」との事実を認定判示し、右事実につき銃砲刀剣類所持等取締法附則12による改正前の銃砲刀剣類等所持取締法三条、三一条、罰金等臨時措置法二条(懲役刑選択)と火薬類取締法一七条一項、五九条四号、罰金等臨時措置法二条(懲役刑選択)を適用し、右両罪の関係を他の原判示各罪との関係と同様に刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとし、累犯加重、従犯減軽、併合罪の加重をして処断していることが明らかである。

ところで、火薬類取締法一七条一項(但し後記昭和四一年六月七日法律第八〇号による改正前)は同項但書の場合を除き火薬類を譲り渡し、又は譲り受けようとする者は都道府県知事(右法律による改正後は都道府県公安委員会と読み替える。)の許可を受けなければならないと規定し、同法五九条四号は右一七条一項の規定に違反し、許可を受けないで火薬類を譲り渡し、又は譲り受けた者についての罰則を定めたものであるところ、前記原判示によれば実行正犯である松久吉昭の犯行につき拳銃と共にその実包を買受けた旨の文言があるけれども火薬類である右実包の買受けを都道府県知事の許可を受けないでしたとの文言はなく「右拳銃等を不法に所持するに当り、被告人はその情を知りながら……右松久をして右三田より前記拳銃等を買受けさせ以つて右松久の前記犯行を幇助した」旨判示しているところからみると拳銃についても同様に火薬類である拳銃用の右実包についても松久がこれを不法に所持した犯行を幇助した事実を認定判示したものとみざるを得ないのであり、右原判示と同じ公訴事実を記載した前記起訴状の罰条にも火薬類取締法二一条、五九条二号刑法六二条が掲記されており、火薬類についての本件訴因は不法所持罪に該当する事実であつて本件起訴が同法一七条一項、五九条四号違反の罪を問うたものでないことは明らかである。してみると、原判決が同法二一条、五九条を適用せずに、同法一七条一項、五九条四号を適用したのは法令の適用を誤つたものといわざるを得ない。そして右原判示によると被告人は松久吉昭が昭和三九年二月末頃三田明から原判示バー「パイレツト」で原判示拳銃一挺及び同実包二五発を買受けて同日より昭和四一年一月七日頃までの間、同所及び姫路市内の松久の自宅等において右拳銃及びその実包を不法に所持した犯行を幇助した事実を認定したものとみられるのであるが、右事実に関する証拠を検討すると、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は昭和三九年二月下旬頃肩書住居において来邦した松久吉昭と話しをしていた際三田明から電話により拳銃を買わないかという連絡があり、これを知つた松久から拳銃とその実包を入手したいからその購入の斡旋をしてくれとの依頼を受けてこれに応じ右三田に連絡して会合場所を打ち合わせ、松久を連れて原判示バー「パイレツト」附近の喫茶店におもむき同人を三田に引き合わせると共に同人に対し松久が自己の刑務所服役当時からの知り合いで間違いない男だから同人に売却してやつてくれといい、更に三田の経営する右バー「パイレツト」に同人と共に松久を連れておもむき同人が三田から法定の除外事由がないのに拳銃及び実包を購入するにつき斡旋をし、同日同所において松久は三田より原判示拳銃及び実包を一三万円で買受けて入手し、これを原判示同人の自宅に持ち帰り納屋に隠匿して同日より昭和四一年一月七日頃まで保管していたことが認められる。従つて正犯である松久は右拳銃及び実包を三田から購入してから自宅において引き続き所持していたのであつて昭和三九年二月下旬より後記認定の如く改正法律の施行後の昭和四一年一月七日まで拳銃についても火薬類である同実包についても継続してそれぞれ不法所持をなしたものであり、しかも取締法規が異なる拳銃とその実包の所持は一所為数法の関係にあるものとみられるところ、拳銃については松久が入手して自宅納屋に保管中に昭和四〇年四月一五日法律第四七号によりそれまでの銃砲刀剣類等所持取締法(以下旧法と称する。)の一部が改正され、同法の名称が銃砲刀剣類所持等取締法と改められると共に旧法三一条が改正され拳銃の不法所持の罰則につきその三一条の二の規定が設けられて法定刑が引き上げられ右改正法律は同年七月一五日から施行されたが、右改正法律の施行の前後にまたがる正犯の拳銃不法所持の行為については右改正前の犯罪行為と改正後の犯罪行為とが相合して一個の継続犯を構成するものと解すべく、右改正法律の附則五項の規定に関係なく改正後の同法三一条の二の規定のみを適用すべきものと解せられる。(昭和三一年五月四日最高裁判所判決刑集一〇巻五号六三三頁参照)

なお、昭和四一年六月七日法律第八〇号銃砲刀剣類所持等取締法及び火薬類取締法の一部を改正する法律が昭和四二年一月一日から施行されたが、この改正法律は本件の拳銃及び実包の不法所持罪には直接の関係はない。

