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大阪高等裁判所 昭和42年(う)1539号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕控訴趣意第一点(被告会社に関する訴訟手続の法令違反の主張)について

論旨は被告会社については昭和四一年七月一日その代表取締役吉田一見が辞任し、これに代り吉田数夫が代表取締役に就任して同月七日その旨の登記がなされていたのに、原裁判所は右事実を看過して昭和四一年八月八日の第六回公判期日及びそれ以後の各公判期日に既に被告会社の代表取締役でもなく、その代理人でもない相田一見だけを出頭させ、被告会社の代表取締役である吉田敏夫及び加護敏雄またはその代理人のいずれもが出頭しないままで、しかも被告会社について公判期日に出頭しないことの許可もしないで審理を終えたものであるから、原審の訴訟手続には法令の違背があるというのである。

よつて記録を精査するのに、被告会社は本件により昭和四〇年九月三〇日それまでの代表取締役であつた相被告人吉田一見と共に起訴せられたが、原裁判所は同年一二月七日の第一回公判以降昭和四二年七月一三日の第一五回公判に至るまで共同審理をして結審し(但し、第三回及び第九回各公判は期日の変更決定のみで実質審理はなされなかつた)、同年八月一九日の第一六回公判において判決の宣告をしたが、右各公判期日には相被告人吉田一見がその被告人本人及び被告会社の代表者の双方の資格を有するものとして出頭していることは原審公判調書により明らかである。ところが、当審において取調べた被告会社の登記簿謄本によれば、吉田一見は昭和四一年七月一日被告会社の取締役並びに取締役を辞任して新たに吉田数夫が右取締役並びに代表取締役に就任し、同月七日その旨の登記がなされたことが認められるから、原審における訴訟手続中被告会社に関しては昭和四一年五月二七日の第五回公判までの分について吉田一見が代表者として出頭していたことになるが、同年八月八日の第六回公判以降第一六回公判宣告に至るまでの分については代表者が出頭しないで公判手続がなされたことになるといわざるを得ない。ところで、刑事訴訟法二八六条によれば、同法二八三条ないし二八五条に規定する場合を除くほか被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができないのであり、被告人が法人である場合の被告会社に関していえば右除外の場合にあたらない限り訴訟行為について法人を代表する代表者(同法二七条)が出頭しなければ公判を開廷することができないのである。そして、本件は関税法一一〇条違反に該るから、もとより刑事訴訟法二八四条、二八五条一項に該当する場合でないことは明らかである。そこで原審第六回以降第一六回までの各公判手続についてその余の除外規定である同条二項、同法二八三条に該るかどうかを検討すると、同法二八五条二項は同法二九一条の手続をする場合及び判決の宣告をする場合を除き裁判所が被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる旨規定しているが、右規定は原審第一六回公判の判決宣告期日には適用がないことはいうまでもなく、被告会社につき前記の如く代表者の交替があつた事実を看過したとみられる原裁判所がその余の原審第六回ないし第一五回各公判において右規定により不出頭の許可をしたとも認め難く、又同法二八三条は被告人が法人である場合には代理人を出頭させることができると規定しているが、前記の如く被告会社の代表者の資格を失つた吉田一見が原審第六回公判以降の各公判期日に右規定にいう代理人として出頭したものとみることも困難である。もつとも、原審各公判調書によると、期日の変更決定のみの第三回公判及び判決宣告のみの第一六回公判を除く各公判期日には被告会社(当初代表取締役の地位にあつた吉田一見)及び被告人吉田一見の双方から適法に選任された主任弁護人前堀政幸及び弁護人北川敏夫が出頭(但し原審第一一回及び一三回各公判には前堀主任弁護人のみ)しているが、訴訟法上代理人の立場と弁護人の立場とは区別されなければならず、双方を兼ねることはできないと解せられるから、右の如く原審の公判期日に弁護人が出頭していたからといつて右規定にいう代理人の出頭があつたということはできない。してみると、被告会社については原審における訴訟手続中第六回公判以降の分については代表者の出頭なくして公判を開廷し、審理判決をした違法があり、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、被告会社に対する原判決はこの点において既に破棄を免れない。論旨は理由がある。

(控訴趣意第二点は被告会社に関する没収追徴の違法の主張であるが、右の如く被告会社については右主張に対する判断をするまでもなく既に破棄を免れないから判断を省略するがなお被告人吉田一見について同一の問題があるから後に同被告人についての控訴趣意について併わせて判断を加えることとする)

控訴趣意第三点(被告人吉田一見について法令適用の誤りの主張)について

論旨は要するに関税法一一八条による没収、追徴は同条所定の犯罪貨物等の所有者である犯人に対してのみこれを科すべきで、その所有者でない犯人に対してこれを科すべきではないのに、原判決が原判示犯罪貨物の所有者である被告会社からのみならず、その所有者でない被告人吉田一見からも右貨物について没収、追徴を科すべきものとし、同被告人から原判示換価代金及び原判示物件を没収し、原判示追徴金額を追徴する旨言い渡したのは法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。

