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大阪高等裁判所 昭和42年(う)369号 判決 1967年11月13日

被告人 中野富二郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人北島孝儀作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。

所論の要旨は、本件録音テープはレコードとは使用目的を異にしているし、

その製作に当つては原判決記載のレコード会社の市販のレコードを使用したが、本件録音テープの性質上右レコード音楽を背景音楽とする立場よりしてその音量等を配慮した技術的特徴を有しており、従つて原レコードの単なる写調、複製とは異り独創的表現形式を有するものであり、又その使用目的も異なるから著作権法に所謂偽作ではない。更に社会の実情を観察しても、音楽レコードをテープに録音して聞くことは永年に亘り公然と行われており、殊に長時間演奏或は携帯に便利という文化向上の要請からしても右音楽レコードのテープ録音は一般的に望ましいことである。而もレコード会社自身自社製テープレコーダーの販売推進のため寧ろこの種テープ録音を推奨しているのであつて、これら実情を無視して本件録音テープを著作権法違反の偽作として処罰するのは正に独善的であり、同時に権利の濫用であり、右何れの見地からみても本件所為は罪とならないものであるというのである。

所論にかんがみ記録を精査し勘案するに、原判決挙示の証拠によると原判決記載の日本コロムビア株式会社等六レコード会社が同判決別表記載の各音楽レコードにつき著作権法二二条の七所定の著作権を有し、その音を機械的に複製するの用に供する機器に写調することができる権限を保持していたところ、被告人において高安幸夫等十数名と共謀の上商社や商店街等の宣伝広告等に使用するため、その需めに応じて発行の意思をもつて、録音機及びその附属器械等を用い録音用磁性テープに宣伝文言と共に、市販された右レコード会社が前記著作権を有する音楽レコードの数枚乃至二十数枚の全部若くは一部を右各会社の許諾を得ることなくして宣伝文言の前後に写調して複製したことは明らかである。

弁護人の右レコードを使用して写調複製はしたが、本件については工夫をこらした技術的特徴があり独創的な表現形式であるから著作権法に所謂写調して複製したものでないとの所論について案ずるに、右複製とは原著作物であるレコードと同一のものをそのまま再製する場合に限らずその枝葉において多少の修正増減があつても人をして原作の再製なりと感知せしめる場合も亦複製たるを失わないものと解すべきであるところ(昭和一〇、五、二四大審院刑事判例集一四巻五六〇頁参照)被告人の当公廷における供述によると、右録音テープは宣伝文言と音楽レコードの部分とは半々或は音楽レコードの部分が約八割に及ぶものもある構成であつて、その音楽部門の比率の大なることは注目すべきところであるのみならず、進んでその音楽部門を験するに原審における検証の結果によれば本件録音テープ(昭和四〇年大阪地裁押五二八号の五、原判決別表295該当)に写調された「若い明日」以下の各レコードは明らかに歌唱者北原謙二、著作権者日本コロンビア株式会社のレコード番号一〇〇の曲題「若い明日」等のレコードに該当するものであることが認められ、而して他の録音テープについても原判決の挙げる笹井美佐緒、茅野義則の検察官に対する各供述調書によるとこれと同一の結果であることが認められるから、所論の如く本件録音テープが商店、商店街等の宣伝広告等に使用するためのものであり、従つてまたそれとの調和を考えて宣伝文言の前後或はこれと重複する部分の音楽レコードの部分の音質、音量等を適宜加減して所論の所謂技術的工夫をこらした特徴があるにしても、それは右レコードの枝葉において多少の修正を施したに止まり明らかに人をして原レコードの再製であり、その趣旨において彼此同一なる程度のものなりと感知せしめる場合であることが認められるから、到底所論の如き独創的著作物であると認めることはできない。原判決が著作権法にいう写調、複製ひいて偽作に当るかどうかの区別は、原著作物の内容と新たに作成された物のそれとの間に同一性が認められるかどうかにあると解すべきところ、本件録音テープ中市販の音楽レコードを使用して作成された部分は、それを聞く人をして明らかに該レコードの再製なることを感知せしめるものであり、従つて両者間には同一性が認められるので本件録音は著作権法の写調に当るといわなければならないと判示したのは右と同一の趣旨に出たものであつてまことに正当である。そして所論の本件録音テープにおける宣伝文言の存在、音楽レコードが普通は鑑賞、蒐集等の目的よりして購入せられるに対し、本件録音テープは専ら商業用宣伝にあるという使用目的の相違は未だ本件録音テープをしてその基礎となつた音楽レコードとは別個の独創的著作物となす程本質的なものといえず従つてこの点が右結論を左右するに足るものと認めることはできない。

次に音楽レコードを録音テープに写調して聞くことが社会に行われているにしても、右が発行する意思なくしてする場合であれば、法律的に訴追等問題となることなくして単なる事実として行われているに止まるからとつてもつて、本件所為を正当化するものでないことは云うまでもなく、却つて原審証人安藤穰によると、社団法人日本蓄音機レコード協会(レコードメーカー各社を会員として成立している)においては発行の意思を以てするこの種録音は著作権法違反との建前より仮令公共の娯楽等のためにする許諾の請求についても一律にレコードよりするテープ録音を拒絶している旨が認められ、他にその許諾なくしてその録音が適法に行われている事実は到底これを認めることはできない。また所論の一部レコード会社においてその製作にかかるテープレコーダーの販売の宣伝広告文中これを使用して音楽レコードを自由にテープ録音することができると受け取られる趣旨の記載をなした事実は認められるにしても、右証人安藤穰の証言によると右広告はテープレコーダーが精巧で原著作物の音楽レコードを迫真的に録音することができる趣旨の広告であつて、同広告を取扱つた広告代理店では右協会の抗議により右広告中弁護人指摘の如く受け取られる可能性のある広告は著作権についての配慮を欠き遺憾であつた旨謝罪をしているの事実が窺われるのであつて、その他所論の社会的実情並にその要請の如きは未だ本件の如きテープ録音につき、音楽レコードを著作権法の保護外におきその権利者の許諾なくして自由にこれが写調複製をなし得べき正当な根拠とはなし難い。その他る述の所論を充分参酌しても原判決の事実の認定、法令の解釈には誤りの廉を見出し得ないから本件控訴は理由がない。よつて刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 畠山成伸 柳田俊雄 神保修蔵)

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