そこで、従犯である被告人の本件幇助罪については従属性の立前上、その犯罪の成立、罪数が共に正犯のそれに従うべきものとすると、正犯と同じく前記昭和四〇年法律第四七号による改正後の三一条の二を適用することとなる筋合であるが、前記認定事実から明らかなように被告人は旧法当時の昭和三九年二月下旬に拳銃及び実包の購入の斡旋をしたのに過ぎず、右購入斡旋により松久が三田明から原判示拳銃及び実包を購入すればこれを不法に所持することは認識していたとはいえ、右幇助行為の態様からみて右拳銃等を購入することにともなう直後の不法所持の犯行を幇助する意思しかなかつたとみるべきであつて、松久がその後継続して右拳銃等を自宅納屋に隠匿保管して不法に所持していたことについては全く被告人の関知しないところであると認められる。このような場合には被告人の幇助犯の罪責は松久の右拳銃等の購入直後の所持の限度すなわち、松久が前記の如く三田明から右拳銃等を購入し自宅に持ち帰るまでの不法所持の限度に止まると解すべきで幇助犯が正犯に従属するといつても本犯の本件犯罪行為は前記認定の通り改正前の犯罪行為と改正後の犯罪行為とを相合した一個の継続犯であつて、単純一罪ではなく、改正前の犯罪行為を幇助したに過ぎない被告人に対し幇助の範囲を改正後の本犯の犯罪行為にまで及ぼして一罪の一部に対する幇助は全部に対する幇助に当るという結論を採用すべき限りではないのである。このような極端な従属性説は不当であつて当裁判所は採ることができない。されば被告人の従犯としての罪責につき、正犯の前記拳銃等の購入直後の不法所持の限度をこえて、その後の改正後の不法所持についてまで及ぼした原判決は法解釈を誤りひいては事実を誤認したものというべく、右認定の相異は拳銃の不法所持につき旧法三一条を適用するか新法三一条の二を適用するかの差異を来たすものであるから、右事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである。(なお原判決の拳銃不法所持についての前記適条は附則12というのは昭和四一年法律第八〇号附則12項を指すものとみられ、それによる改正前の銃砲刀剣類等所持取締法三条、三一条とは昭和四〇年法律第四七号による改正前の旧法三条、三一条を指し、結局旧法を適用しているとみられるけれども、前記の如き原判示事実の認定をする以上は新法三一条の二を適用すべきであるとみられるのに特に旧法を適用すべき根拠を示していない。)更に原判決は前記の如く火薬類である拳銃用実包の不法所持について火薬類取締法二一条、五九条二号を適用せずに同法一七条、五九条四号を適用している点においても、法令適用の誤りがあり、この誤りも判決に影響を及ぼすことが明らかであり、原判決はこれらの点において原判示第三の罪について破棄を免れない。そして、原判決は右原判示第三の各罪と他の原判示第一、第二及び第四の各罪とを併合罪の関係にあるものとして一個の刑を言渡したものであるから、他の控訴趣意に対する判断をまつまでもなく、原判決全部は破棄を免れない。

よつて、その余の控訴趣意(量刑不当の主張)に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条、三八二条、四〇〇条但書により原判決を破棄して更に次のとおり判決することとする。

原判決が適法に確定した原判示第一、第二及び第四の各事実のほかに原判示第三の事実に代えて、右事実に関する訴因の範囲内で次の事実を認定する。

罪となるべき事実

被告人は昭和三九年二月下旬頃知人松久吉昭から拳銃及びその実包の購入斡旋を頼まれるや即日その売主である神戸市生田区三宮町三丁目一〇番地所在バー「パイレツト」の経営者三田明に連絡して同人との打合せ場所である同店附近の喫茶店に右松久を連れていつて三田に引き合わせたうえ、右バー「パイレツト」に右松久と同行して同人が三田から拳銃及び実包を買受けるについて斡旋して同人をして三田から三二口径自動装顛式拳銃一挺及び同実包約二五発を買受けさせ、松久において法定の除外事由がないのにその頃右バー「パイレツト」から姫路市網干区和久二六六番地所在の同人方まで右買受にかかる右拳銃及び実包を不法に所持するに当り、右同人の犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

二 右事実に関する証拠

原判決が原判示第三につき掲げた各証拠と同一であるから、これを引用する。

原判示第一及び第二の各所為は各自転車競技法一八条二号、刑法六〇条に、原判示第四の所為は暴力行為等処罰に関する法律一条に、当審で新たに認定した所為中拳銃不法所持幇助の点は昭和四一年法律第八〇号附則一二項、昭和四〇年法律第四七号附則五項による改正前の銃砲刀剣類等所持取締法三条、三一条刑法六二条一項に、実包不法所持幇助の点は火薬類取締法二一条、五九条二号、刑法六二条一項に該当し、右拳銃及びその実包の不法所持の各幇助は一個の行為により二個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により重き拳銃不法所持の罪の刑に従い、以上の各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、原判示累犯となる前科があるから、同法五六条一項、五七条により以上各罪の刑に累犯加重をし、更に右幇助罪については刑法六三条、六八条三号により従犯の減軽をし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法七四条本文、一〇条により刑重く、犯情最も重い原判示第二の別表(二)の罪につき定めた刑により法定の併合罪の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畠山成伸 裁判官 八木直道 裁判官 神保修蔵)

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