よつて記録を調査すると、原判示犯罪貨物は被告会社の代表取締役であつた被告人吉田一見が被告会社の業務に関し原判示の如く税関係官を欺罔し実際の契約価格よりも低い価格で輸入申告をして輸入許可を受け、申告価格に対する関税を納付して実際の契約価格に対する正当関税との差額の支払いを免れるという方法で六回にわたり原判示香港製の靴などの貨物を輸入したもので、右貨物の所有者が所論のように被告会社であると認められ、右犯行の行為者である被告人吉田一見に対し関税法一一〇条一項一号の罰則が適用せられるほか、被告会社に対しても同法一一七条の両罰規定により右罰則の罰金刑が科せられる関係にあることは証拠上明らかである。

そこで、原判決が原判示犯罪貨物の所有者でない被告人吉田一見に対して没収、追徴を言渡したことの当否について案ずるに、関税法一一八条(但し、昭和四二年法律一一号による改正前)にいう没収、追徴を科せられるべき犯人とは同条所定の犯罪に関与した犯人のすべてをいい、共犯者はもとより、右犯罪について両罰規定の適用を受ける法人とその行為者も含まれ、同法一一二条にいう情を知つて単に犯罪貨物を運搬し又は処分の媒介若くはあつせんをしたに止まる者もその例外ではないのであつて、所論のように犯罪貨物等の所有者に限定して解すべきではない。(最高裁判所昭和三六年五月二三日第三小法廷決定、昭和三七年(あ)第一八六六号昭和三九年七月一日大法廷判決参照。その他昭和二九年法律第六一号による改正前の旧関税法八三条に関し最高裁判所は昭和三七年(あ)第一二四三号及び昭和三六年(あ)第八四号の昭和三九年七月一日大法廷判決及び決定、昭和三三年三月五日大法判決等累次の判例により同趣旨の解釈を明示している。)

所論は没収についてはこれが附加刑である以上何人にこれを科すべきであるかは刑罰の法理を貫徹できるように解すべきところ、没収物件の所有者でない犯人に科しても刑罰的効果がなく、殊に没収物件の所有者でない犯人とその所有者である犯人とが共犯であつて共同被告人となつている場合にその共犯者全員に没収を科したところで没収物件の所有者でない犯人に対しては何の意味もないのであるから、没収を科せられる犯人は没収物件の所有者でなければならないと解してこそ没収が刑罰であるという法理に適うのであると主張し、更に追徴についてもそれが没収にかわる換刑であるから没収について述べた法理と同じく科せられる犯人は没収物件の所有者でなければならないと主張する。しかし没収は附加刑であり、追徴はこれに代る換刑処分であるとはいえ、没収、追徴は刑罰的性質と共に保安処分的性質を有するのであつて、これを何人について科すかについては必ずしも所論のいうような意味の刑罰の法理にのみ適うように解すべきものではないし、関税法一一八条における没収、追徴の趣旨は単に犯人の手に不正の利益を留めずこれを剥奪せんとするに過ぎないものではなく、むしろ国家が関税法規に違反して貨物又はこれに代るべき価格が犯人の手に存在することを禁止し、犯人連帯の責任において納付せしめもつて密輸入の取締を厳に励行せんとするに出たものと解せられ(最高第一小法廷の昭和三三年三月一三日及び昭和三五年二月一八日各判決参照)共犯の場合に没収と追徴を共犯者のすべてに科することには十分の理由があり、没収と追徴が刑罰的な性質があるとすれば犯罪に対して共同の責任を負う共犯者のすべてに科せられるはずであつて、それ故に関税法においても刑法一九条、一九条の二においても没収と追徴を科すべき犯人を没収されるべき物件の所有者に限つていないものと解せられ、共犯者は共同責任を負うのであるから、たとえ事実上では没収物件がその所有者である犯人から没収されるにしても法律上ではすべての共犯者に対して没収の附加刑が科せられるべきであり、又没収が事実上又は法律上不能の場合にこれに代るべきものとして共犯者のすべてにひとしく全額の追徴を科することは犯罪に対する制裁とその抑圧手段としての刑罰的性格を有する追徴の本旨に適合するのである。(昭和三七年(あ)第一八六六号昭和三九年七年一日最高裁判所判決及び同判決に引用された横田喜三郎裁判官の昭和三七年(あ)第一二四三号昭和三九年七月一日大法廷判決中の補促意見参照)本件は前記の如く没収対象物件の所有者である被告会社とその代表取締役として犯罪行為をした被告人吉田一見とが両罰規定の適用を受ける関係にあるものであつて、両者は共犯者ではないが理は同じであるのみならず、殊に両者の関係は共犯以上に密接であり実際問題として会社に対し追徴が執行されてしまえば代表者個人には実害は及ばないで解決することになるであろうし、またもし、会社に十分な財産なくして執行の目的が達せられないような場合には犯行当時その代表取締役としてその業務一切を統轄掌理していた被告人吉田一見が追徴の執行を受けることになつても必ずしも不当な結果であるとはいえないと考えられ(昭和三八年五月二二日最高裁判所大法廷決定中の斉藤朔郎裁判官の補足意見参照)るから、所論が犯罪貨物であると否とを問わず犯罪に関与したすべての者につきひとしく全額の追徴を言渡し、その共同連帯責任において納付させることとしている大審院以来の判例の不合理である点を指摘して原判決を攻撃する所論も理由がない。所論指摘の昭和三三年三月五日最高裁判所大法廷判決は従来の判例と反するものではなく共に起訴された共犯者の一人又は数人がその所有者であることが明らかである場合に裁判所の裁量によつてその物の所有者である被告人のみに追徴を命ずることができることを認めただけで、所有者でない共犯者からの追徴ができないとしたものではないと解せられ(前記斉藤裁判官の補足意見参照)、本件のように犯罪貨物の所有権が被告会社にあることが明らかであつても、同族会社であり、その代表取締役として犯罪行為をした被告人吉田一見に対してともにに追徴を科したことは違法でないのはもとよりまことに相当であつて何ら不当の点も存しない。その他所論が指摘する点を、検討しても、所論を肯認することはできない。論旨は理由がない。

なお、控訴趣意第二点は被告会社についての主張であるが、原判示六回にわたる輸入許可を受ける際それぞれ各輸入許可申請書記載の貨物全部についての売買代金合計額の三割相当額の金額が秘匿されていわゆる低価申告がなされ、その都度虚偽の申告価格に対する関税を納付して、右貨物を輸入し、正当関税との差額の支払を免れたものであるが、このような低価申告による関税ほ脱の場合には各輸入毎に輸入貨物全部に対する正規の関税額から納付関税額を控除した額について輸入貨物全部の数量に応じてほ脱犯が成立し、その貨物全部が没収又は追徴の対象となるものと解すべきであつて、所論のように関税のほ脱が何貨物について幾何なされたかは確認できないとか、関税をほ脱した貨物ひいては没収の対象物を特定することができないものではない。右と同一見解に出た原判決には所論のように事実を誤認したとか法令適用の誤りの違法の点はない。また外見上適法な輸入許可を受け、その許可毎に実際には全貨物の価格の七割に相当する関税を納付して適正な関税をほ脱したものであつて、全く関税を納めずに貨物を密輸入した場合に比し全貨物について没収、追徴を科するときは既に納めた関税分まで余分に損失を蒙ることになり犯人に酷に見えるようであるけれども、これは犯人が特に低価申告という不正手段をとつた当然の結果であつて止むを得ない。(尚本件犯行後の昭和四一年法律三六号による改正により追加され昭和四二年法律一一号による改正後の関税法一一八条四項のほか同条全文及び同法律附則第八条参照)又関税法一一八条二項にいう「没収することができないもの又は没収しないものの犯罪が行われたときの価格」とは輸入貨物についていえばその犯罪が行われた当時における国内卸売価格(関税、内国消費税込)をいうのであつて(昭和三五年二月二七日最高裁判所第二小法廷決定参照)、これと同じ見解に出た原判決の科した追徴額にも所論のような法令解釈の誤りの点はない。

しかしながら、原判決のように原判示換価代金及び原判示物件目録記載の物件をその所有者でない被告人吉田一見から没収すると、昭和三七年一一月一八日最高裁判所大法廷判決が示すところで明らかであるように、同被告人に対する附加刑としての没収の言渡により右没収対象物の所有者である被告会社の所有権剥奪の効果を生ずるのであつて、この場合その没収に関して当該所有者に対し告知、弁解、防禦の機会を与えることなくその所有権を奪うことは適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科することとなり、著しく不合理であつて憲法の容認しないところであると解せられるところ、前記の如く被告会社は被告人吉田一見と共に起訴せられ、共同被告人以外の者の所有に属する物の没収手続について規定した刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法の適用せられる場合でないのみならず、前記の如く原審の公判手続には瑕疵がありその第六回以降第一五回公判において結審するまでの各公判(但し第七回公判は期日の変更のみであるからこれを除く)の審理につき被告会社に関してはその代表者又はその代理人の出頭がなかつたものであるから、当該物件の所有者に対し告知は兎も角充分弁解、防禦の機会を与えたものとはいい難いことになる。従つて被告人吉田一見に対する没収の言渡も違法であるといわざるを得ず、被告会社に対する原判決の訴訟手続の法令違反は被告人吉田一見についても影響があり、しかも同被告人に対し右没収が附加刑として言渡されている以上右訴訟手続の違法は同被告人についても判決に影響を及ぼすことが明らかであるから刑事訴訟法四〇一条により同被告人に対する原判決も破棄を免れないのである。(畠山成伸 八木直道 神保修蔵)

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